修行開始

 族長と話をしているうちに、こちらの戦力についての話し合いが始まった。

 こちらの戦力は俺にフォト、リュート、ヴァリサさんの四人と、竜の里の村人たちとインフェルノだ。

 今現在把握できる相手の戦力はフォボスだけだ。未知数すぎる。恐らく仲間を連れてくるのだろうが、その数もわからないのだ。ナイアドが仲間を連れていれば多少は対策ができたというもの。おのれナイアド。


「炎竜様が協力してくださるならば何も心配することはないのではないか?」

「そんなわけないでしょう。実際狂わされてたんですから、この後も何かされる可能性はあります。というか洗脳が効いた時点で安心するべきではないです」

「ふ、ふむ。そうか」


 族長の舐めた発言に言及する。インフェルノの戦力は確かにあるだろう。だがそれで一方的な戦いにはならない。向こうはそもそもインフェルノも敵として考えているのだから、その対策も当然してくるのだ。


「戦力、というか人員は今ここにいる人だけなんで、向こうがこちらの人数を越えてくると話が変わってくるんですよ。いくら里の人に竜の加護があっても向こうの方が戦闘経験もあるはずですから、それに対処できなきゃ押し切られます」

「ではどうすればよいのだ」

「短い時間で戦力を増強させるために一点突破する戦力を作ります。俺はまあ、今のままでいいです。覚醒させるなら…………」


 遠くでインフェルノと話をしているリュートの姿を見る。


「リュート、か」

「ええ。さらに上位の加護を手に入れればあいつはさらに強くなりますから」

「さらに上位、だと?」

「ドラゴン……竜には渡すことができる加護が複数あるんです。俺も雷竜から雷竜の加護と、雷竜の魂を受け取りました。なのでこう、電流を走らせることもできます」


 右腕に意識を集め、魔力を流すとバチバチッと電流が走る。加護を受け取ったことで身体が竜と同一の存在になっているのだ。スキルを使わなくても電気を扱うことができるのだ。

 俺はサウンドストーンの効果があるのはこれが原因なのでは? と睨んでいる。だとしても痺れは分からない、片腕だけとかなにそれ。


「そのような祝福…………いや、加護があるとは。どうすれば手に入れられるのだ」

「認められたらですね。条件は竜が決めますから」

「それなら、この状況ですし渡してくれるんじゃないでしょうか」


 横から話を聞いていたフォトが言葉を挟む。


「それはないぞフォト。いくらインフェルノが話ができる奴でも、相手を自分と対等かそれ以上と認めなきゃ渡してくれないんだ。今インフェルノが協力してくれてるのはあくまで里が滅んだあとに魔力を手に入れる手段を探すのが面倒だからだろうし」

「そうですか…………」

「そう落ち込むなって。どうせリュートが認めさせれば済む話なんだ」


 もしインフェルノが頑固な奴だろうと認めさせてしまえばこっちのもの。現時点でリュートの戦力とインフェルノの戦力は僅差でインフェルノが勝っている。

 正直勝てるかは分からないが、そこは頑張っていただかなければ。


「そうと決まればさっさと挑戦させるか。そっちはそっちで準備を進めてください、俺たちは前に出て戦うことになるだろうから、こっちで勝手に戦力増強させますんで」

「了解した。だが報告はするようにな」

「もちろんです。フォト、俺これからリュートとインフェルノに加護のこと伝えに行くけど、来る?」

「い、行きます!」


 こうして、フォボスが攻めてくるまでの間にこちらの戦力を増強することにした。

 短い時間ではあるが、フォトやヴァリサさん、リュートの強化を行おう。もうなりふり構っていられない、俺の『倉庫』スキルも含めてできる全てを尽くしてやろう。


* * *


「無理無理無理無理!!!!!」


 インフェルノに説明したところ、インフェルノが「ワタシニ勝テバ渡ソウ」と条件を出してくれたのだが、それを聞いたリュートが全力で拒否してきた。


「いけるって俺がいけたんだから」

「お前がおかしいんだろ!?」

「いやいや、本当なら戦う前に挑戦するための条件出されたりするんだぞ? 優しい方だって」


 電流を数日間流されたりな。頭おかしいってライトさん。雷鳴の峡谷の連中も頭おかしい。


「だとしても! こんなでっかいのに勝てるわけないでしょ!!」

「そうか、覚悟がないんじゃやめといた方がいいな。困ったな、そうなると別の方法で強化しないとだし…………」


 わざとらしく空を見ながら悩んでみる。


「えっ、いや……それって、必要なの?」

「まあ、やってくれるなら助かるというか、俺たちも安心できるな。竜族が相手だし、こっちも炎の戦士が欲しい」

「……炎の戦士、か。よし、やっぱやるよ僕」

「いややっぱいいよ」

「なんでだよっ!?」


 予想通り、こちらが一度諦めることによって弱気に見られたリュートのプライドが刺激された。

 そして『炎の戦士』というスゴクカッコイイ称号に食いついた。やる気にさせるのが目的ではあるが、あえてこちらから断る。


「お前、本当に覚悟はあるのか? この加護を受け取るには、竜の加護の時とは比べ物にならないくらいの覚悟が必要なんだ。竜の魂を受け取った者は、その竜と同一視される。その魂に恥じぬ戦士になると誓えるのか?」

「それは…………当然誓えるさ。僕は強くなりたいんだ」

「よし。じゃ、戦う場所を決めないとな。流石に山頂まで行くのは面倒だし…………」


 残念ながら世界を創るスキルは持っていないので戦闘フィールドを創ることもできない。

 族長に頼んで木でも薙ぎ払おうかな。と思ったその時、背後の茂みからガサガサと音がした。咄嗟に剣を構えそうになったが、見知った顔が目に入ってすぐに警戒を解く。ヴァリサさんか。相変わらず痴女みたいな恰好をしていて刺激が強い。


「いやーっはっは! 魔獣を倒しに走り回ってたら開けた場所見つけちゃってさー、魔獣いっぱいいたから全滅させてきたよー あれどしたみんな」


 途中で姿が見えなくなったかと思えば、魔獣を狩りに行っていたらしい。しかも開けた場所を見つけてはそこにいた魔獣を全滅させる有能っぷり。流石っす。


「…………決まったな。ついでにそこを修練場にしよう。ヴァリサさんはどうする? これから修行するんだけど」

「いいねー、やろうやろう」

「体力馬鹿だぁ…………」

「誉め言葉だねー」


 確かに体力馬鹿だ。もしこれが早く強くならなければという気持ちからくる言葉ならば体力馬鹿ではなく頑張ってる人なのだが、この人は確実に修行したくてしてる人だからなぁ。俺にはできない。

 改めて常に強くなろうとするヴァリサさんを尊敬しつつ、四人と一頭でその開けた場所に向かうのだった。

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