インフェルノドラゴン

「はぁ」


 火口で起こったことについて村人含め全員に説明をした俺は、ため息をつきながら切り株の上に座った。

 負けた、ね。いつからか決めていた二度と負けないという目標がここで途切れるとは。さようなら俺の連勝記録(数えてはいない)


「え、なんであいつあんなに暗くなってんの」

「勝負に負けたからだってさ」

「それだけ? 馬鹿じゃん。竜を仲間にして魔族撃退したくせに落ち込むとか」


 ヴァリサさんとリュートがコソコソ話をしているが俺には普通に聞こえている。うるせーぞ馬鹿。なんて言葉を発する気力すらない。あ、族長に呼ばれて里の人たちと話し始めた。会議だろうか。

 さて次の目標はどうするか。負けないのはまあ今の状況から当然だとして、どうせだから新しい目標を作りたい。なんだろうか、フォトを守る? いやそれは元々前から決めてたな。


「キールヨ、ナカナカニ人間トハ面白イノダナ」


 竜の里の村人と会話をしたであろうドラゴンが話しかけてくる。

 こちらの口調で怒ることはないので、他のドラゴンに比べれば優しい方なのだが、それでも恐れ多くて話しかけられない村人が多数いる。


「そいつはよかった」

「シカシ、近ヅイテコナイ里ノ者ガイルノハナゼナノダ」

「そりゃそうだろ、里の人たちにとってあんたは神様のような存在なんだから」


 里の人たちにとってのドラゴンは、フォトにとっての俺に近い存在なのかもしれない。

 期待してくれているのだ、フォトは。俺は勇者としてフォトが望む姿になれているだろうか。


「神カ……ソレナラバソノ気持チニ応エナケレバ」

「……だな」


 偶然なのだろうけど、ドラゴンは俺が考えていたことに突き刺さることを言った。

 そうか、やはりフォトの気持ちに応えられるような人間にならないとだよな。勇者として。元勇者だけど。


「そういえばさ、あんたって名前あるのか? 種族とかは?」

「名前ハ無イ。ガ、他の竜カラハインフェルノト呼バレテイタ」

「種族はインフェルノドラゴンか。んじゃ、俺もインフェルノって呼んでいいか?」

「イイダロウ」

「おし、よろしくなインフェルノ」


 インフェルノドラゴン。俺は会ったことがないが、ライト……ライトニングドラゴンから話は聞いている。

 ここの世界のインフェルノドラゴンはこのインフェルノただ一頭なのだ。種族とはいえ、それが名前でも間違いではないだろう。

 どこか別の世界には同じ種族の違った性格のインフェルノドラゴンがいるはずだ。そんな別の人間界の話など俺のようなただの人間には関係の無い話なのだが。


「シテ、キールヨ。貴様ノ仲間ニ里ノ者が居タナ」

「リュートか。あいつさ、加護を欲しがってるんだ。宝石も捧げてたし、渡してやってくれないかな」

「加護、カ。ソレハイイガ、ソレダケノ覚悟ハアルノカ」

「さあ? 戻ってきたら話しかけてくるはずだから確認してみてくれ。覚悟がないならやらなくていい」

「フム、了解シタ」


 中途半端な覚悟で力を受け取ってはいけない。この場合は忠誠心によるものなのでそこまで覚悟は必要ではないが、もっと厳しい条件では本当に覚悟が必要なのだ。

 弱い者が力を手に入れる時には覚悟が必要。フォトに覚悟があってよかったよほんと。あいつの心は間違いなく勇者だ。


「あの……キールさん」

「ん、どした?」


 そんなことを考えていると、フォトがドラゴンの陰から顔を出した。タイミングがいいのか悪いのか、こちらも目をそらしそうになる。

 変に思われても困るので顔を真っ直ぐ見た。どこか申し訳なさそうな顔をしている。フォトのこと考えてたのバレた? クッソ恥ずかしいが。


「その、もう、大丈夫ですか?」

「あー、うん。問題ない。ごめんな落ち込んじまって」


 どうやら申し訳なく思っていたのは勝負に勝ったからのようだ。気にしなくていいのに、なんて思ってしまうがフォトはこういう子だからなぁ。

 しかし勝負とはそういうものなのだ。勝ったら喜び、負けたら悔しい。負けて悔しくないと感じたら、その時は終わりだ。


「いえいえそんなっ!」

「それよりさ、リーナはどうだったんだ?」

「えっと、リーナちゃんは運んでるときにもあわあわしていて可愛かったですねー。でも、転んだらどうしようとか考えちゃってすんごく緊張したんですよ!!!」


 馬車でも興奮していたらしいし、それ以上のスピードで移動したらそりゃ慌てるよな。

 なんならリュートも経験していないことなのだ。リュートを運ぶ……? ヴぉえっ!


「ははっ、でもまああいつ何だかんだ賢いしそこまで大暴れはしてなかっただろ?」

「はい、最後は大人しくしてくれました。いい子ですよね」

「これからいろんなところに連れてってやらないとな……そのためにはまず目の前の敵だ。頑張ろうな」

「はいっ!」


 リーナを連れるようになってから、親にでもなったような気分だ。

 俺自身500年後のこの世界がどうなっているか気になるので、全て済んだら世界巡りとかもよさそうだな。楽しみだ。


「ソウイエバ思イ出シタゾ。昔ニ他ノ竜ガ勇者ガドウコウト言ッテイタナ。ソノ勇者ナラバ倒セルデアロウ?」

「ばっか! 俺一応勇者なの隠してるんだけど!!!」


 まあまあの声量で勇者と言われたので身体が面白いくらいに反応してしまった。ビクンだってよ。魔王と戦った時よりも心臓跳ねたんだけど。


「ソレヲ先ニ言ワネバワカラヌ」

「いやそもそも知らないって言ってたからさ……知ってたのかよ。なんで忘れてんだ」

「正直ドウデモヨカッタノダ。ソノセイデ忘レテイタ」

「どうでも…………そすか」


 あの時、クリム火山に素材を取りに来た時に竜と関わっていればこんなことにはならなかったかもしれない。もしあの時会っていたら、俺はどうしただろうか。加護を貰った? それとも、今みたいに実際にこちらの世界に来させた?

 まあいくら考えてもあり得たかもしれない世界の妄想なんだけど。少しの違いで大きく変わりそうだな。今の状況も。


 なんて考えていると、話が終わったであろうリュートがこちらに緊張しながら戻ってくるのが見えた。


「おっ、リュートが戻ってくるな。じゃ、真剣に聞いてやれよ?」

「任セロ。ガッ! トイカセテモラウ」

「大丈夫なのかそれ」


 不安だがここはインフェルノに任せるしかない。フォトと一緒にその場を離れた。

 すれ違うリュートに頑張れよとだけ言い、族長やヴァリサさんのいる場所に向かう。今から寝ずに戦いの準備を整えるのだ。少し緊張してしまうな。

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