族長

 族長の家。わかりやすく装飾があり、あの模様も多い。ただの付き添いなのに緊張してしまうほどの空気が流れていた。

 リュートが家の中に入り、それに続いて俺とヴァリサさんも入る。

 そして、族長の前で片膝をつく。族長は王様のようにイスに座り、片手を頬に当てている。女か。リュートの母親のように真っ赤な髪だ。族長というわりには若いか? 年寄りと言うほどでもない。


「ブレイスさん。客人です」

「うむ。貴様は下がってよい」

「はっ」


 辺境の集落なのに軍隊みたいだな。いや、辺境の集落だからなのか?

 500年前、いや、500年とちょっと前か。俺はこの集落に来たことがある。あの時は何をしたのだったか、よく覚えていない。ただ何かの素材を取りに来た時に通りかかっただけなのだ。そのために滞在していただけ。


「して、荷物とは?」

「こここ、これでっす」

「ふむ」


 荷物の中に入っていたであろう手紙を取り出す。

 今思い出したのだが、リュートのひいおばあちゃんはどこだろうか。あくまで族長に会うのは挨拶のためだろう。族長用の荷物も持ってきてたっぽいが。


「…………そうか、貴様例の息子か。今更何をしに来たかと思えば……まあいい、本来の目的はここではないのだろう。後で目的地である医療所に案内させよう」

「あ、ありがとうございます」


 リュートのひいおばあちゃんは医療所にいるらしい。ならそこに行って挨拶したらもう用事はすべて終わりだな。


「それで? 約二名無関係の者もいるようだが?」

「あっ、知り合いなんです。クリム火山に来てみたいと言っていたので」

「ほう。名乗れ」

「ヴァリサ。幼い頃にリュートくんと共に修行をしておりました」

「そうか。そっちは」

「キール。よく一緒に戦う仲間だ」


 俺のタメ口に空気がトウガラシのようにピリついた。やかましいわ。

 それにしても威圧が恐ろしい。そんなに偉いのかよ族長ってもんが。俺は地位とか、そういうのに興味がないのに。


「……口の利き方には気を付けよ。次はないぞ」

「はあ。わかりました」

「それで、貴様は何者だ?」


 先程のような注意ではない。本気の威圧が飛んでくる。

 流石は竜の一族、いや、今は竜の部族か。魔力感知を素でやってきやがる。


「はい? いや別に、ただの冒険者ですけど」

「そんなわけがないだろう。その魔力、只者ではない。竜の祝福以上の加護を持っているな?」

「まあそれなりには」


 竜の祝福か。確か……竜の一族が竜と契約して手に入れたスキルだ。

 若い頃に儀式をして、スキルを受け取る。熱いのが大丈夫な理由でもあるだろう。リュートは持っていなかったな。


「ねえ、竜の祝福ってなに」

「それも知らないのかよ。ここの一族が持ってるスキル……加護だ。炎に強くなったり、素の魔力が高くなったりな。お前も一応竜の一族なんだから儀式していけば?」

「それはいい考えだな。リュートよ。していくといい」


 コソコソと話したつもりだったのだが、聞こえていたようだ。

 竜の祝福って耳もよくなるの?


「ええっ? いや流石にそれは……」

「祝福を受けていない者に我らの技を使われるというのも癇に障るのだ。族長命令だと思え、儀式を受けよ」

「は、はいぃぃぃ……」


 うーわ可哀想。俺も儀式がどういうものかは知らないけど、大変なのは知ってるぞ。

 俺はいくつも加護を持っているが、それを獲得するための条件はどれも頭がおかしかった。なんだよ毎日電撃浴びるって。雷竜の加護関係なく普通の雷耐性が上がったわ。


「儀式は今日の夜にでも行おう。空き家があったはずだ、そこを貸し出す。日が落ちたら迎えに行くから、その時間には家にいるように。おい、こやつらを医療所に案内せよ」

「承知しました。おい、リュート行くぞ」

「そ、そうだね」

「それでは失礼いたします」


 こうして、俺たちは再び案内され、医療所に向かうことになった。

 案内人についていき、家から出る。そこからフォトとリーナの二人を加えた。

 村はそこまで大きくはないので医療所はすぐそこだった。流石に邪魔をするわけにはいかないだろう。リュートだけが医療所に入り、俺たちは待機となった。


「中で何を話してたんですか?」

「リュートくんが儀式をすることになったんだよ」

「儀式?」

「竜の祝福……まあ加護だ。それを受けに行くんだとさ」

「! 行きたいわ!」


 ピコーン! と笑顔になったリーナ。この子、好奇心旺盛過ぎないか? マジで守らないと死んじゃうぞ。ああ、執事が言ってたのはこれが理由か。大人しかったら守る機会なんてそんなないしな。


「じゃあ見学だけな。多分だけど、火口に行くだろうから絶対に俺から離れるなよ?」

「任せなさい!」


 そんな会話をしながらリュートを待っていると、ドゴォンと山頂付近から爆発音が聞こえた。

 この村に来てから何度か爆発音は聞こえていたが、今の音が一番大きかった。今夜の儀式、本当に大丈夫なのだろうか。


「ふぅ、やっと終わった……」

「おっ、どうだった?」

「想像よりも元気だったよ。おばあちゃんもいたしね。一応孫、ひ孫だから優しくしてくれたっぽい」

「そうか、よかったな」


 しかし年齢はどのくらいなのだろうか。俺自身そこまで長く生きているわけでは……いや石化していた期間を含めたら結構生きてるな。

 精神年齢的には全く生きていないのだ。長生きって、いいもんなのかなぁ。


「いいもんかよ! 儀式するんだよ!? 絶対死ぬからね!?」

「そんな簡単に死ぬかよ。魔王と戦ってから言いやがれ」

「無茶苦茶言いますね!?」

「まあまあ、とにかく説明されたっていう空き家に行きましょうよ」

「お腹すいたねー、ここの名産ってなんだろー」


 三人はさっさと空き家に行ってしまう。

 楽しんでるかな。火山なんて普段見ないからフォトもちょっと興奮してるし、楽しんでるといいな。

 なんて思いながら、俺たちは貸し出された空き家に向かったのだった。

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