儀式の途中
夜になり、族長に呼び出される。
あ、夕飯はステーキだったよ。トウガラシを使ってていい感じの辛さだった。本来はああやって使うんだよな。今隣で青ざめてる馬鹿がおかしいだけで。
「どうしよう、死んだらどうしよう……」
「お前ならドラゴンくらい一人で倒せそうだけどな」
「なんてこと言ってんの!? ここ竜の里なんですけど!?」
「知ってる。だから覚えとけ。竜ってな、人間の言うことなんか聞かないんだ。こっちのことを下に見てるから」
自分のことを神だとでも思っているのだろう。ここの火竜についてはよく知らないが、少なくとも他の竜はまともではなかった。
なんだ我が眠りを妨げる者はって、寝ぼけて襲い掛かってくるなよ。武力で実力をわからせないということなんて聞かないって。
「まるで竜を知っているような口ぶりだな。貴様やはり何かを隠しているな?」
「別に隠すつもりはないですよ。昔色々あっただけです」
「昔か。竜の一族についても詳しかったな。少し昔話を聞かせてくれないかね」
昔話ね。冒険の話とはまた違う、竜が関係する素材採取の話でもしようか。
「……とある岩山の話です。ここと同じように竜の一族、雷竜の一族がいました。その時は竜の鱗が必要だったので、それを取るために雷竜と戦闘したんです。んで何とか勝って、認められて加護を貰う権利もくれて。まあとにかく、話をした限り竜は強さで判断するそうなんです。気まぐれで助けるだのはあるかもしれないですが」
あれだったな、電流をひたすら浴びてたの。竜の加護以上の特別な加護を受け取る『権利』だったからな。普通にくれよ。
「そうか……もう一度聞こう。貴様は何者なんだ?」
「色々あってこの時代に来た昔の人間ですよ。何かをするんじゃないかと警戒しているようですけど、何もするつもりはありません。まあ、襲われればやり返しはしますが」
「こっちからも何かをしようとは思わない。安心しろ」
「そうですか」
軽く脅してみたのだが、効いたかな。
最初から俺たちのことをどうこうするつもりがないにしても、敵対する可能性を減らしておきたかったのだ。この族長、竜の態度によく似ている。そういう意味での竜の一族?
そんなこんなで、かなり山を登った。もうスキル無しだと耐え切れないほどの暑さなのではないだろうか。
それなりに開けた場所に到着する。そこには装飾がいくつかあり、そこが儀式をする場所なのだろうとすぐに理解できた。
「リュートよ、そこに立て」
「えっ、ここですか? いやでもここすぐそこに溶岩が……」
「立て」
「ハイッ」
リュートが立たされたのは火口への横穴だ。数歩進めば火口に落ちてしまう。
当然初めての経験で恐怖もするだろう。俺だって初めて溶岩を見ていきなりその近くに立たされたらビビる。今は平気だけど。
「これを投げ込んでみよ」
「宝石……?」
「捧げものだ。そうして祈り、心の中で祈り続けよ。どのような言葉でもよい。とにかく竜の一族として戦うことを誓うのだ」
おそらく火口の中心に別世界へのゲートでもあるのだろう。強く祈れば向こう側の世界へ言葉が届く。宝石は貢物だろう。
竜が人間界にいない場合はこのような方法になるのか。興味深い。
「よ、よし!」
リュートは胸に手を当て、深呼吸をする。落ち着いたのだろうか、真剣な表情で宝石を火口に投げ込んだ。
目を閉じ、両手を胸の前で握る。何を祈っているのだろうか。こいつ真剣な時は真面目になるし、しっかり祈ってるんだろうな。僕はこれから竜の一族として戦うことを誓います、とかか。
まあ普通だな。普通が一番。
このまま何事もなく終わることかと思っていたのだが、何やら様子がおかしい。リュートがおかしいわけではない。ただ、地面が揺れているのだ。
儀式の影響ならば気にしなくてもよいだろう。そう思っていたのだが、族長は困惑しながら辺りを見回していた。なら、非常事態か。
これが竜、ドラゴンの影響なのだとしたら大問題だな。リュートのせいでこっちの世界に来たとも取れてしまう。まさかふざけたこと考えたとか? いやそんなまさか。
「おいリュートよ! 祈りを止めよ!」
「………………うぇっ? もう終わりですか」
よっぽど集中していたのだろう。リュートは遅れて返事をした。
なら、ふざけて竜の怒りを買ったってわけじゃなさそうだ。まさか噴火……いや流石にそこまでの揺れではないか。
「貴様何を考えた! このような揺れは初めてだ……」
「え、これ揺れちゃダメなやつなんすか!? 僕普通に誓ってただけっす!!」
「キ、キール……」
リーナが抱き着いてくる。抱き着かれている今の状況ならばもしもの時助けることができる。安心だ。
この揺れが噴火ではないのなら、爆発か。それとも……
「ひゃーっはっはっは!! 飛んで火にいる夏の虫……いや、溶岩にいる、か! テメーらは手始めにオレ様がぶっ殺してやる!」
突然、声が高いところから聞こえた。見上げると山頂付近に真っ赤、いや赤黒い髪の毛にうっすらと鱗のような模様が見える肌。竜族だ。
二本の角が特徴的なその竜族は大きな剣を背負い、笑いながら俺たちを見ていた。あまりの魔力量にニヤリと口角が上がる。
にやけた口元を隠すように手を当てた。それと同時に別のことに気が付く。
「……マジかよ」
そ、そんなまさか……
一人称が、マキシムと被っている!!!!!!
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