調査開始!
時が過ぎるのは早いもので、頑張るという作戦しか立てることができずに調査当日になった。
そもそも作戦の立てようがないのだ、これは仕方ない。森の奥の調査だって? 何を倒すというわけでもないのに何を決めればいいんだ。
「森の奥と言えば、精霊が居たな」
「精霊ですか?」
ハニビーネの森を歩きながら会話をする。
森の奥には泉があり、そこに精霊がいたのだ。いや、いたというのはあまり正しくないか。正確には、四大精霊の一人がいる。
火、風、水、土。その代表と言える精霊が、魔力が多く神秘的な場所に現れるのだ。ハニビーネの森奥地にも精霊が居たはずだ。
「ああ。ってか、精霊知らない?」
「確か精霊使い様が扱う生き物ですよね?」
「精霊使い? なんだそれ」
なんとなく理解はできるが、あの頑固な精霊が人に使われる立場に付くとは思えんな。
「精霊の力を借りて魔法を自在に強化する魔法使いのことです。似た戦い方をする人はいなかったのですか?」
「いやぁ、大精霊がそのまま戦ってくれてたから何とも言えないなー。精霊を使うってのは同じだけど」
「精霊が戦うんですか!?」
「おう。大精霊が精霊を使ってばーーーっとな」
四大精霊の下に付くのが大精霊、そしてその大精霊のさらに下に付くのが精霊だ。
俺はよく大精霊と協力して戦っていたものだが、魔法を使えるようになるみたいな精霊はいなかったぞ。ついでにあっても強化とか、そのくらいだ。あ、もしかして俺精霊使いなんじゃね?
「知りませんでした……」
「勇者の歴史とかに載ってないの?」
フォトが俺について調べた書物に記されているのではないかと思い聞いてみた。
「いえ、大昔は精霊が自ら姿を現したと書かれているだけで、どのような存在だったかまでは……」
「ほーん、まあ歴史ってそんなもんだしな。残ってないなら残ってないか」
500年前だって似たようなもんだ。大昔の遺跡を探索してこい、なお情報はない。みたいなトンデモ依頼とかもあったし。大昔の遺跡なら少しくらい情報あるでしょ……
「おーい、二人共見てよ! これ、魔獣がいた形跡かもしれない」
「ヴァリサさん先行きすぎでしょ……」
ちなみに、ヴァリサさんとフォトと俺の三人で調査している。もちろん他の人もいるが、班が違うだけだ。
ヴァリサさんが一人でずんずん行ってしまうので、俺とフォトの会話は聞かれていない。
「どこですか?」
「ほら、ここだよ」
ヴァリサさんが指差した場所は、崖にある洞穴だった。
そう、マキシムとミニムが住んでいた場所だ。そこをヴァリサさんが魔獣がいたと勘違いしている。
面白すぎるだろ。
「あれ、ここって……」
「くふっ、く……くくっ」
耐えきれず笑ってしまった。フォトの後ろに隠れて笑っているのでバレてはいない。
「この不自然に削られた壁、地面のシミ。魔獣の住処か……? 二人はどう思う?」
真面目に考察しているけどここにはもう誰も住んでいないんだよね。
壁が削られてるのは擦れるのが痛いからだろうし、地面のシミは飲み物でもこぼしたんだろうな。
「そ、そうっすね。でかいのとちっこいのが住んでそうですね……くくっ」
「くふっ……って、キールさん! からかっちゃダメです!」
「フォトも笑っただろ……」
「はあ? どういう意味だい?」
「ああ、えっとですね」
俺はマキシムとミニムについて話した。同時にここがハンターベアが出た場所だという確認もできたので、意味のある情報共有だ。
「なるほどね。ここにハンターベアが出たんだ。確かにそれは珍しいね」
「だよな。人の多い場所には降りてこないのが普通なのに」
魔獣は学習する。人の多い場所に行けば殺されると知っているのだ。それなのにここまで来るということは、操られているか、ただのバカか。
「もっと奥だと、この崖の向こうか?」
「この奥には泉があったね。魔獣は近寄らないからそこに行く意味はなさそう」
「神聖な場所だからな」
泉の精霊がいる場所には神聖な魔力が満ちており、魔獣も魔物も寄り付かない。精霊のいない泉なら魔獣が飲み水として利用しているかもしれないな。
「森の奥……初めて行きます」
「奥はただの森じゃないからな、楽しみにしておけよ」
「はいっ」
崖を沿うように歩き、向こう側まで行く。奥に行くにつれて、雰囲気も変わってくる。
木の色は濃くなり、さらに暗く、だが光るキノコや山菜によって道はほんのり明るい。そんな幻想的な場所だ。
しかし綺麗な場所のわりに魔獣や魔物が多く危険だったりする。人間がめったに来ない場所で、尚且つ空気中の魔力も多いことが原因だ。
「わぁ、綺麗ですね……」
「ばかっ! それ魔物だぞ!」
「えええっ!?」
フォトがキノコの魔物に近づいて行ったので、急いで倒した。『スラッシュ』相変わらず使いやすいな。スキルの方が絶対使いやすいのに、なんで衰退しちゃったんだろ。
「ふぅ、今のはキラメタケだ。他の光ってるキノコに紛れて隠れてるから気を付けるように」
「はい、気を付けます!」
森の奥に来て初めての魔物との戦闘だった。まあこれでフォトも気を引き締めて調査をするだろうし良しとしよう。
「へぇ、今のに気づくんだ。キールってやっぱ強いよね」
「そっちこそ。気づいてて教えなかったろ。性格悪いぞ」
「ありゃ、バレてたかー」
ヴァリサさんは俺よりも先にフォトがキラメタケに近づいていくのを見たはずだ。俺が気づいた時には、表情一つ変えずにフォトの様子を見ていた。
「き、気付いてたんですか……」
「まあ、あのくらい対処できなきゃ戦って稼ぐとかできないからさ。フォトちゃんの実力を見てみようかと思って。ああ、もちろん危なくなったら助けるけどね」
「すみません……」
「そんな弱気になるなよ。あれ、俺がやらなくてもギリ勝てただろうし」
フォトの頭を撫でながらそう言う。
「そ、そうですね。あのくらいなら何とか……」
「…………それ本当? 確かに反応できれば倒せたかもだけど」
「フォトには咄嗟に斬れるようにいつも教えてるんで」
正確には抜刀スキルを教えている、だけどね。
抜刀スキルなら未完成でもそれなりの速度で対応できる。フォトに教えているスキルは全てスピード系のスキルだ。
フォトには攻撃を受けずに斬る、というスタイルが向いているからな。別名『当たらなければどうということはないスタイル』ダサいね。
「この先から魔獣が出始めるかもしれないから、気を付けて歩くようにね」
「了解」
「分かりました!」
ヴァリサさんからの指示を受け、森の奥を歩く。
今回はあくまで調査だ。怪しい何かがないかを調べる。簡単だ。さあ、先を急ごう。
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