泉の精霊
森の奥に進むにつれて魔獣が現れるようになった。ハンターベアやフォレスネークなどだ。フォレスネークと名前を付けた奴に是非とも「面白くない」と言ってやりたいところだが、500年前から呼ばれていたので多分もう死んでるんだろうな。
「た、倒せました……」
フォトがハンターベアを一人で倒す。『神速』を使わずに『スラッシュ』だけで倒したので、ヴァリサさんにはただ剣で斬っただけに見えただろう。
「さすが。やっぱ成長してるな」
「ハンターベアを単独で討伐。ハードプラントも一人で倒したそうだし、フォトちゃんはすぐに上のランクになるだろうねぇ」
「ありがとうございます!」
ダイヤランクのヴァリサさんからここまで褒められたんだ。フォトと相性のよさそうなスキルを教えたら、後はもう俺がいなくても……
ああ、そうか。それで俺の役目も終わりか。なんかもっと長い時間がかかると思ってたな。
「それはいいんだけど、キールの強さが分からないな」
「キールさんはすっごく強いんですよ!」
「フォト、落ち着いて」
確かに強いだろうけど、俺が主役となって討伐したりするのはあんまりよくないの。俺は冒険者としてこそこそ生活するよ。
「すっごくって、どれくらいなの?」
「えーっと、勇者様くらいです」
「はははっ、それは確かにすっごく強いね」
「…………そっすね」
そっけなく相槌を打つ。この話題に踏み込んではいけない。俺は『索敵』を発動させ二人の会話に相槌を打つ機械になることにした。
「それでですね、勇者様はですね」
「ほうほう。あたしも知らない知識だ」
フォトの勇者様自慢が止まらない。俺も忘れかけていたこととかも知ってやがる。砂漠の国に井戸を作った話とか懐かしいな。
ぶっちゃけあれは飲み水が確保できなかったから井戸作ったら国も助かっちゃいましたって内容なんだけど、未来では美談になってるねこれ。真実はフォトには伝えないようにしよう。
「まあまあ魔獣倒してるし、お金もたくさんもらえそうだな」
「はい、キールさんと半分に分けますが、それでも結構な額になります!」
もう俺専用のベッドも用意しちゃったし、フォトの家を出て宿屋に泊まる、なんてことは今後ないんだよな。買いそろえる道具も魔力を回復するポーションとかだけだし、お金がかかるのは剣や防具の修理だけ。
もしかして、冒険者って安上がりなのでは?
「へぇ、同額なんだ。ならキールももっと戦ったらどう?」
「フォトの能力向上もかねて戦ってるから、俺は必要最低限しか戦わないんだよ」
「うーん、やっぱり実力が分からない……変わってるなぁ」
「と、泉が見えてきたぞ」
詮索される前に話題を変える。泉が見えてきたのだ。相変わらず森の奥は変わっていない。懐かしいな、森に籠った時はここで寝てたっけ。
「…………なんだこりゃ」
「水が濁ってるね。こんな泉見たことない」
泉の水は泥で濁っており、昔のような神聖な雰囲気がまるでなかった。
ヴァリサさんも見たことがないと言っているので、この泉に何かがあったと考えるべきだろう。
「普段はどんな感じなんですか?」
「水が透き通ってて、底まで見えるんだ」
「詳しいね、来たことがあるんだ?」
「ええまあ、ずっと前に」
ハニビーネの森の泉なんて旅を始めてすぐの頃に行ったっきりだぞ。しかし世界中の精霊の泉は繋がっている。知り合いの精霊に話しかけてみるか。
『あー、ドロップ。いるか?』
それなりに話したことのある大精霊に話しかける。が、返事は帰ってこない。ここにはいないか。
それに他の大精霊もいない。珍しいな、やはり泉の様子がおかしいのが原因か。
それなら精霊王に話しかけてみるか? いやでもなぁ、代わりに何を要求されるかわからんし……
精霊精霊って言うけど、実は悪魔みたいな奴らなんだよな。見返りがないと協力してくれない。それは目に見えない精霊だって同じだ。
精霊使いは多分魔力を吸われてるんだろうね。いいように使われてら。
「くっ、魔物まで来るとは」
ヴァリサさんが本来泉の周りには寄り付かない魔物の相手をしてくれている。泉の周りを調査するとは言ってもねぇ、わかることなんて何もないし……
『たす…………けて……』
「……! 今のは……」
「どうしたんですか?」
「いや、ちょっとなんか聞こえてさ」
脳内に響くような声、精霊のテレパシーだ。俺に向かって使われたもの……ではないか。ドロップの声とは違ったし。
咄嗟に全員に聞こえるように無差別にテレパシーを使ったか。
緊急事態だ、仕方がない。精霊王に話しかけよう。泉に向かいテレパシーを送る。
『スールス! 何があった! おい返事しろ!』
『ぬ、我に話しかける者がおるとは。貴様は誰だ……』
すると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。精霊王は全ての泉から話しかけることができる。
大精霊は全ての泉を移動できるが、どこからでも話しかけることはできない。
『聞こえるな? 勇者だ。ハニビーネの森の泉の様子がおかしい』
『勇者だと!? 生きておったのか!?』
「どしたのキール、泉なんてずっと見て。狂った?」
「そんなわけなくない? いや、なんかいないかなって」
ちなみにだが、他の人から見たらテレパシーをしている人は一点を見つめて集中する変な人だ。使うときは気を付けようね。
『俺の話は後だ。ハニビーネの森だぞ、わかるな?』
『分かった、今向かおう。そこで待っていろ』
さて、精霊王がこちらに向かってくるまで泉を守らなくちゃな。
「フォト、精霊王を呼んだ。しばらく経ったら来るはずだからそれまでここで待つぞ」
「精霊王が!? わ、わかりました」
小声でフォトに指示を出す。
「どっか他のとこさがそーよ。ここ何もないしさ」
「いや、もう少し調べたい。いいか?」
「さ、賛成です。まだ調べていない場所もありますから」
「そう? ならもうちょっと調べよっか」
ちょっと不自然すぎたか? でも今はここで待たないといけない、ヴァリサさんには悪いがここで待たせてもらうぞ。
なんて考えている間に魔物が集まってくる。魔物の相手をしながら精霊王を待つのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます