精霊王スールス
スールスを待つこと数分、泉が輝きだした。
精霊が精霊回廊を通って移動してきた合図だ。まもなく現れるだろう。
「な、なんだ!?」
「あれが……」
光り輝く泉から出てきた青い精霊に二人が驚く。水のような髪の毛に、露出の多い服と髪の装飾。こいつほんと宝石好きだな。
おっとそうだ、勇者と呼ばれてしまっては台無しだ。知らせておかなければ。
『スールス。俺を勇者と知らせていない者もいる。初対面という設定で話せ』
『ぬ、そうか』
フォトと二人だったら勇者呼びでもよかったんだけどな。ヴァリサさんだしな。
上と繋がりがあるであろうダイヤランクに知られたら面倒ごとは避けられないだろう。フォトにも影響が出る。
「我が名は精霊王スールスだ。異変を感じ参上した」
「せ、精霊王、ですか……!? あ、あたしがヴァリサで、こっちがキールとフォトです」
「んで俺達はその異変を調べに来た。協力してくれ」
「なっ!? おい、伝説の精霊王の前だぞ、少しは言葉遣いに気を付けてだな……」
小声でヴァリサさんに注意される。おっと、そうだったそうだった。一応精霊王だしな。
「ああ、わかった。協力しようではないか」
「わかった!? え、協力してくださるのですか!?」
「むしろ貴様らが私に協力するのだ。様子を見るに……魔物が暴れておるな。大精霊も近くにはいないか」
スールスの探知でも大精霊は見つけられないか。泉から離れた場所に原因があると考えるべきだ。
そして、その原因は数日前からあることになる。立ち去っていても、何かしら痕跡があるはずだ。
「それで、俺達は何をすればいいんだ?」
「何かしら原因があるはずだ。怪しいものがあったらすぐに知らせよ」
知らせるか、でもスールスと一緒に行動するのはさすがに大変だぞ。戦闘能力は確かに高いが、助けたのだから宝石をよこせとか普通に言ってくるからなこいつ。今は緊急時だから仕方がないけど。
『テレパシーで知らせるのだ、勇者がいれば離れていても大丈夫だろう』
『なるほどな。あと、こっちのフォトにもテレパシーを使えるようにしてくれ。こいつは俺の正体を知ってる』
『承知した。おい、フォトとやら、貴様に我へのテレパシーを許す』
「うええっ!?」
承知した、の後からフォトへのテレパシーを送ったのだろう。突然脳内に響いた声にフォトが飛び跳ねる。
「どうしたのフォトちゃん」
「い、いえ、なんでもないです……」
『テレパシーだ、今は個々の三人で口に出さずに会話ができる』
『そうなんですか……やってみます!』
ちなみにだが、このテレパシーは人間同士では使うことができない。一度精霊を通して会話をしなければならないのだ。だから、人間と二人でテレパシーはできない。今みたいに精霊との三人じゃないとな。
「行くとすれば森のさらに奥だな。他に人間がいるようだがこれは誰だ?」
「あたし達以外にも調べている人がいるので、その人だと思いますね」
「む、そうか。それでは人間を見つけ次第捕まえる、という作戦ができぬではないか」
こいつ相変わらず特に考えずに解決させようとするな。確かにそれが一番簡単だし効果的なんだけどさ。俺も力でごり押してたし。
「二組に分かれるとして、私がフォトと、だろうか」
「戦闘はするんすか」
「してもいいならしてやってもいいぞ。だがまあ、対価は貰うが」
ですよねー。だとするとフォト一人だと危険だ。スールスが俺と組む、という流れか?
いや、そうなるとフォトとヴァリサさんの二人になってしまう。戦力的には大丈夫だとしても、女の子二人ってのはさすがにな。
「よしじゃあスールスはヴァリサさんとだ。ヴァリサさんなら一人で倒せるだろうし。んで、後は俺とフォトだ」
「はいっ!」
「ヴァリサだったな。よろしく頼むぞ」
「は、はひっ!」
あ、やっぱフォトとヴァリサさんに組ませたほうがよかったかな。ヴァリサさんめっちゃ緊張してるよ。
まあそうだよな、精霊ってこの時代だと精霊使いが使ってる奴だろうし、精霊王とか大精霊は伝説だもんな。
俺もスールスも500年後に伝説になっているとは思わなかった。俺の成したことが伝説になって広まってるのは、何度思い出しても気分がいいものだ。
お互いが見えるくらいに横に広がりながらしばらく歩く。何度かテレパシーで会話しているが、昔話などはしていない。今は森の危機なのだ、そんな話は後でいい。
数体の魔物を倒したところで、違和感を感じる。そして、音に気づいた。
「ん? なんか聞こえないか?」
「音ですか?」
何と表現すればいいのだろうか、キュインキュインと、聞いたことのない音が聞こえてくる。
その音は次第に大きくなっていく。スールスに知らせよう。
『スールス、変な音が聞こえる』
『こっちでも聞こえてきたぞ。なんだろうな、不安になる音だ』
『確かに不気味な音ですけど……不安、ですか?』
『不安、というよりも胸がざわつくって感じだな。フォトは何ともないのか?』
『はい。胸のざわつきもありません』
おかしいな、俺は気持ち悪くなってるのにフォトはケロッとしている。
スルースも苦しそうだ。この音に何か効果があるのだろうか。
『ヴァリサにも確認した。ヴァリサも特に変化はないらしい。私とキールだけか』
『一旦集合しよう。全員で向かうぞ』
一旦全員を集合させる。音が原因なら、魔物や魔獣が大量にいるかもしれない。
全員が気を引き締める。俺とスルースは本調子が出せないかもしれないが、それでもある程度は戦えるだろう。謎の音の正体を確かめるために、俺達は森の奥を目指した。
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