立場の変化

 起きたヴァリサさんに精霊王が全部何とかしてくれたと説明し、宝石をギルドに渡し、ドロップに質問攻めをされた次の日。俺はフォトと一緒にギルドに呼び出された。


「おっす、何の用?」

「昨日の成果として二人に報酬を渡すんだにゃ」

「うん、でもわざわざリンクスが呼ぶってことは理由があるんだろ?」


 報酬を渡すだけならばリンクスじゃなくてもいいのだ。


「そうにゃ、また裏に来るにゃ」

「ま、またですか?」

「よしきた」


 いつものようにカウンターの裏にあるドアに入り、部屋に向かう。

 そしていつもの席に座り、お茶を出された。お茶うめー。


「あの宝石についてにゃ」

「まあそうだな。何かわかったのか?」

「あの宝石ですか……」


 預けた時に聞かされたのは、あの宝石がサウンドジュエルという名前の宝石だということ。

 魔力を送り、台の上に乗せれば刻んだ音を鳴らすことができる。


「まず、台座の下にはマグネストーン……サウンドジュエルを浮かせて鳴らすための石がはめ込まれていたにゃ。台座自体はただの装飾で何の効果もないにゃ」

「ああ、宝石単体じゃ鳴らなかったもんな。余計な情報が増えなくてよかった」


 俺がそもそもサウンドジュエルって物を知らなかったんだよな。今の技術だと宝石から決まった音を出せるらしい。本来は音楽を聴くために使うとか。


「そのマグネストーンを使って実験をしたんにゃけど……言われた通り魔獣は魔物のように凶暴化し、魔物はさらに強化され凶暴化したにゃ」

「精霊じゃなくてもいいのか。ってことはやっぱその音が原因だと?」

「そういうことにゃ」


 精霊を使うことでしか発動しない、ってわけじゃないのか。

 だとしたら精霊が気を付けても他の魔族や妖精がターゲットにされる可能性もある、か。犯人が分からない以上今は気を付けることしかできない。


「今回の調査の収穫は大きいにゃ! 浮いているサウンドジュエルを外せば解除できると知れたおかげで次から対処ができるようになったにゃ」

「犯人が誰か分からないってのがなぁ……分かれば直接ぶっ潰しに行けるのに」

「それはそれとして、次は報酬の話だにゃ。二人共、ギルドカードを出すにゃ」


 言われた通りギルドカードを提示する。

 テーブルの上に置き、リンクスに渡した。そしていつものようにスタンプを押し……!?

 スタンプを押した途端、ブロンズだったギルドカードが銀色に変わった。さらに報酬金も支払われる。


「おおっ、もうシルバーランクか。サンキュー」

「シ、シルバーランクだなんて……わたしにはまだ……」

「ブロンズランクにした時と同じく、今回も特別にランクアップするにゃ。暴れる魔獣の原因解明に加え、魔獣を複数体討伐。十分すぎる理由にゃ」


 妥当だな。むしろさっさとゴールドランクにしてほしいくらいだ。


「そういや、ヴァリサさんはどうなるんだ? ダイヤランクだったよな、やっぱさらにその上とか?」

「いや、普通にボーナスポイントだけにゃ。ダイヤランクの冒険者が魔獣を複数体討伐するのは当たり前なのにゃ。むしろ気絶で減点したいくらいにゃ」

「手厳しいな」


 まああれは想像以上に強化されていたハンターベアに焦り攻撃を受けてしまったのが原因だからな。ヴァリサさん、攻撃力強化の魔法をあまりかけずに戦ってたらしい。

 強化されたハンターベアの戦闘能力を侮ったのだろう。魔法は使ったらだるくなるらしいし、使用は最低限にしたかったんだろうな。

 本人は次からは最初から全力を出すと悔しそうに言っていたので次からは安心だ。多分。


「わたしにシルバーランクの実力が……あるのでしょうか」

「まーたそれか。実力的にはゴールドランクでもおかしくないんだぞ。お前もそう思うだろ? リンクス」

「その通りにゃ! もっと自信を持つにゃ!」


 なぜかハムスターが頭に浮かんだ。なんでだろうな。へけっ。


「わたし、頑張りますっ!」

「うんうん。その意気にゃ」


 両拳を身体の前に出してぐっとポーズをとるフォト。可愛い。リンクスも見た目は可愛いからこの空間が可愛い。つまり俺も可愛い。違うか。違うな。


『いい子だねー、勇者には勿体なくない?』

『わかるわー』

『否定しないんだ!?』


 水の魔石の中に入っているドロップがテレパシーで話しかけてきた。急に来るからビビるんだよな。あくまで出てこれる場所として登録されているだけだから、いないときはほとんどいないし。


「まあそういうわけだから、お試しでシルバーの依頼受けてみるといいにゃ!」

「そうだな。シルバーだと危険地帯での採取とかもあるし、そういうのもいいかもしれない」


 そういえば、マキシムとミニムは危険地帯でどうやって採取するんだろうな。やっぱ戦える冒険者と組んで採取の技術のある人が採取するのだろうか。

 なんかそうっぽいな。昔もそういう感じで採取してたし、時代が変わってもやることは変わらないってか。


「それじゃ報酬金とランクアップ、ありがとな」

「ありがとうございますっ!」

「にゃはは! どうせだから酒場にもお金落としてにゃー!」


 ああ、あの酒場って冒険者協会が運営してるんすか。儲かってますね。

 しかし金かぁ、旅の途中にも金は山ほど手に入ったが使い道が武器や食料だけだったな。

 豪遊とかもしてみたいが、やりたいことも思いつかんし。とりあえず腹いっぱい食えればそれでいいや。


「にしてもこんなに稼げるなんてな」


 俺がギルドカードに書かれている金額を見ながら酒場に出ると、多くの冒険者が俺たちのことを見てきた。

 まずい、むやみにギルドカードは見せるもんじゃないな。だがどうせ依頼の達成で取り出すのだ、いずれ知れ渡る。


「おい、あれ……」

「ああ、最近入った……」


 予想通り冒険者らしき人たちがこそこそ俺達の話をしている。

 残念、無視すればやつらは勝手に黙るさ。俺達は正当な理由でランクアップしたのだ。

 さあ、あんな奴らは無視して依頼を探そう。

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