圧倒
溶岩に突き刺さった『テラフレイム』により起こった地震。
その地震と共に溶岩が噴き出す。噴火か!? とも思ったが噴火の勢いとはまた違う。何かが勢いよく出てくるような、そんな噴き出し方だ。噴火のように大規模なものではない。
「さあ来たぜ来たぜ! 獄炎竜の降臨だァ!」
「…………ドラゴン!」
何かを取り巻く炎や黒煙が無くなっていく。獄炎竜、それがここの竜か。
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
炎の中から現れた竜は、真っ赤な目を光らせながら辺りを攻撃し始める。どう見ても正気ではない、一般的な竜、ドラゴンは知能があるのだ。ここの竜も里の住民が加護を受け取っているのを見るに知能はあったはず。
「おいどういうことだ! どうして正気を失っている!」
「そりゃオレ様が狂わせたからな。本当は紅の竜玉を使って洗脳する予定だったんだけど、用意ができてねぇんだ」
「なんて迷惑な……チッ、やるしかないか」
竜玉、ね。適性がなかったから俺は手に入れようとはしなかったけど、竜の適性がある者が使えば力を底上げすることができるとか。洗脳魔法を強化して使い、さらにそれが竜相手ならば効果が強くなり操れる、ってとこかな。
とにかく暴れてしまったのなら倒すしかない。明確に相手の味方になったわけではないので殺すわけにはいかないか。
「『攻撃強化』『神速』」
「ッ!? 速いな、だがその程度なら見えるぜ」
「らっ、ああああああ!!」
剣と剣が交わり、衝撃波が走る。重い一撃、あの時と同じく単純な攻撃力は俺の方が高い。
しかし顔の前で真っ赤に光る炎の魔剣は、俺の剣をはじき返した。フランベルジュ、熱を持った剣だ。
火が俺の剣に伝う。燃えるはずがない鉄が燃え、斬撃が空中に炎として残る。厄介な剣だ。火山で、使い手が炎の魔族ならばここまでの効果が出るのか。
「…………テメー、熱を感じねぇのか?」
「そんなわけあるかよ、普通に熱いわ」
剣から伝わった炎は俺の全身を燃やしている。
正直熱いが、いくつかあった加護や耐性により熱をそれほど感じないのだ。熱くは感じる、火傷する寸前くらいの。だがそれ以上は感じないし、ダメージも負わない。
「身体が燃えて熱いって……そんな、そんな奴いるかよ! オレ様の炎に包まれた相手は誰であろうと燃えカスになるんだぞ!」
「そうかよっと」
「グオオオオ!!」
ドラゴンによって辺りに炎が撒かれる。消えることなく燃え続ける。魔力を使ってしばらくそこにとどまり続けるそれは、戦闘において圧倒的に邪魔な存在になっていた。
いくら炎に耐性があるからと言っても魔力の塊であるブレスを食らえばひとたまりもない。今燃えている炎は武器の効果だったためそれほどダメージがないだけなのだ。
「『魔力開放Ⅰ』」
本気を出す必要がある。そう判断した俺は、全身に魔力を巡らせる。『魔力開放Ⅰ』魔力の限界を突破するスキルだ。このスキルを発動させるためには、一分ほどチャージする必要がある。
「っ、なんだそりゃ。ピカピカ光りやがって。だりゃあ!!」
「…………」
「へぇ、随分集中してんじゃねぇ……かァ!」
「…………」
キッと睨みながらチャージを終える。もう終わったか。よし。
今から目の前のお喋り魔王をぶっ倒してやろう。『魔力開放Ⅰ』それは一時的に魔力を放出し、スキルの練度を高めるスキルだ。謎の痺れが右腕に走る。くそ、またか。だがこれくらいなら支障はない。
全身の魔力が常に高速で動くので身体能力も跳ね上がる。弱点は魔力の消費が早いことだ。短時間での決戦をしなければ魔力切れを起こしてしまう。
それ故に。
「んなッ!? おい、なんだよその魔力……!」
身体の周りに薄い魔力の壁が出来上がる。常に外に魔力が出ることによる障壁だ。
『神速』を発動させ、フォボスの元から離れる。練度が高まった『神速』は音速に達しているため。移動しているだけでヒュンヒュンと裂けていく空気の音が聞こえてくる。
「グオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
「まずは……お前からっ!」
移動しながら剣を鞘に収め、拳を構えた。
ドラゴンの足元に潜り込み、勢いよく飛び上がる。
「『バーストブロウ』!!!」
「グガアアア! ゴオオオオオオオオオ!!!」
ドラゴンの顎の下からアッパーを食らわせる。『バーストブロー』、『ブラスト』の派生スキルだ。『ブラスト』に比べて大きく攻撃力が上昇するが、体術スキルのカテゴリに入るため、剣を持っている状態だと発動させることができない。
ここがスキルのややこしいところである。剣が必要なスキルもあれば、剣を持っていては発動させられないスキルもある。魔法ならばそんなの関係なく使えるんだろうな。
「ワ、タシハ……ナニ、ヲ……」
「そこで寝てろ。後で説明する」
正気を取り戻したドラゴンが言葉を発した。気絶寸前なのだろう、手加減しなかったからな。むしろよく気絶しなかったなおい。
「どりゃああああ!!」
「はあっ! せいっ! やあっ!」
剣を抜き、背後から斬りかかってきたフォボスの剣を弾く。隙だらけになった腹に剣を――――――
痺れるような激しい痛みが右腕を襲った。剣を落としそうになるも、何とか耐える。今から剣を使ったら避けられる、そう判断し腹に蹴りを入れ遠くまで吹き飛ばした。
逃げられる前に仕留めたかったんだが、蹴りじゃ威力が足りなかったか。
「グゥ……! クソッ! なんでだ! なんでテメーみたいなやつがここにいる!」
「教えるかよ、んなこと」
「…………! 分かったぞ、勇者の子孫だな……?」
惜しい、勇者本人だ。
「へへっ、そうなりゃ話は別だ! またすぐに殺しに来てやるよ! それまで振るえて待っとけ!」
そう捨て台詞を吐いたフォボスは、二度目の転移を使い消えてしまった。
「おい待て! くっ、逃げられたか」
反撃されないように遠くに飛ばしたのは失敗だったか。『神速』で一気に距離を詰めたのだが、あと少しのところで間に合わなかった。
あの転移の速さは厄介だな、危なくなったらあれで逃げればいいのだから、こちらにハンデがありすぎる。
仕留め損ねたが、傷は与えた。フォボスにはまだ何か策があるらしいので、まだプレクストンに帰ることはできなさそうだ。
まずは今目の前にいるドラゴンとの話だ。ドラゴンが味方になればこちらが有利になる。最も、助けたことだけでは味方にはなってくれないだろうけど。
さ、二度目の交渉だ。
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