報告をしよう!

 ギルドに到着する。依頼主のサインが書かれた依頼書を受付に渡す。

 受付さんが依頼書に赤いスタンプを押し、依頼達成。初めての依頼だったが、思ったよりも苦戦したな。


「はい、これで依頼は正式に達成されました。ギルドカードを提出してください」

「えっと、二人で達成したんですけど。この場合はどうすればいいですかね」


 ギルドカードを渡しながらそう言う。冒険者ポイントの受け取り対象が一人だけだった場合俺はほぼずっとノーマルランクのままになってしまう。

 いや別にフォトだけが受け取ってもいいんだけどさ、ランクが上がらないとサポートもできなくなるし、流石に最低限お金がないと宿に泊まれないしで困るんだよね。ノーマルランクは報酬少ないらしいし。


「冒険者ポイントはお二人に同額入ります。報酬金は、そのままでお二人でお好きに分けてください」

「よかった。ポイントはもらえるんですね」


 採取の報酬なんてたかが知れている。しかもギルドに何割か報酬金が入るのだ。俺達にはいくら残るのだろう。宿代が欲しい。


「報酬金が10000Gで、ギルドポイントは30Pですね」

「10000G……まあまあ多いな」


 10000Gって言ったら、宿屋に数泊できる金額じゃない?

 いや俺の時代の話だから値段は変わっているかもしれないが、それでも当時の考え方なら一日でこの金額なら普通に生活できる。ハチミツ採取するだけでこれか。いや正確には採取してないけど。


「あっ、ハンターベアを倒したんですけどいいですか?」

「ええ!? ハンターベアを倒したんですか!? ええと、はい。確かにハンターベアですね」


 フォトがハンターベアの身体の一部を切って持っていけば討伐報酬がもらえるということで持ってきたのだが、驚かれるほどなのか。

 切り取った爪だけでハンターベアだと分かったのはそういう魔法? スキルにも鑑定はあったから、それと同じかな。


「確か、ハニビーネの森でのハチミツ採取でしたよね。本当にハニビーネの森にハンターベアがいたんですか?」

「まあ。珍しいなとは思いましたけど」


 珍しいがありえない話ではない。俺の時代でもハンターベアが森に、さらには人里に降りてくるなんて事件は起こっているのだ。


「分かりました。回収に向かわせますね。ではギルドカードの返却です。ハンターベアの討伐報酬は後日に行うのでまた明日来てくださいね」

「ありがとうございます!」

「どうも」


 ギルドカードを受け取り、ポイントを確認する。30P。なるほどね。わっかんね。

 これが少ないのか多いのかもわからない。話ではほとんどがブロンズランクで止まるという話なので、ブロンズランクまでは楽に上がれるのだろう。


「一旦休憩するか」

「ですね」


 酒場に繋がっているためイスは大量にある。食事をするわけではないが、ギルドメンバーとして一休みするくらいなら許されるだろう。


「どうするよ、お金」

「わたしは何もしていないので……」

「いや、壊れたハチの巣見つけたじゃん。もうここで全部決めちゃおうぜ。毎回お金の配分考えるの嫌だし、ずっと半分ずつ。どうよ」

「ええっ!? わたしそんなに働いてませんよ!」

「だとしてもだ。それに見合うくらい働こうって思えるだろ? ほい、5000G」


 受け取りたがらないフォトに無理やり渡す。


「うう、そんな無理やり……強引です……」


 その発言は誤解を生むからやめてほしい。なんか俺が無理やり、その、なんだ。うん。とにかくその言い方はまずい。俺は嫌がる女の子にお金を渡しただけだ。十分ヤバいな。

 幸い誰も聞いていなかったようだ。あの変な猫もいない。よし。


「ところでさ、フォトのギルドカードってどうなってるんだ?」

「わたしのですか? よっと、これです」


 フォトの指先からギルドカードが現れる。水色の光と共にカードが現れるのはまだ違和感があるな。

 俺が剣技のスキルを使った時も魔力の光は出るけど、これはなんか、身体の中にカードが入っている感じがして慣れない。

 さて俺が気になっていたのは冒険者ポイントだ。フォトのポイントは……255P? 今回のポイントが30Pだから、ハチミツ採取を八回やれば同じポイントになるな。


「これってさ、ブロンズランクには何ポイントでなれるの?」

「500Pです。その次のシルバーランクには3000P、ゴールドには5000Pです」

「意外と簡単そうだな」


 30Pを百日でシルバーランクになれるんでしょ。簡単じゃん。

 なんだ、俺が思っていたよりも冒険者って難しくなさそうだな。そういえば、副業として冒険者をやる人もい多いんだっけ。


「いえ、採取の冒険者ポイントは5Pや10Pが基本なので、30Pも貰える今回の依頼は珍しいんです。それに、魔物を倒すというような危険な仕事はしないで手伝いでのみお金を稼ぐ人もいます」

「じゃあ報酬金は? ギルドに取られちまうんだろ?」

「ギルドに来る依頼はそもそもが高額ですから全く稼げないってわけじゃないんですよ。それでもこれだけで生活するのは難しいので副業をする人もいますが……」

「本気で冒険者として稼ごうとする人の方が少なそうだな、それ」


 ハチミツじゃなくても薬草とかキノコとか、そういう採取でもある程度お金は稼げるわけだ。それなら普段はバイトをして合間に採取や手伝いをする人の方が多くなる。

 しかも冒険者、またはギルドカードによって荷物の収納やお金の管理、魔力の量までわかるのだ。冒険者に興味がなくても持って損はないだろう。依頼主は冒険者として活動をしていない人、良くできたシステムだ。


「その通りにゃ!」

「おわっ、なんだリンクスかよ……どした」


 ひょこっと我らがギルドマスターであるリンクスが入ってくる。仕事はどうした。


「今、魔物を倒し、魔獣を倒し、悪を罰する戦う冒険者が減ってきているのにゃ!」

「でも何かあったら魔獣は兵士が倒すんだろ? 何が問題なんだ」

「それでも対処できない場合は冒険者が対処するのにゃ!」

「ああ、そういえば冒険者協会が運営してるんだっけ。そりゃそういうの任されるわ」


 他のギルドはどうかは分からないが、少なくとも公式ギルド? なここではそういう面倒ごとを押し付けられることもあるのだろう。

 冒険者協会が運営するギルドということはリンクスは冒険者協会の人間、いや猫人族。気にするのも無理はない。


「魔獣で思い出した。ハンターベアがハニビーネの森まで来てたぞ。森の奥で何かがあったのかもしれない。偶然の可能性もあるけどな」

「にゃにー!? それを早く言うにゃ!」

「無茶言うなよ帰ってきたばっかだぞ……」

「それって珍しいんですか?」


 フォトが質問する。魔獣や魔物の知識が少ないのだろう。俺も旅を始めたころは知らない魔物や魔獣に苦戦した。

 でも大概は力でごり押しすれば殺せるよ。すべては力。力こそパワー。それで魔王も倒した。


「珍しいも珍しいにゃ。奥で食糧がにゃくにゃったわけじゃにゃいにしても……」


 なんか独り言をつぶやきながら考えこんでいるが、にゃーにゃー言ってて何言ってるのか分からない。にゃに言ってるかわからにゃい。これ口に出したら殴られそう。


「って、ノーマルランクでハンターベアを倒したのかにゃ?」

「うん」

「なら、明日の討伐報酬に期待するといいにゃ」

「まあ、金がもらえるならそれでいいけど」


 魔獣や魔物によって報酬金額が違うとか。

 これでハンターベアを倒してくれって依頼を受けてればもっと稼げてたわけだ。惜しいことをした。


「ギルドマスター! 仕事してください!!」

「わわっ! すぐ行くにゃ!」

「それでは、また明日ここに来ますねっ!」

「お疲れ様にゃー!」


 リンクスに見送られながらギルドを後にする。

 初めての依頼だったが何とかなったな。フォトも動きは良かったし、今後に期待できそうだ。

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