とてもいきなりブロンズランク
朝早くからギルドに出勤だ。冒険者ってもっと自由じゃなかったっけ。
ちなみに俺は昨日宿屋に泊まろうと思っていたのだが、フォトの寂しそうな顔にまた負けてずっとあの家で暮らすことになりました。あれでフォトは俺に憧れしか抱いてないんだから超困る。
「よく来たにゃ!」
「仕事しろ」
言いながらチョップする。こてっと脳天に手刀が当たった。全然力を入れていないので痛くないはず。
いつもの戯れだ。これで警戒心を解くぜ。
「なにするにゃー!」
ところでギルドマスターって暇なの? 昨日は忙しそうにしてたじゃん。絶対もっと仕事あるって。
ほら受付さんだって迷惑そうに……あれぇ? 普通にしてるぅ!? もしかしてほんとにこのために時間作ってくれてるの?
「えっと、ハンターベアの件だとは思うんですが、リンクスさんがわざわざ出向く案件なのですか?」
「よくぞ聞いてくれたにゃ! とにかく、奥に来るにゃ」
「聞かれたらまずいことだったか」
もしやあのハンターベアが特殊だったとか? それを発見した俺達に詳しい情報を渡せと言ってきたりして。
とにかく奥の部屋まで移動するなら意味があるはずだ。
「雰囲気にゃ」
「こいつ……」
というわけでやってきましたいつもの部屋。二日連続で来ることになるとは思わなかった。
今度はしっかりとイスに座る。俺めっちゃえらい。
「いや、それが普通にゃ。えらくないにゃ」
「なんで考えてること分かったの怖い」
もしや心を読む魔法が……? いやそんなものあったら俺が勇者なのもバレてるわ。
試しに脳内で煽ってみるか。バーカ、アーホ! お前のとーちゃん去勢済み!
あっ、睨まれた。どっちか本格的にわからんぞ。
「えーこほんっ。二人はノーマルランクでハンターベアを倒したにゃ。その栄誉を称え、キーにゃんとフォトにゃんをブロンズランクに昇格するにゃ」
「…………えっ!?」
「ほお、いきなり500P貰えるのか」
何かしら強い敵を倒したら、一気にランクを昇格してくれるのか。ということは今ドラゴンを倒せばゴールドランクになれる?
本来は強い初心者が難しい依頼を受けられない状況をどうにかするためのシステムなんだろうな。
「ギルドカードを出すにゃ」
「ん」
「えっ? ほ、本当にブロンズランクに上がれるんですか!?」
俺は普通にギルドカードを渡したが、フォトはまだ混乱しているようだ。
冷静になってもわたしが倒したわけじゃないから、と納得しなさそうだな。
「強い奴にずっと採取させんのはまずいと判断したんだろ。魔獣以外でも、大事件を解決した、とかでも適用されそうだな」
「能力のある者には見返りがあるのは当然にゃ」
「……全くだな」
能力のある者に見返り、ねえ。俺に何か見返りはあったっけ。
見返り、俺は見返りを求めて勇者になったのか。確かに見返りはあるはずだった。王様が暮らしに困らなくするとか、なんかいろいろ言ってたな。
でもそのために戦ってはいなかった。ただひたすら魔王を倒して戦いを終わらせる、そのために戦っていた。魔王に殺されて、本当に後悔はなかった。
「にゃにボーっとしてるにゃ。今からブロンズランクに昇格するからよく見ておくにゃ」
「……ああ、悪い」
昔のこと……ってもつい最近のことだが。過去のことは思い出してもあんまりいいことはないな。
リンクスがギルドカードに特殊なスタンプを押す。カードは光り輝き、銅色に鈍く輝くカードに変わった。続けてフォトのカードもブロンズに変わる。
カードの見た目でランクが分かるのか。俺とフォトの冒険者ポイントは500Pに。二人に500Pってわけじゃないのな。
「これでノーマルお断りの依頼を受けられるわけだ」
「本当はシルバーランクにしてあげたかったんにゃけどね。さすがにハンターベア一頭じゃそこまでは上げられないのにゃ」
「で、でもわたしにそんな実力は……」
「あんだけ戦えるならブロンズランクが妥当だろ。どうせ採取してたらいつか昇格するんだし、気にすんな」
案の定フォトは自分にそんな実力はないと言い出すが、そもそも簡単な手伝いでブロンズには上がれるのだから受け入れるべきだ。
シルバーなら……どうだろうな。リンクスの言い方から考えるにハンターベアはシルバーランクの依頼だろうし。フォトは今、ブロンズランクの上位くらいの実力だろう。
「ほい、そんで報酬金は二人に30000Gにゃ」
「おおっ、金も入ったし今夜は酒場で昇格パーティーしようぜ」
「こんなに……も、もっと頑張らなくちゃ」
夜が楽しみだ。フォトの作ってくれる料理は美味いが冒険者として働いた後に料理させるのは気が引ける為、たまには酒場で食べさせたい。
「んで、ここからが本題にゃ」
討伐報酬を受け取ると、リンクスの顔つきが変わった。
具体的に言うと、ムカつくヌフフン顔から真面目でひどく神妙な顔に変わった。
似合わん。やめてその顔で睨まないで。ネコ目が怖いし読まれてるのも怖い。
「ハンターベアがもう一頭確認されたにゃ」
「……へえ。偶然とは言いにくいな」
「それに、最近は魔獣の動きも活発になってるのにゃ」
「………………まるで500年前みたいです」
500年前か。あの頃は確かに見回せば魔物や魔獣がいたものだ。
探すまでもないくらいに溢れていたから、最初に街の外に出たときはびっくりした。同時に魔王を倒した実感が湧いた。500年、俺の行動で平和になったのだと。
「魔王がいた時代かー、確かにそのころは魔獣も魔物も活発だったらしいにゃー」
「何かしら原因があると考えるべきだろうな。誰かが操ってるか、何かしらの原因で魔獣が暴れるようになったか……それで、本題ってのは? まさかこれを伝えるだけじゃないだろ?」
「数日後にハニビーネの森奥地を調査する予定にゃんだにゃ。その会議の結果、当事者である二人にもその調査に誘えと言われたにゃ」
ほう。森の奥の調査か。奥となると魔獣や魔物も増えるだろう。
数日後とか言ってたな、ならそれまでにフォトに本気で戦闘を教えてやろうかな。ブロンズランクならそれなりに戦う仕事もあるだろうし。うん、そうしよう。
「強制じゃにゃいから断ってくれても構わないにゃ。……みゃーはフォトにゃんにはまだ早いと思ってるにゃ」
「だ、そうだ。どうする?」
「キールさんはどう、思いますか?」
「……行った方がいいとは思ってる。成長にもなるし」
「なら、行きます」
そんなんでいいのかよ。とはこの場では言えないか。
まだフォトとは出会ったばかりだ。だから、俺が全部こうするべきああするべきと言うのは良くないのだが……今はまだ、これでいいか。先は長いんだ。
「……分かったにゃ。具体的な日が決まったら伝えるにゃ」
「じゃ、今日の依頼でも探しますか」
「ですねっ」
話は終わった。さて、昨日は受けられなかったブロンズランクの依頼を漁るぜ。
何があったかな、魔獣まではいかずとも魔物ならあるだろう。
「待つにゃ。ちょっと、キーにゃんに話があるにゃ」
酒場、ギルドエリアに戻ろうとしたとき。リンクスは俺を名指しで呼び止めた。
なんとなく予想はできている。フォトには外で待ってもらって、俺は部屋に残った。
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