世界は狭いね

 ポイズンフロッグはその名の通り毒をまき散らすカエルだ。魔獣なのかな? 魔物なのかな? そこは詳しく知らない。500年前もそれは決まってなかった。もう全部魔獣でよくねみたいな感じだったし。

 てか魔物じゃなかったとして何て呼べばいいの? と、俺の頭の中のモヤモヤが有頂天って感じだったのでリュートに聞いてみると、モンスターと呼ばれているらしい。

 魔獣もモンスターの中の一つだとか。


「おいどうすんの終わっちゃうよ」


 ザッシュザッシュとポイズンフロッグを倒していると、リュートがそんなことを言い出した。

 ポイズンフロッグ、シルバーランクの人にはそれなりの強敵なのだろうが、俺に毒は効かない。

 リュートも毒が含まれた粘液が身体に当たる前に熱で蒸発させるという荒業で無効化しているので、俺たちにとってはただのでかいカエルなんだよな。


「もう運ぶ人呼んどいて、狩っちまうか」

「そっすね」

「おっしゃ、任せとけ」


 返事が聞こえた瞬間に『神速』で湖畔の村へ向かう。

 回収班が近くにいない地域で狩りをする時は信号玉という道具で知らせたりするらしいのだが、今回の依頼は回収班の待機所が近くにあるので渡されなかった。


「うわっなにそれ!?」


 どうせフォトも『神速』を使うので俺も移動でスキルを使うのを躊躇わない。

 後で聞かれたら普通にスキルって説明すればいいや。


『よっすー、やってるー? って、湖じゃん! 水がいっぱいあっていいとこだねぇ。精霊もちょいちょいいるけど、話しかけないの?』


 ドロップが魔石を通ってやってきた。

 確かに湖には大精霊がちらほらいるが、全員が俺のことを知っているわけでもないので、全力で無視している。見えてるってバレたらその時点で面倒ごとだ。


『リュート……一緒に依頼受けてる奴がいるんだよ』

『それなら精霊じゃなくて妖精ってことにすればいいじゃん!』

『はあ?』


 ドロップはそう言うと魔石から出てきて羽の生えた妖精状態になった。


「ほらっ、この姿って妖精とほとんど見た目同じだしさ。動きやすいし」


 ドロップの言う通り、妖精は姿が常にある精霊のようなものだ。その種族はその種族で森とかで小さい集落を作って住んでたり、たまに街にいたりするので確かに妖精を名乗れば騒ぎにはならない。

 実際に妖精のふりをしている精霊もいそうだ。


「他の精霊はどうすんだよ」

「大精霊は人間にいい印象持ってないし、見えてると分かっていても関わってこないよ?」

「えっ、マジかよ。昔はもっと人間と仲良かったじゃんか」


 俺なんかは、精霊がいないと使えないスキルとかもバンバン使ってたぞ。そのうち魔王軍に精霊を封じられて関りが減ったけど。


「仲がいいかは別として、お互いに利用できたからねー。精霊側からしても魔王は邪魔だったし」

「関わるメリットがないってことか」

「そゆことそゆこと」


 人間と関わるメリット、ないな。そりゃみんな精霊界に行くわけだ。


「分かった。それなら問題ないだろうしな。ドロップは知り合いの妖精っていう設定で頼む」

「おっけー!」


 まあいくら妖精を名乗っても、水の無い場所では行動できないから俺の近くにいないといけないんだけどね。精霊も精霊で大変だ。

 なんて会話をしているうちに村に付いた。直前で『神速』を切って怪しまれないようにし、村に入る。

 ギルドの旗が取り付けられた建物らしいが……あれか。わかりやすいな。


「へぇ、ほぼギルドみたいなもんじゃん」

「今から他の人にも見えるようにするから、騒ぎにならないか見ててね!」

「はいはい」


 ギルドに入ると、まず大きな掲示板が目に入る。そしてカウンターと、席は少ないが酒場も。プレクストンのギルドの小さいバージョンだ。

 ここに住んでいる冒険者はここで依頼を受けてここでお金を受け取るのだろう。冒険者ギルドは各地に点在する、好きな街で冒険者ができるのは魅力的だな。


「あ、モンスターを倒したので回収をお願いしたいんすけど」


 カウンターのお姉さんに話しかける。さすが湖の村、細目で綺麗な人ばっかりだぜ。

 関係ないか。ないわ。


「はい、ではモンスターの身体の一部をお願いします」

「あ、いや。もう終わるんで回収してそのまま報酬貰おうかと思いまして」

「なるほど、では回収班を呼んできますのでしばしお待ちを」


 そう言うとお姉さんはカランカランとベルを鳴らした。あれで呼ぶのだろう。回収班も順番待ちなのかな?

 すると、酒場にいた人が立ち上がり、こちらに歩いてきた。運べるなら誰でもいいや。


「んお? キールじゃねぇか! お前もここに来てたのか!」

「キールさん、しばらくぶりでやんす」

「…………は?」

「運ぶんだろ? オレたちに任せな! 外で待っててくれ、すぐ行くからよ」

「待ってた甲斐があるでやんすねー」


 二人は外に出て台車を取りに行った。……は? はあ?? え、何してんの?

 いやわかるよ? こういう仕事もやるよね。でもさ、会いすぎじゃない? わざわざ湖まで依頼で来たのに知ってる顔に会うとか、これは運命なのでは? やだそんな運命、こんなところで運命消費したくない。


「ね? 騒ぎにならないでしょ?」

「ああ、忘れてたよその話」

「ひどっ」


 誰もこちらを見ていなかったからな。それだけただの妖精に見えていたということだろう。

 騒ぎにならな過ぎて確認を忘れていたドロップより、今はマキシムとミニムのコンビの方が重要だ。何が嬉しくておっさんに運命感じなきゃいけないんだ。

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