ギルドマスター

 というわけで到着しました冒険者ギルド。

 ギルドは複数あるらしく、フォトが行きたいギルドは冒険者協会の運営するギルドだとか。相談したら迷ったらここ! って言われるらしいよ。

 他のギルドは名が売れた冒険者がギルドマスターになっているので癖が強いとかなんとか。無難な選択だ。


「冒険者ギルドプレクストン本部……ここですね」

「フォト、もう一度言うがここでは俺が勇者だってことは秘密だからな」

「分かってます。……言いたいけど我慢します」


 俺が勇者ということは隠す方向でいく。どうせ信じてもらえないだろうし、信じたとしても厄介なことになるだけだ。フォトにも迷惑が掛かる。


「えらい。んで、俺って冒険者登録してないんだけど大丈夫なの?」

「ここなら冒険者協会と繋がってるので両方同時にできちゃうんです」

「へえ、確かに迷ったらここだな。とにかく入ろう、扉の前で会話してても怪しいだけだし」


 冒険者ギルドは街の中心付近にある。巨大な建物で、酒場としても使われているようだ。

 なのでギルドメンバーではない俺が入っても怪しまれることはない。酒場に来た客か、依頼をしに来た人と思われるだけだ。堂々と入ろう。

 木製の扉を開ける。建築技術も上がっているな。前はもっと簡単な作りだったはずだ。


「いらっしゃいませー! お食事なら空いてるお席にお座りくださーい」


 ウエイターさんが慣れた言い方でそう言った。可愛い。

 酒場を利用する予定がなくても一応聞くのだろう。お仕事ご苦労様です。


「ギルドは……っと、あそこか」


 酒場の隣には話しに聞いていた通りギルドの物と思われる旗が飾られた空間がある。

 明らかに酒場とは違うカウンターに、依頼が貼られているであろう大きな掲示板が複数。武器を持った人が多く座っているが、あれはギルドメンバーだろうか。


「すみません、ギルドに入りたいのですが……」

「ああフォトさん、ついに決断したんですね! お連れの方もご一緒に入るということでよろしいですか?」


 なんだ、フォトのことを知っている? 友達だろうか。


「はい。フォト、知り合い?」

「恥ずかしながら前に何度か迷って相談して……」

「それでか」


 何度も相談したら顔も覚えられるよね。

 フォトは勇者に憧れている割に勇気はあまりない。なのでその勇気を出せるように背中を押してあげるのが俺の役割だと思っている。

 最終的には俺がいなくても勇気を出せるようになってほしいところだ。


「にゃーに騒いでんのー?」


 すると、背後からちょんちょんと背中をつつかれた。

 振り返ると、フォトよりも背の低い猫耳が生えた女の子が立っていた。銀髪に黒い髪が混じっている。他の冒険者の子供だろうか。

 腰を落とし、目線を合わせる。


「ああ、うるさくしちゃってごめんね。お父さんとお母さんはどこにいるのかな」

「なんで頭撫でるにゃ!? ぶっ殺すにゃー!!」

「なんて物騒なガキだ」


 猫人族の子供か。喋り方からしてかなりの田舎出身か、語尾を気にしないタイプの二択だ。


「みゃーはギルドマスターにゃ!!」

「え、ギルドマスター? どう見てもガキじゃん……」

「二回もガキって言ったぁ!! ふしゃー! ガキじゃないにゃー!」

「はいはい」

「撫でるにゃーーー!!!!」


 何この子可愛いし面白い。

 それにしても猫人族は撫で心地がいい。特に耳の部分、ふわふわである。

 これ以上は絵面的にまずいな、親とかいたら本当にぶっ殺されちゃう。


「ゆ……キール様! 本当にギルドマスターなんですよ!」

「マジ……?」


 本当にギルドマスターなの? だって、いや、猫人族ならあり得るのか? 元々人より背は低いしな……

 それとフォト、今勇者様って言いかけてなかった? 俺はギルドマスターに失礼な態度取っちゃったことよりそっちの方が怖いよ。


「ふん、ようやく気付いたのかにゃーん? みゃーこそがギルドマスター、リンクスにゃ!」

「はあ、すみませんでした。それで、ギルドに入りたいんですけどどうすれば入れますかね」

「え!? 今の流れでなんで普通に入れるか聞いてるにゃ!? 普通『わーすみません! ギルドマスターさんとは知らずに失礼な態度を!!』みたいな反応するにゃ!」


 分かった、この人あれだ、語尾を気にしないタイプだ。喋りやすさを優先してやがる。

 というか……


「もしかして入れないんですか……?」

「そんなぁ……」


 しまった、素直にもっと腰を低くして謝っとくべきだった。あまりにも偉そうにするから調子に乗って遊んでしまった。

 これでは俺だけじゃなくフォトまでギルドに入ることができなくなってしまう。

 くそっ、フォトの手助けどころか足を引っ張ってるじゃないか。本当に申し訳ない。


「度胸だけは認めるにゃ。直々に面接してやるから、奥に来るにゃ」

「おっ、マジで!? いやーよかったよかった」

「お前すごいにゃ!?」


 だって面接してくれるんだもん。お前みたいなやつは絶対に入れない! 帰れ! とか言われなかったから嬉しくて気が抜けちゃったよ。

 ところで面接って何をするのだろうか。得意なスキルとかで自分をアピールするの? あ、今は魔法か。


 カウンターの奥には面接用らしき部屋があった。中央にテーブルがあり、イスが二つにソファーが一つ。

 よし、座ろう。ソファーに。


「ふう。二人とも座らないの?」

「お前はこっちにゃあああ!!」

「ぶべらっ!」


 猫人族の爪は……とても鋭かった。

 自動回復スキルのおかげですぐに痛みはなくなったのだが。うむ、流石に防御せずに受けると痛いな。

 そうか、客だからソファーに座るものと考えていたのだが、こういう場合はイスに座らないといけないのか。王様に呼ばれたときは豪華なイスに座らされたからそういうものだと思っていた。

 勇者時代の常識は忘れよう。


「それじゃあ、まずは質問にゃ。フォトにゃんがギルドに入りたい理由はなんにゃ?」

「よく人の顔引っ掻いた後に普通に話せるな……」

「お前が言うにゃ」


 それは本当にすみません。


「えっと、勇者様に憧れて人を助ける仕事がしたかったんです!」

「ほうほう、あの伝説の勇者だにゃ? 素晴らしい理由にゃ!」

「うんうん」

「なんで得意げなのにゃお前」


 言えないけど勇者なんだぜ俺。

 ちなみに500年後の世界に来てから勇者っぽいこと一つもしてないぜ。女の子と一緒の家なせいで賢者にもなれないぜ。やばいぜ。


「で、お前の理由はなんにゃ」

「金」


 とりあえず正直に答える。これ以外に答えようがない。

 こういうのは欲望に忠実な方が長続きするのだ。


「…………うん。まあ一番良くある返しだけど、本当に清々しいにゃ、お前」

「お、もっと褒めろ。それとお前じゃなくてキールだ」

「キーにゃんですね!」

「やめてくれ」


 キーにゃんだけはやめてください。フォトに呼ばれるならまだしもリンクスに呼ばれるのは何か嫌だ。

 子供じゃないって知ってから普通に生意気な奴って思っちゃうようになったからキーにゃんは勘弁してくれ。


「次の質問にゃ。キーにゃんの武器はなんにゃ?」

「やめてくれる!?」


 分かった、リンクスは俺にやり返しているんだ。さっきの引っ掻き攻撃でやり返しは終わったと思っていたのだが、あれだけでは怒りは収まらなかったらしい。


 その後も様々な質問をされるが、リンクスのキーにゃん呼びは変わらなかった。まさかギルドに入るのにここまで辛い思いをするとは思わなかったよ。屈辱的だ。

 しかし耐える、これは俺への罰だから。甘んじて受け入れる。

 この質問はいつになったら終わるのだろうか。

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