冒険者になろう!
翌日、家の近くにある空き地で俺とフォトは剣を持って向き合った。
戦闘を教えるとはいってもフォトの実力がわからないので実際に戦って確かめることにしたのだ。
「よろしくお願いしますっ!」
「ああ、よろしく。とりあえず全部受けるから全力でやってみてくれ」
剣でガードするように体の前で刀身を横に倒す。剣の威力や動きを見て評価か、見極めるのは得意だけど評価とかしたことないな。
「行きますっ」
フォトが剣を構え俺の剣に向かって振り下ろしてくる。重い一撃だ。剣の練習は普段からしていると見た。
威力は十分、そこからさらに剣のスキルである『剣技』を使えばさらに底上げすることができる。
キン、ガキンと横や縦からの追撃。素でこの速さならばもっと堂々とすればいいのに。
結論、強い。
「もういい、だいたいわかった」
「え……もうですか?」
さらに追撃をしようと力を入れていたフォトの顔が緩む、集中力もあるな。
「次はスキルを使ってみてくれ。剣技でも術技でもいい」
この威力に剣術を使われたら俺もそれなりに力を出してガードしなければ怪我をしてしまうかもしれないからな。
剣技を待つ、が、フォトは気まずそうに地面を見ているだけだった。どうしたんだ。
「あ、あの……」
「ん? なんだ?」
「勇者様のいた500年前と、今の時代とでは戦いも変わっているんです」
「んーまあ、新しいスキルも開発されるしな。おかしくない」
実際に俺のいた時代でも新しいスキルは見つかっていた。
スキルは自分の身体に技を刻み、意識して使うことで決まった技を出すことができるというものだ。
「ち、違うんです! その、スキルはもうほとんど使われてないんです」
「スキルが使われてない? なんでさ」
「魔法が発展したらしいんです。魔王が倒され勢力の弱まった魔族は人間に勝てなくなりました。それにより人間は安全になってこれまで滞っていた魔法の開発が活発化したとかで」
確かに魔法にはスキルの代わりになるものもあった。それスキルでよくね? という意見によりあまり広まらなかったのだが。500年でそこまで変わったかぁ。
「そうだったのか……とりあえずその魔法を使って戦ってみてくれ」
「魔法も……その、あんまり得意じゃなくて……あの、勇者様はどのような修行をしたのですか?」
「修行はあんまやったことないな。子供のころに剣術を教えられたくらいで、あとは旅をしながら強くなったんだ」
俺が自分の話をするたびに、フォトは目をキラキラ輝かせながら聞く。これは昨日も同じだった。きっとこれから先も同じだろう。下手なことは言えないな。
「で、ではその子供の頃に教えられた剣術とは……」
「もうフォトは俺が旅に出始めた頃よりも強いからなぁ。細かい修行とかは教えられない」
「そんなっ」
これは嘘ではない。勇者として旅に出たとき、俺はスキルの才能があっただけの剣が扱える少年だった。
戦闘をして、戦いを覚え、スキルも覚え、強くなった。だから何をすればいいなんてのは教えられない。
「そうだな……俺がサポートするから、何かやりたいことにチャレンジしてみるのはどうだ? 何かしら行動する方が早いし」
「やりたいこと……?」
昨日聞いたフォトの夢は漠然としていた。勇者様のようになりたい、それだけ。
なら、やりたいことはなんなのか。夢じゃなくてもいい、そのやりたいことのサポートをしよう。
「確か冒険者だったよな。冒険者って何やるんだ? 魔王いないじゃん」
「昔の冒険者ってどんな感じなんですか?」
「単純だよ、臨時で募集した自由な兵士みたいなもん。魔王を倒すために集められた戦力だ」
当時の冒険者に聞いた話だが、扱いは兵士とほとんど変わらなかったとか。収入だって倒した魔物で決まるため安定はしない。たまに国に集められて戦うくらいだ。
とにかく、昔の冒険者は魔王に対抗するための戦力だった。職業でもなかったのだ。
「なるほど! 今の冒険者は依頼を受けて、報酬を受け取る人のことですね。行商人が道に魔獣が現れて困っているだとか、護衛任務だったりとか、薬草が欲しいから採取してとか、その他もろもろ、とにかく色々な依頼をこなして報酬を貰う職業になってます」
「ふむ、正式に職業として確立したのか。冒険者というより何でも屋だな。それで、冒険者になって何がやりたかったんだ?」
「困ってる人を助けたかったんですけど、なかなか上手くいかなくて……ギルドに入ることも考えたんですけど生活できるだけのお金が稼げるかわからなくて手が出ないんですよ」
「まて、ギルドって何」
俺のいた時代にはそんな言葉はなかった。
フォトのやりたいこと、困っている人を助けたい。それを仕事にするために冒険者になるのはわかる。でも上手くいかないってのはなんでだ。
「冒険者の団体です。ギルドに入らないと受けられない依頼がほとんどなので入った方がいいんですけど……」
「ギルドに報酬の何割か取られるから生活できるかわからない、か」
「そうなんです。誰でも受けられる掲示板に貼られている依頼はすごく難しいかすごく簡単かのどっちかなんですよ。それこそ採取とか、お手伝いとか」
人を助けたいけど受けられる依頼は報酬の少ない簡単な依頼か、自分じゃ達成できない難しい依頼しかないと。
ギルドに入れば依頼の幅が広がるが、生活できるくらい稼げる自信がない、ね。それなら答えは簡単だ。
「なるほどなぁ。んじゃ、ギルド入ろうぜ」
「えっ!?」
「俺がサポートすればそれなりに難しい依頼も達成できるだろ? そうしたら稼げる金額も上がる。実戦が増えれば俺が教えられることも増える。どうだ?」
「勇者様がサポート……や、やります!!」
どこでスイッチが入ったのか分からないが、やる気になったならよかった。
「お、おう。じゃあ早速行こうぜ。あっ、俺もギルド入るから」
「あっ、そうなんですかぁー………………ってええええええ!?」
街に向かって歩きながら言うと、背後で驚いた声が聞こえた。だってお金必要だし、近くにいないとサポートできないじゃん。
昔の宝石や貴重な道具を売るのは良くない。俺も、ここから再スタートするんだ。お金があればフォトの家に住む必要もないからね。間違いが起きる前に住む場所決めないとね。間違い起こす気ないけど。
恩返しをするためとはいえ、冒険者か。わくわくしてきた。500年前はそんな自由なかったからかな。
ところでギルドってどこですか?
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