そしてクロムウェルは金井・誠右衛門と対峙する。

 お互いの横には『人類種の遺産』が眠る廃コロニー。

 王国最強と名高いクロケアモルスは既に斃されたらしい。

 クロムウェルは金井をガンディの乱闘の折に遠目から見たことはあるが、直接まみえるのはこれが初めてだった。

 腹部に斬撃の痕を認める。

 腹膜まで達しているかいないかといったところか。

 いずれにせよ、無視できる怪我ではない。

 その剣技の出鱈目なことはクロムウェルも把握してはいたが、こちらは無傷、相手は手負い。勝機は十分にあると見立てた。

 蜻蛉に構える。

 極限まで磨いた示現流だ。

 反撃されたことはない。受けられたことはない。避けられたことはない。

 ただ一撃で全てを終える。

 互いに一言も交わすことなく、死の交差が始まった。


 金井はクロムウェルを見る。

 その構えは示現流、蜻蛉の構えとすぐに察知した。

 宿敵薩賊の剣術だ。聞いたことがないわけでもない。

 クロムウェルの剣術には無駄がない。一撃に限れば神域に達している。

 避けることは不可能。受けることも不可能。いわんや反撃など。

 仮にクロケアモルスと当たっていた場合、1人は確実に殺していただろう。盾ごと脳天を断ち割って。その後残った2人に殺されるのはクロムウェルの方だろうが。

 ある意味相性のいい者同士で当たってよかったとも思える。戦況は単純になった。王国の剣士は全て敗退し、残ったのはクロムウェルと金井だけだ。

 金井は蜻蛉に構え、速度を全力まで上げる。

 絶対必殺の魔剣に対し金井の得た解答は、奇しくも相手と同じ構えだった。

 間合いに入った。

 斬り込んでくる。

 真っ直ぐに。

 受ければ刀ごと頭頂を両断される。

 避ければ肩から裂かれて絶命する。

 金井は相手の剣の振るに任せることにした。

 身を右前に捻り、左の顔面を太刀筋に晒す。

 クロムウェルの剣は、金井の面に斬り込んだ。

 ほんのわずかでも生身の顔に触れるようなことがあれば、そこを起点に敵の太刀に斬り込まれて終わりだ。

 鬼面の左半分が割られていく。断たれた白髪が散っていく。

 その抵抗により、クロムウェルの剣はほんのわずか減速した。

 金井の面が完全に斬られた。その目は極限集中により血涙を流している。

 血涙が宇宙空間の極低温により瞬時に凍り付き、結晶となって散っていく。

 減速した剣を半身で回避する。

 クロムウェルの太刀は空を切り、宿った神は雲散霧消した。

 抜けた。

 金井は自身の太刀を振る。

 左上から斜めに一閃。

 クロムウェルの首がその胴体から離れた。


 絶命により装甲を解除されたクロムウェルの首から、白銅のネックレスが離れた。

 二葉葵の花だ。

 徳川の家紋と同じ。

 ネックレスとともに、クロムウェルの遺体が虚空に消えていく。

 金井は蜻蛉の構えで残心。

 息を整えると刀を納め合掌した。

「南無三」

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