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奴隷出身であるため、アオイは
無論、人造人間は今の社会に必要不可欠なものであり、ある程度は容認せざるを得ないだろう。
だが最低限、危険の伴う船外作業などは少々割高になるものの機械を代用したかった。
見積もりの結果、作業用ロボット大手『キノト・エレクトロニクス』がよさそうだったので注文することにした。
キノトの営業担当は
引き連れた部下はスーツなど着せてはいるが、兵隊崩れのような体格のいい男たちだった。
懐には拳銃を忍ばせていることがわかる。
「初めまして、キノト・エレクトロニクスのバシリスキーと申します」
白スーツなど着てマフィアのようだったが、人当たりは良さそうだった。
ケンカ腰の営業などまずいないだろうが。
「初めまして、アオイと申します」
宇宙港の倉庫近く、貸し会議室が商談の場だ。
「当社の作業用ロボットは
営業トークが少し鬱陶しいが。
「それは頼もしいですね。こういう分野には疎いのですが、値段の割にはかなりいいものだと思います」
実際、見積もりの金額は他社と比較しても破格と言っていいものだった。
「ええ、それまもう、軍用スペックですから」
特に意味はないがお互い空気を読んで笑う。今の冗談だったのだろうか。笑うところなのか。
「ではさっそく現物を確認していただきましょう」
人気のない倉庫。うずたかく積まれたコンテナなどを避けながら目的の場所へ向かう。
「こちらになりま――」
バシリスキーのセリフは途中で途切れた。
そこにいたのは――ホークランドの治安軍だ。
「キノト・エレクトロニクスの者だな! 貴様らには軍需品の横流し容疑がかかっている! 予算を水増ししてお国の金を横領していた汚職幕僚どもの裏付けは取ってあるぞ! 大人しくお縄に付け!」
「はああああああ!!!?」
宇宙ブロイラーの断末魔のような声で叫んだのはアオイだった。
「うわああああああああ!!!? マジかよ畜生!! バレやがった!! クソ部長が貧乏クジ押し付けやがってブッ殺してやる!!!」
宇宙ターキーの断末魔のような声で叫んだのはバシリスキーだ。
治安軍がライフルを向けて駆け寄ってくる。
バシリスキーの部下が反応した。
拳銃を抜き放ち、銃撃戦を開始する。
「おい待てこの馬鹿共が!!」
バシリスキーの制止も無意味だ。すでに事態は手遅れだった。
治安軍の練度と装備は実に優秀で、バシリスキーの部下は次々と斃れていった。
バシリスキーは
アオイと、彼女を庇う金井がそれに続く。
「ちょっと、どういうことなんですか!」
「どうもこうも、さっき治安軍の奴が言ってた通りですよお!」
「『言ってた通りですよお』じゃねえぞテメエ!! テメエが出てってあいつら止めてこいや!」
アオイ、キレる。当然だ。全面的に汚職企業キノト・エレクトロニクスが悪い。
「嫌ですよお! 撃たれるじゃないですか!」
「むむむ」
金井が唸った。
アオイの指示を思い出す。
「いいですかセーモンさん。表向き、このラインゴルド号に剣士はいないことになってます。ホークランドの法律で、剣士の入国手続きは死ぬほど面倒で、滞在中は監視も付きます。ぶっちゃけやってらんないので名前の知れてない剣士は身分を隠して入国するのが普通なんです。というわけで、本当に危険な状況以外では剣士状態にならないようにお願いします。いいですね」
本当に危険な状況とは今なのでは?
コンテナの影から身を乗り出し状況を確認すると、足が吹っ飛ばされたキノトの私兵5名程度を横切った治安軍が、牽制射撃を張りながらこちらに近づいてくる。
危険な状況と判断した。銃の脅威は身をもって味わっている。
「あ、待ちなさいセーモンさん!」
白髪を振り乱す魔人の姿に変じ、コンテナから飛び出した。
不殺を誓ったばかりだ。剣は抜かない。
地上では宇宙のような飛行はできない。地面を走り抜ける。
後方の安全のため、あえて避けずに対ミュータント弾を全弾食らう。
蚊に刺されたほどの効果もない。
兵士の1人に接近し、ライフルの銃身をへし折る。
反応がいい。暴発する前にトリガーから指を放した。
足を加減して蹴って転倒させると同時、サブウエポンの拳銃もホルダーから抜き取って握りつぶしておく。
「後退!! 後退!!」
相手は整然と退却してゆく。
「今のうちだ!」
金井が叫ぶ。
逃げろ――とは続かない。
敵の新手だ。
剣士だった。
「大捕り物故もしかしたらと思ったが、剣士とはな。私が出てきて正解か」
太い男の声だが、ボーンチャイナを思わせるような白いマスクは少女人形のようでもある。
鮮やかな青いフロックコートに三角帽の、麗人のような剣士だった。
身長は金井よりも一回り高い。
「長官! 援護は!」
「不要だ!」
剣士は刃渡り90cmほどの
「たかだか企業の私兵に堕した駄剣士が。身の程というものを教えてくれる」
「どのように教えてくれるのだ」
「散々に痛めつけ、動けなくなったところで核融合炉に放り込んでくれる。貴様らのような悪質な剣士を捨ておくのは危険極まりない」
「是非に及ばず」
金井は刀を抜き放った。
「奥州浪人、金井・誠右衛門」
「治安軍長官、レエモン・フォッシュ」
金井は無形に構えた。
およそ5間の距離を、じわり、じわりと擦り足で詰めていく。
一足一刀の間合いに入り、即座にレエモンが飛び込んできた。
サーベルを真下に振る。
狙いは刀。弾く心算。
空いた上半身に飛びつかないのはいい判断だ。
だが――
「む!」
する、と、刀を後ろに回す。
レエモンのサーベルが空を切った。
すかさず間合いを詰めた金井は、柄尻でレエモンの顎を殴り抜けた。
「――――!!」
声もなく、上空に吹っ飛ぶ。
レエモンは脳を揺らしても猶受け身を取ろうとした。
だが遅い。
刀を脇に捨てた金井は、空中で拾ったレエモンを地面に縫い付け、体固めを極めた。
「き、貴様ほどの剣士がなぜ!?」
「一身上の都合にござる」
レエモンがタコのように全身の関節を外せる剣士でなければ金井の勝ちだ。
勝ったものの、この状況を如何したものか。
地上では剣士を斬ることなどできないし、そもそも理は彼の方にある。身にかかる火の粉とあらば不殺の誓いも何もあったものではないが。
「いやあ、すいません!! なんか勘違いがあったようなので!! セーモンさん、その人お放しして差し上げてください!!」
アオイがコンテナの後ろから出てきた。
金井は放せと言われたので技を解いた。
レエモンは無言でサーベルを肩に乗せる。
「じゃ、我々巻き込まれただけですんで!! ここで失礼します!!」
勢いで逃れようとするアオイだった。
「待て、詳しく話を聞かせてもらうぞ!」
大人しく帰してはくれそうになかった。
金井・誠右衛門、アオイ、両名逮捕。
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