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奴隷は管制室にいた。血の海だ。
バンダナを巻いた海賊たちの首がそこら中に散らばっている。
咽かえるような血の匂いに頭痛をこらえながら、コンソールに向き合う。
「エンジンの修理も終わったし、隔壁も塞いだんですけど……これ以上はハード担当には荷が重いですね。どうすりゃいいの?」
「答えましょう」
コンソールから声がした。今時無機質な電子音声だ。
「わたしは海賊船ラインゴルド号のメインAIラインです。前艦長の野郎がマニュアル操艦にこだわっていやがったせいで出番がありませんでしたが、やっと『お役に立て』ます。そこに転がってる役立たずどもの仕事は全部できますよ」
極めて性格の悪そうなAIだ。設計者はサービス残業パワハラモラハラその他の理由で退職寸前だったに違いない。
「王国艦隊をまいて暗黒宙域に脱出したいんですけど」
「かしこまりました。どうやら最先任のあなたが新船長権限を持っているようですね。以後よろしくお願いします、キャプテン」
船は亜光速航行を取り戻し、暗黒の海へと向かう。王国軍もそこまでは追ってこれないだろう。
「で、貴方」
「#$&%$&$%」
謎の剣士がそこにいた。
赤い鬼面がおどろおどろしい威圧感を放っている。
「王国標準語がしゃべれないんですかね。即席自動学習装置にかけてみましょうか」
「でしたらそこのヘッドマウントが使えますよ。200年程度の骨董品なんで抜け毛だの脂だのが付いてますがね」
船長権限で新調しようか。
謎の剣士は武装を解除した。全裸だったが気にしないことにする。
半ば凶相とも表現しうる三白眼だが、どこか間抜けな顔つきだ。無骨に張ったエラとへの字に結ばれた大ざっぱな口は、宇宙カバを思わせる。
無抵抗な彼にヘッドマウントを被せ、自動学習を開始する。
終わった。
「私の言ってること、わかります?」
「おお、エゲレス語がわかるようになっとる! ありがとうエゲレス人さん。なんだかわからんが眠ってる間に憶えたようだ」
わかってないのでは? 奴隷は訝しんだ。
「拙者は金井・誠右衛門と申す。エゲレス人さんはなんと呼べばよかろか」
名前。
せっかくだから自分でつけてみようか。
「さっきの服に描かれていたマーク、あれなんて名前なんですか?」
「む、あれは葵の御紋だ。俺などが身に纏うのは恐れ多いんだが」
「アオイ。それなら私の名前はアオイです」
これが自由だ。
名前も自由に付けられるし、どこでも自由に行ける。
そう思った瞬間、アオイは正面の大型スクリーンを見た。
遥か遠く、暗黒海域を抜けた星の海を見つめる。その先には何があるのか。
「アオイさん、まず服を貸してくれんだろうか」
Chapter1 星海に蘇る 終 Chapter1.5 暗闇に浮く に続く
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