虚空に閃く

霊鷲山暁灰

Chapter 1 星海に蘇る

 とめどなき鮮血が乾いた土に染みてゆく。

 慶応4年、会津戦争の最中。

 長州軍が扱う最新のミニエー弾は、着弾と同時に盛大に爆ぜ、会津藩士、金井・誠右衛門の肉と臓器を吹き飛ばした。

「金井! 当たったんか!」

 視界は擦れ、朋友の顔もわからないほどである。

「必死で磨いた剣がこうも役に立たんとはな……。抜け金井らしい最期と笑えい」

 抜刀突撃の末、1人も切り捨てることなくここで死ぬ。

 要領が悪く『抜け』などと嘲弄され、出世などとも無縁だった男の最期だった。

 出世が叶わなかったことはいい。

 だが、主君のために碌な働きができなかったことは心残りだ。

 薄れ行く意識の中、右手の感覚を確かめる。

 刀がそこにあった。もはや歴史の中の存在。過去の遺物となりつつある剣が。

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