第7話 認めてくれるという事

「テツ…なんで、ここに…」


 するとこちらに気付いた哲也が歩いてくる。


「楓真のお母さんと佳奈さんこんにちは。楓真が体調不良ってことでお見舞いにきたんですが、楓真は寝てますか?それともまだ病院に?それとそちらは?」


 視線を向けられると楓はつい佳奈の背中に隠れてしまう。佳奈が耳打ちする。


(楓、今が打ち明けるチャンスなんじゃないの?)


(でもこんな急に!?)


(あんたは何かキッカケがないと動かないんだから!とゆーわけで、)


「哲也君久しぶりね。この子はアタシの妹の楓よ」


「妹?そんな話は聞いた事がないのですが…」


「正解には妹になった…よ」


「話が見えないのですが…」


「お母さん、哲也君に中に入ってもらお?楓もいいわね?」


「そうね。哲也君、中へどうぞ。ちょっと話もあるし。楓、部屋に案内してあげて」


「っ!う、うん…」


(楓頑張ってね)


「その子が?」


「まぁ、いいからほら入った入った!」


 佳奈が強引に哲也を家に押していく。その姿を楓は決意を込めた目で見ていた。


「おじゃまします。それで楓真はどちらに?」


 楓は楓真の事を探す哲也の服の裾を引っ張る。


「君は?」


「こっち」


「案内してくれるのか?」


「来て」


 楓は階段を上がっていく。そして元楓真の部屋の前まで来ると足を止めた。


「君、いや楓ちゃんだったかな。そこは楓真の部屋だろう?楓真は部屋にいるのか?」


「入って」


 そう言って部屋の中に入っていく。哲也が中に入ると扉を閉めた。


「なんだ、いないじゃないか」


「あのさテツ、俺が楓真なんだ」


「君は何をいってるんだ?からかっているのか?」


「そうじゃない。もうお前が知ってる楓真っていう男はもういないんだ。俺が、今は女の楓が楓真なんだ」


「どうゆうことだ?」


 そして楓は全ての説明を始めた。薬の事、もう戻れないこと。名前も変えたこと。そして女として生きていくことを決めた事を。そして、信じて貰うために楓真と哲也しか知らない事も話しながら説明を終えた。哲也は一度も口を挟むことなく最後まで聞くと目を閉じて考えはじめた。


「…………」


「…………」


「………テツ?」


「つまり……」


「な、何!?」


「俺はこれからお前のことは楓と呼べばいいんだな?」


「え?信じてくれるのか?」


「信じるもなにも、マンガとかのように起きたら突然変わったとか、なんの脈絡もなく女になったわけではないのだろ?ニュースでも話題になってるし、薬や他の実例があるものだからな。信じるに決まっている。それに何を心配しているのか知らんが、オレはお前の親友だろ?男だろうが女だろうがそれは変わらない。お前はお前だ」


「テツ……ぐすっ……ふぇぇん…」


 楓の視界が一瞬で涙で歪む。歓喜と安堵の涙は一度溢れると中々止まらない。


(良かった…。やっぱりテツはテツだった。にしても涙止まんない~。この体になってから泣いてばっかりだ…)


「な!ふ、楓真…じゃなくて楓?そ、そんな泣くことか?いや、泣いてるのが悪いんじゃないんだが……これは一体どーしたらいいんだ?」


「ふふっ、だいじょ~ぶ。嬉しくて泣いただけだから」


 楓は目元の涙をぬぐい、哲也に笑いかけた。


「………っ!」


「ん?どうした?」


「いや、なんでもない。なんでもないんだ」


「へんなの」


「そして俺はこれからどう対応していけばいいんだ?」


「ん~今までと一緒でいいよ。いくら女として生きていくって言っても俺もよくわかんないし」


「そうか。なら変わるのは呼び方ぐらいか」


「そうだな。まぁ、これからもよろしくな!親友」


「ああ。ところであいつらにはまだ言ってないんだろ?いつ言うんだ?」


「それは近いうちに言おうと思ってる。明日、明後日中にはな。さすがに一人だとキツいからついてきてくれるか?」


「それはかまわないが、多分あいつらもすぐに信じてくれると思うぞ」


「そうだと嬉しいんだけどな」


「ところで高校はどうするんだ?」


「もちろん行くさ。お母さんが学校には連絡してくれるみたいだし。制服は変えなきゃなんないけどな。お姉ちゃんの替えの制服でもいいかと思ったけど、俺の方が胸大きいからダメみたいだ」


「そ、そうか…」


 そこで哲也の目線が一瞬、楓の胸元に向く。普段ぶっきらぼうでそっけなくてもそこはちゃんと男の子。そんなこと言われたら気にするなってのは無理な話だ。


「テツ?胸、気になる?」


「なっ!?」


「いや、女って目線に敏感って言うけどホントだな~って。今俺の胸見ただろ?わかったぞ。触ってみるか?すげー柔らかいぞ?」


「ばっ!馬鹿な事を言うな!なんでオレがお前の胸を!」


「冗談冗談♪じゃ、そろそろ下に降りようぜ」


「ところで、お湯はかけ「言うな!」…すまん」



 階段を降りて二人でリビングに行くと加奈子と佳奈が待っていた。


「楓、ちゃんと説明できた?」


「うん大丈夫。テツはちゃんとわかってくれたよ♪」


「あら、ずいぶん機嫌が良さそうね?」


「まぁね!なぁ?テツ」


「あ、あぁ」


 そして哲也の肩に手をまわ…そうとした。だが届かない。

 楓は哲也の隣でピョコピョコ跳ねる。

 それを見かねた哲也は膝を少し曲げて高さを合わせてやる。


「あれっ?テツこんなに大きかったっけ?よっ!ほっ!えいっ!よし出来た!」


 身長差があるので廻した、というよりかは乗せたって言った方が近いかもしれない。ただそうなると必然的に、楓の体は触れることになる。ひたすら哲也は戸惑う。

 そんな小動物の如く可愛らしい姿を見て加奈子と佳奈はニコニコと見つめながら何かに気付く。


「あら?あらあら?楓ちょっと来なさい」


「なんだ?」


「なんだ?じゃなくて何?よ。で、いくら友達とは言っても男女の距離感はしっかりしなさいよ?あなたは今可愛い女の子なんだから」


「何言ってんだ?俺とテツだぞ?前からこんなもんだったじゃんか。テツも、男でも女でも俺は俺だって言ってくれたしな!」


「「はぁ…」」


「なんだよ。じゃ、外まで送ってくるから。行こーぜテツ」


「わかった。すいません、おじゃましました」


 二人は玄関から出ていく。


 ━━━━━


「ねぇお母さん?」


「なに?」


「あのままで大丈夫なのかな?」


「ん~、哲也君だから大丈夫なんでしょうけど、他の子にもあんな感じだと心配ね…。だんだんに自覚していってくれるといいんだけど」


「まだ変わったばかりだから無理強いはしたくないんだよねぇ…」


「「う゛~ん」」





















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