第9話 嫉妬する少女と絶望する少女

ここは以前、四人が卒業式の打ち上げをしたファミレスの前。そこにはアリスと心愛がいた。


「あれ?心愛何してんの?」


「え?アリス?」


「しかもめっちゃオシャレしてるね♪デート?ってそんなわけないか」


「ち、ちがう!これは…」


アリスの視線は、普段制服位でしか履かない心愛の珍しいスカート姿に釘付けになっている。トップスにもフリルが使われており、非常に可愛らしい格好だ。

一方、アリスの方はジーンズにシャツ、ロングカーデとラフな格好でいる。


「誰かと待ち合わせ?」


「………ふーまに大事な話があるって呼ばれて。だから…」


「あー、それで頑張っちゃったんだ?ってアタシも楓真に呼ばれたんだけど!?」


「え?えぇぇ~~」


あからさまに落ち込む心愛。もしかしたら告白?なんて考えていたのだ。もちろんそれだけならこんな格好はしない。

相手が、二年前からずっと想っていた楓真だからだ。

ウキウキしながら服を選んでいた自分が恥ずかしくなる。


「ま、まぁそんな落ち込まないで?ほら!高校も一緒なんだからチャンスあるって!にしてもアタシ達二人呼んで大事な話ってなんだろ?」


「はぁ…。そのチャンスもこの性格のせいで二年間モノにできなかったのに…。今日こそはって思ってたのに…」


「はは、あはは。それにほら、こんなに可愛い格好してたら褒めてくれるかもよ?」


「そうかな?」


「そうそう!ってあれ?あっちからくるの哲也じゃない?」


「ん、たしかに哲也。でも…」


「え?隣にいる子……ダレ?」


アリスの声が低くなる。

心愛が楓真を想っていたようにアリスも哲也を想っていたのだ。

もちろん想いは告げられていない。そんな中で、このような姿を見せられたのだ。

【哲也が可愛らしい女の子と仲良さそうに歩いてくる姿】を。


近づいてくる哲也と目が合う。次に隣の美少女に目を向けると相手は何故か気まずそうに哲也の背中に隠れた。その姿に心がざわつく。


(ムカつく)


近くまで来ると哲也が話しかけてくる。


「二人とも早かったな」


「ついさっき着いたばっかりよ。それよりも隣の子は?」


アリスと心愛が再度哲也の隣に目を向ける。黒く綺麗な髪はサイドテールで纏まっている。身長は心愛より少し小さい位だろうか?服装は紺のレギンスに膝まである白いのニットワンピース。その上からはピンクのカーディガンを羽織っている。はっきりいって可愛い。服の上からでもわかる胸部は二人を凌駕していた。


「それは中に入ってから説明する。とりあえず入るか」


歩きだす哲也の後ろをその子が当然かのようについていく。

納得はいかないが話を聞かなければわからないので二人もついていった。


「で、この子なんだが」


「ちょっと待って!まだ楓真が来てないわ。待たなくていいの?」


哲也は隣に視線を向けると少女は頷いて喋りだした。


「アリスに心愛、俺が楓真だ」


「「は?」」


二人の声が重なり、次に哲也を見る。


「そいつの言った通りだ。結構話題になってるんだが、ニュース見なかったか?」


「いや、そのニュースは知ってるけどまさか、そんな…え?ホントに楓真?」


「正真正銘、柊木楓真だよ。元がつくけどな」


そうして、哲也にもした説明を二人にも同じように話していった。


「て、ゆーわけなんだ。信じてくれるか?」


「まぁ、ニュースも見てたし、哲也もそう言ってるなら信じるしかないわよね。話の辻褄も合うし、アタシ達しか知らないことも知ってたし。にしてもまさか身近なところでこんなことあるなんてねー。しかも可愛いのがムカつく」


「そんなこといわれてもな…」


「わかったわ。信じる。あんたはこれから楓ね!オーケー!で、これからあんたにはどう接していけばいいの?」


「今まで通りでいいよ。まだ俺も手探り状態なんだ。でも、名前は楓で呼んでくれると助かるな。この名前にも慣れなきゃなんないし」


「そなんだ。まぁそりゃそうよね。で、ちなみにその服は?自分で?」


「ジャージで来ようとしたらお姉ちゃんに強制的に着せられた。服に関して俺の意見は一切通らないんだ…。昨日の買い物でもそうだったし」


「その見た目でジャージだともったいないものね。全面的に同意だわ。…あれ?お姉ちゃん?あんた佳奈さんの事そんな呼び方してないでしょ!?」


「あー、それは俺も昨日家に行った時から気になってたんだが楓、どういうことだ?」


「強制的に変えさせられたんだよ。前の呼び方は可愛くないって。その声で前の呼び方するな!って」


「それはまた…って哲也家に行ったの!?」


「あぁ、俺も昨日楓の部屋で説明受けたばかりだからな」


「部屋!?」


「あぁ、クラス会にこなかったから、聞いたら体調不良って言っててな。見舞いに行ったらたまたま道で会ってそのままな。そしてこの事を聞いたわけだ」


「そーゆーこと聞いてんじゃなくて!」


「ん?じゃあなんだ?」


「あぁそっか!佳奈さんも一緒だったのよね?」


「いや、説明は二人きりだったぞ」


「そうだな。二人きりの方が話しやすかったし」


「ダメよっ!」


アリスは思わず大きな声をだしてしまった。


「「?」」


「なんで?って顔してるけどわからないの?楓真はもう楓で女の子でしょ?なのに部屋で二人きりなんてダメに決まってるじゃない!なんかあったらどーするのよ!」


「なんかってなんだ?」


「なんかって…あれよ…その、楓が哲也に襲われたらどーするのよ。(可愛くなっちゃったし、胸だって……)」


アリスはつい、自分の胸元と楓の胸元を見比べる。…しょぼん


「あはははは!ないって!俺達小学校から一緒の親友だぞ!」


「そんなのわかんないじゃない。哲也だって男だし」


「そいえば昨日、俺の胸をチラ見してたな。キャアコワーイ」


自分の腕で胸を隠すようにするとふざけて声をだす。完全に棒読みで。


「おい、ふざけるのもいい加減にしろ。俺も楓の事は女としては見てないから安心しろ」


「へいへい…え?(全然見られないのもなんんか…いや、いいのか?)」


「哲也あんた…。てゆーか今のあんたの恋愛対象どうなってるのよ?」


「さ、さぁ?わかんない。けど、試しに昨日エロ本読んでみたけど、なーんにも思わなかったな。やっぱ自分が同じになったからかな?かと言って男は無理!超無理!」


「ふーん。そんなものなのかしらね?」


「さぁな?それにしても良かったよ。こうして前見たいに話せて。このまま自分の周りまで変わっちゃうじゃ…ない…かと…おもって…ぐすっ」


「ちょ!何泣いてんのよ!」


「ひっく…。なんか…この体になってから涙腺よわくてなぁ~ぐすっ」


「大丈夫よ。アタシ達は変わんないからさ!哲也固まりすぎ!ほら、心愛もなんか言いなさい。さっきから黙ってるけど…心愛?」


アリスが先程から一言も発しない心愛を見ると、涙をながしながらひどく冷たい目で楓を見ていた。


「…なんで?」


「こ、心愛?どうしたんだ?」


「なんで病院に行ったの?」


「え?あ、いや、先々週かな?駅のホームの階段でさ俺の前を歩いてた子が足すべらせて落ちてきたんだよ。それ押さえたら痛めちゃってな。それでだな」


「そんな子そのまま落ちちゃえば良かったのに…」


「心愛?そんな事言うなよ。あのままだったら大怪我してたかもしれないんだぞ?」


「そんなの知らない!その子を助けたせいでふーまはこんなことになったんじゃない!その子がちゃんとしてればふーまが病院に行って変な薬を飲むこともなかった!そしたらこんな事にだって!なのに…なのに!う゛ぅ~~~!うぇぇ~ん」


三人が今まで聞いたことのない大きな声で心愛が泣き叫ぶ。

大粒の涙を流しながら。

他の客もなんだ?といった目でこちらを見てくる。


「心愛?そんなに考えてくれてたなんて嬉しいよ。だからな?ほら、泣き止んでくれよ」


「ぐすっ、ぢがう…ぞうじゃないの…。ふーまが女になっちゃっだら、私は…私は…」


「ごめん、ふう…楓。心愛はあんたもその落ちて来た子も責めたいんじゃないの。アタシからは言えないけど、この子にもいろいろあるのよ。だからごめん。ちょっとアタシ達帰るね。また連絡するから。ほら心愛、アタシんち、いこ?」


そう言って泣いてる心愛の肩を抱くと、二人分のコーヒー代を置いて店を出ていった。


「大丈夫かな?」


「さぁ?俺には女心はわからん」


「知ってる」


二人は同時にコーヒーに口をつけた。


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