第13話 俺っ娘美少女新入生
「おい、なんか言えよ」
女子制服に身をつつんだ楓が言う。せっかく着たのに三人からなんの反応もないのだ。
「いやぁ~これはなんとゆーか、思ったより似合いすぎててちょっと嫉妬しちゃうわ」
「さすが楓。すごい可愛い。でもやっぱりその胸は目立つかも」
「………」
「テツ?」
「え?あ、うん。まぁいいんじゃないか?」
「なんだよそれ」
「それでサイズはそれでいいの?」
「あぁ、今ので丁度だから成長を見越してあとワンサイズ大きいのにするよ。それにしてもスカート短くないか?なんか頼りないし、すぐ見えそう」
「みんなそんなもんよ。見せない歩き方は後で教えてあげるわ。それにしても成長?あんた、まさかそれ以上大きくなるつもりなの!?」
と、アリスが胸を見て言う。
「どこ見て言ってんだよ!胸じゃなくて身長!せめてもう少し身長が欲しい。切実に」
「あ、そゆことね」
「ったく!じゃ、会計済ましてくるわ。そしたら飯食いに行こーぜ」
レジに行き会計を済ませる。内側に名前が刺繍で入るため、完成したら郵送してくれるようだった。
そして今はいつものファミレスに来ていた。そこでアリスからの疑問が飛ぶ。
「そいえば、学校ではどうするの?元男ってのは最初から言ってくの?黙ってるの?」
「それなんだけどな、学校側とお母さん達が言うには、黙ってたほうがいいんじゃないかってさ。騒ぎになるから」
「まぁ、それが無難よね」
「だから多分、ボロがでないように慣れるまではアリスと心愛には迷惑かけるかもしんないなぁ」
「まぁ、それはしょうがないんじゃない?でも口調は?」
「こればっかりはどうしようもなんないな!」
「せめてもう少し柔らかい感じにならないの?」
「んなこといわれてもなぁ…んんっ、ゴホンッ!━━━ねぇねぇ、てつくんそれ一口ちょ~だい?」
楓は、自分の中の女の子がしたら可愛い仕草ベスト10に入っている、指を口に当てて首をかしげる仕草で哲也に寄ってみる。
「ブフッ!な、なんのつもりだ!」
「ほーらな、笑われた」
「「「………」」」
「なんだよ?」
「ダメねこれは」
アリスが言う
「破壊力がハンパない」
心愛が同意する
「はぁ」
哲也がため息をつく。
「だから言ったのに…」
楓と三人の間で認識の違いが起きていた。
楓の中では、【俺がこんなことしたら笑われる】という感覚。
三人の中では、【こんな可愛い事されたら勘違い男が多発する】という感覚。
三人は目を合わせて頷く。【このままでいい】と。だが、それは楓の母親と姉の手によって無駄になってしまうことを想像すらしていなかった。
昼食を食べたあとはアリスと心愛による、女の子講座という名の建て前のショッピングである。学校で使う小物や筆記用具、アクセサリー等を買いに買いまくっていた。楓も二人に教わりながら色々と買い込んでいく。
時々男性からの視線を感じることはあったが、哲也がいたため声をかけられることもなく、特に気にしないで買い物ができた。
そして今は帰り道。アリスと心愛とは途中で、道が別れるため今は哲也と二人きり。
哲也の両手には今日の買い物で買った袋がぶら下がっていた。
「悪いな、持ってもらっちゃって」
「いや、大丈夫だ。今のお前じゃ重くて持てないだろ?」
「まぁ~ね」
「それにしても女ってのはこんなに色々必要なのか?」
「俺もまだ良くわかってないけど必要みたいだぞ。実際に今までは使ってなかったのに、使うもの増えてるしな」
「どんなのだ?」
「まずはブラとか下着類だな。こないだの買い物で上下セットだけで5つも買ったしな。ショーツだけでも…」
そこまで言ったところで顔を赤らめた哲也からストップがかかる。
「ちょっと待て。その話はさすがに勘弁してくれ」
「あ、ごめん。そうだったな。もう違うんだもんな…まぁ、色々だよ」
「すまん」
「いやいいよ。俺も今は慣れちゃったけど、こうなる前にアリス達にそんな話されたら困ってただろうしな」
「そうか。何か俺に出来る事はあるか?」
哲也が聞くと、楓はその細い指を顎に当てて考えて込む。
「ん~なんだろうな。特にないかな?」
「ないのか」
「まぁ、今のまんまで十分ってことだよ♪あ、でもたまには助けてよ?」
哲也より数歩前に行き、振り向いて笑う。
その顔を見ると哲也は何も言えなくなってしまった。
「送ってくれてありがとねっ!荷物も持ってくれたし」
「あ、あぁ」
「じゃあまたね!」
楓が扉の向こうに消えていった。
それを見つめて哲也は思う。
(楓、お前は気づいてないかもしれないが、だんだんと、少しずつ女らしくなっていってるんだ。だからあまり無防備な姿を晒さないでくれ。じゃないと…)
━━━━━━
「ただいま」
「「おかえり」」
リビングからは加奈子と佳奈が二人揃って出てきた。
「な、なんだ?二人して」
すると加奈子が一歩進んで口を開く。
「制服は頼んだの?」
「え?あぁ、ちゃんと頼んだぞ」
「そう、その袋は?」
「これは学校で必要なものとかを、いろいろアリス達に聞きながら買ってきたんだ」
「そう、ならもう後は入学を待つだけね?」
「お、お母さん?どうしたんだ?」
「楓。これから入学式までの期間で言葉遣い、仕草、スカートでの動き方、料理の基本を叩き込んでいきます」
「え?え?」
「佳奈?」
「らじゃあ!」
「お姉ちゃん!?」
加奈子に呼ばれた佳奈が、楓の後ろに回り込み押さえつける。
「さぁ、もう逃げられないわよ?覚悟しなさいね?」
「ひぃっ!テツ、たすけてぇーーー!」
その声はもう哲也には聞こえない。
そして入学式の朝
「いってきま~す」
1人の少女がスカートを翻し、柊木家の玄関をくぐっていった。
街の中心より少し外れたところの少し長めな緩やかな坂道。そこを登って行った所にその高校はあった。
道路の脇には桜が咲き、花びらを舞わせている。
その中を数多の視線を浴びながらも背筋をピンと伸ばし、涼しい顔をして歩く姿があった。
背中の中程までの黒く綺麗な髪。大きな瞳はクリッとしてとても愛らしく、小さな桜色の唇。小柄ながらも出るところは出ている魅力的なスタイル。
スカートから伸びるスラッとした足は同じテンポで歩みを進めていた。
これだけの美少女だ。男女共に見るな、気にするなというのは無理な話である。
校門が近付くと、その少女の表情がまるで花の咲いたような笑顔に変わり、少し駆け足になる。視線の先にはメガネをかけた背の高いメガネをかけた整った顔の青年に、銀髪の美少女。 それとサイドテールの小柄な可愛らしい少女がいた。
少女がその三人の側までくると、その小さな唇からまるで鈴の音のような声が辺りに響いた。
「ゴメンね、俺、ちょっと寝坊しちゃった!」
「「「「「俺っ娘だとぉ!?」」」」」
柊木 楓。
華々しく高校生活のスタートである。
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