第12話 完全無欠の女子高生!

「楓、そろそろご飯だから起きなよ」


 姉である佳奈の声で目が覚める。眠る前までの不安は消えていた。


「ん、わかったぁ」


 ベッドから起き上がると枕元に置いていたゴムを取り、寝てる間にボサボサになった髪を後ろで一本に止める。まだ慣れていないため、少しバランスが悪いが気にしない。

 次にスマホを取って寝てる間のメッセージ確認。


(お、心愛から来てるな)


 内容はこうだ。


『昼間はごめんなさい。もう大丈夫だから。電話帳も楓になおしといた。あたしとアリスで女の子の事教えて上げるから任せておきなさい。』


(心愛らしいな。とりあえず返事は飯食ってからにするか)


 スマホをポケットに入れて下に降りるとすでに夕食がテーブルに並んでおり、後は食べるだけだった。


「お!今日唐揚げじゃん!やった!」


「やっと降りてきたわね。って何よその髪は。もっとちゃんとしなさいよね」


 文句を言いながら佳奈が櫛を片手に後ろにまわり、楓の髪をなおしていく。


「えー、別にいいよ」


「ダメよ。こーゆーのが大事なんだから。でないとすぐに痛んじゃうわよ?」


「はいはい。そんなことより早く食べよーぜ!」


「まったく!あれ?そいえばお父さんは?」


「残業だから先に食べてていいって。だから食べてましょ。その方が後片付けも楽だし」


「じゃ、いただきまーす!」


「ちょっと!考えて食べなさいよ!」


 ━━━━━━「ケプッ」


 ソファーの上で横になりウーウーうなっている楓の姿がそこにはあった。そしてそれを見下ろす佳奈。


「だーから言ったじゃない。いつになったら覚えるのよ。前と同じ感じで食べたらすぐおなかいっぱいになるんだからね」


「だって~。唐揚げ好きなんだもん」


「もんってあんた。後ちゃんと野菜も食べなさい。ちゃんとバランス良く食べないと太るしニキビ出るわよ?」


「えー、そんなん別に気にしな……くもなくないかも?それはなんか嫌かも?」


「でしょ?」


「はぁ、女ってめんどくせぇ」


「一番めんどくさいのがまだでしょーが」


「なんだよそれ」


「そのうちわかるわ」


 そこで洗い物を済ませた加奈子が、エプロンで手を拭きながらやってくる。


「そうそう、今日高校に電話したわよ」


「おっ、それでなんだって?」


「新しい写真と住民表を持って行けばいいみたいよ。だから明日お母さん行ってくるから」


「ずいぶん簡単なんだな?」


「そうね。なんでかしら?でもまぁ、楽なことにこしたことはないからいいじゃない」


「まぁね」


「それで制服なんだけど、もう買ってしまった場合は、男子用の制服を持って行けば交換してくれるみたいよ。ただ、女子制服の方が少し高いからその差額は後で払わないといけないみたい。だから後で持って行きなさい。サイズも合わせてもらわないといけないし」


「結局1度も袖を通すことなく返却かぁ。じゃあ明後日辺りにでも行ってくるか。明日は休みたいし」


「そうね、そこは任せるわ」


「ちょうど心愛から連絡来てたし聞いてみるかな」


 スマホを取り出すとメッセージアプリを起動する。そしていつもの4人だけのグループチャットを開く。


 楓『なぁ、心愛とアリスは明後日は暇か?』


 すぐに既読が三件つく


 アリス『どうしたの?』


 心愛『なに?』


 哲也『オレは?』


 楓『女子用の制服頼みに行くんだけど一緒に来てくんない?』


 アリス『アタシは大丈夫』


 心愛『おけー』


 哲也『そういう事ならオレは役にたてそうにないな』


 楓『助かる』


 アリス『ところで心愛はちゃんと謝ったの?』


 心愛『もちろん』


 楓『ちゃんと謝られたぞ』


 アリス『ならいいわ。あと楓ゴメン』


 楓『なにがだ?』


 アリス『なんとなく先に謝っておこうと思って。気にしないで』


 楓『なんだそりゃ。じゃあ明後日の10時頃に駅前でおけ?』


 アリス『わかったー』


 心愛『任せといて。色々教えるから』


 心愛 【百合の花のスタンプ】


 楓『色々?』


 心愛『気にしないで』


 アリス『……………』


 そこで加奈子から声がかかる。


「楓、行くならちゃんと哲也君も誘いなさい。ボディーガードとして」


「その理由はなんか申し訳ないんだけど…」


「今日あんな事あって何言ってんの」


「はいはい」


 軽く手を振って話をさえぎると、再びスマホに目を向ける。


 楓『なんか、お母さんがボディーガードでテツも連れて行けってさ』


 アリス『え、えっ!?』


 心愛『いいんじゃない?』


 哲也『わかった。オレも行くぞ』


 楓『助かる。じゃあ俺は風呂入るからまたな』


 アリス『ちゃんとケアしなさいよ』


 心愛『今度一緒に入って教えてあげる』


 アリス『心愛あんた…』


 楓『はいはい、じゃあな』

 ◇

 ◇

 ◇

 そして約束の日の午前10時。駅前。


「アリス達はまだ来てないみたいだな?」


「そうだな。まぁそろそろ家に来るだろ」


「だな。にしてもまさか朝から迎えに来るとは思わなかったぞ?」


「こないだのこともあるし、今のお前を1人で歩かせる訳にはいかないからな」


「大げさだって」


「守ってやるって言ったからな」


「っ!おまっ、お前は何をっ!」


 焦る楓。そこに声がかかる。


「ゴメン、遅れた!」


「悪いのはアリス。いつまでたっても服決められないから。あれ?楓顔赤い?」


 言われて顔に手を当てるが確かに少し熱いかもしれない。


「え?なんだろ?暑いのかな?」


 そこで哲也が口を挟む。


「服なんて別になんでもよくないか?」


「哲也、あんたはホントに女心がわかってないわ! 」


「俺は男だからな。それにお前なら綺麗だし何を着ても似合うだろ?だから言ったんだが」


「………」


「あ、あ、あんたはホンットそーゆーところよ!」


「ほら、もういいから早くいこう。楓の制服頼みにいくんでしょ?」


 そうして四人は制服の販売店へと歩いて行く。アリスと心愛が前を歩き、哲也と楓がその後ろにつく、いつもの並びだ。

 前の二人は何やら楽しそうに話しているが、後ろの二人は会話がない。とゆーか楓が喋らない。


「なぁ、具合悪いのか?」


「………」


「おい、大丈夫か?」


 そこでやっと口を開く。


「………………な」


「なんだって?」


「お前、俺の格好は誉めたことないよな」


「は?あぁ、佳奈さんが選んでるんだよな。あの人も綺麗だしセンスいいよな」


「もういい。なんでもない」


「なんだ?なんで機嫌悪くなってるんだ?」


「………」


 そこからまた喋らなくなる。自分でも何故こんなにイライラしているのかがわからない。その事に更にイライラする。もうっ!ってなりながら目的地に着いた。


「すいません、昨日電話した柊木です。制服の交換とサイズの調整にきたんですけど」


 楓がそう言うと店員はすぐに対応してくれた。学校側から連絡が行ってたらしく、スムーズに事が進み、今は試着室の中で下着姿で女子用の制服を広げてみていた。


(き、着方がわからない)


 カーテンを開き、試着室から顔を出すと丁度三人がいた。何故か哲也は、顔を赤くして目を背けていた。


(むっ)


「楓!ブラ見えてる見えてる!カーテン開きすぎだから!」


(お?ホントだ。ってことはテツにもみられた?だから顔赤くしてたのか?なーんだしっかり見てんじゃん♪)


 何故か少し機嫌がよくなり、一度カーテンを閉じて今度は顔だけを出して言った。


「なぁ、誰か制服の着方教えてくんない?」


「あ、それなら」


「任せて」


 アリスが言い切る前に心愛が試着室に入ってきた。


「で、これどう着るんだ?」


「………」


「心愛?」


 ムニュ


「ひゃあぁ!」


 突然、心愛が楓の胸を後ろから鷲掴みにしてきた。


「や、柔らかいっ!あたしよりおっきくて指が沈んでいく。こんな、こんなっ!」


「お、おい心愛!やめ…あっ…ろっ…んっっ!」


 楓が止める声も聞かずにワッシワッシと揉んでいる。

 すると試着室の外から声が聞こえる。


「ちょっとなんて声だしてんのよ!どうしたの?」


「た、たすけて、心愛が胸を…」


 すぐにアリスが試着室に入ってきて楓の体から心愛を引き剥がすと、外に放り投げた。


「まったくあの子は何を考えてんだか!大丈夫?」


「だいじょばない。力入んない」


 床に座り込んだ下着姿の楓の顔は赤く染まり涙目になっていた。ドキッ


「……ごめん。ちょっと心愛の気持ちわかるかもしんない」


「なんでだよっ!」


 その時試着室の外では


「哲也、楓の声聞いた?」


「勝手に聞こえてきたな」


「楓の胸、すっごい柔らかかった。あれはヤバい」


「そうか」


「顔赤いよ?」


「ほっとけ」


 そして試着室の中から物音が無くなるとアリスが先に出てきた。


「心愛ごめん。あれはヤバいわ」


「わかってくれたならいい」


「まったくお前らは何をしてんだ……っ!」


 その時カーテンが全て開き、哲也は思わず息を飲む。

 出てきたのはヒラヒラとしたプリーツのスカートに、胸で押し上げられた白いブラウスと一年生カラーである黄色いリボン。そしてスカートと同色のブレザー。

 そして照れから来る赤く染められた頬。軽く首をかしげながら三人に問う。


「どうかな?」


 そこには完全無欠な美少女女子高生がいた。

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