第14話 集まる視線
四人は並んで昇降口の前に設置された掲示板まで来る。クラス分けを見るためだ。
その姿を横目に見る者、聞き耳をたてる者が周りに集まっている。理由は簡単。あの名前も知らぬ美少女とお近づきになりたい、同じクラスがいい!ってだけ。
もちろん楓はそんな事になっているなんて気づいてなんかいない。アリスだけはそんな経験があるのか、周囲を警戒していた。
そして楓が声を上げた。
「あっ、俺は1ー2だって。アリスも一緒だけど、テツと心愛は1ー1だね」
(あ~ぁ、テツと離れちゃったな)
その時
「おぉぉぉぉぉ!俺は勝ち組だぁぁ!」
「くそぅっ!一緒になれなかった!」
「なんてこった!だがまだ選択授業がのこっている!そこでせめて一緒に!」
との様々な声が回りから聞こえてくる。
アリスはため息をついていたが、当の本人は、
(他の人達も友達と一緒のクラスになれたりなれなかったりなのかな?)
位にしか思っていなかった。
「なら、楓のフォローはアリスがメインになるな」
「羨ましい」
「へへ、アリスお願いね?」
「はいはい、わかったわよ。それよりも早く行くわよ。ここにいたら邪魔になるもの(後、周りが鬱陶しいしね)」
そう言って先陣を切って歩いて行く。
「じゃあアタシ達はこっちだからまたね。ほら楓行くわよ」
「うん」
「心愛、俺達も行くぞ」
「あぁ、楓と離れてしまう~」
そんなやりとりをして教室に入る。瞬間、中にいた人達の視線が一斉に入口に向いた。
(美少女だ。美少女が二人並んでいる!)
(俺、このクラスでよかった!)
(もう二度とクラス替えしないでくれ!)
(わっ!可愛い!ちっちゃい!)
(キマシッ!)
(ちっ)
アリスはその見た目のせいでそんな視線を向けられることは多々あったため、堂々と中に入っていく。
一方、楓の方は男だった時は余り目立たない存在だった。哲也やアリスに心愛といった、見た目華やかなグループの中になんでこんなモブが?みたいな視線はあったが、このような複数からの好奇の視線を向けられたことはないために萎縮してしまう。
なので、アリスの背中に隠れる様に歩みを進めた。
その行動がまた庇護欲を抱かせ、男からの愛でるような視線、一部の女からの嫉妬の混じった視線を集めてしまう。
そこでアリスが楓の耳元で囁いた。
「やっぱりこうなったわね。あんたこれから大変よ?覚悟してなさい」
「えぇ~~~」
一体何を覚悟しろと言うのか。わからないまま黒板に書かれた席順に従って座る。
そこでアリスとも離れてしまった。元モブには、もうどうしようもないので、時間がすぎるのをずっと下を向いて待っていようとした。
(アリスはこんな視線をずっと向けられてたの?キツイなぁ…。早く終わんないかな…)
「ねぇ」
(はぁ、今日が入学式だけなのが救いかも)
「ねぇちょっと」
(こんなの慣れる時来るのかな?)
「ねえってば!」
(!?)
耳元で呼ばれて慌てて顔を上げる。すると、すぐ目の前に黒髪ポニーテールの美少女がいた。
(わっ、可愛い!それに俺よりも胸大きいかも…)
「えっと、俺?」
「そうあなた。そんな可愛いのに自分の事を俺って言うんだ?キャラ作り?」
「え、あ、違う違う!昔からずっとだよ。昔は男っぽかったし…」
(男だったからね)
「ふ~ん。まぁいっか。奈々はね、橋本奈々【はしもと なな】よろしくね。あなたは?」
「柊木 楓【ひいらぎ かえで】よろしくね?」
「楓ちゃんね。奈々の事は奈々でいいから」
「うん、わかった」
「それにしてもすごいね」
「え?何が?」
「楓ちゃんとあの銀髪の子が入ってきたらみんな見てたよ」
「へっ?あ、う~ん?うん…びっくりした」
「奈々も見られたけど、見てきたのは男子ばっかりで、胸しか見てなかったし。まぁ、中学の時からだから慣れたけど」
そこで何人かの男子が気まずそうに視線を泳がせる。
「慣れるもんなんだ…」
「楓ちゃんは?楓ちゃんも胸おっきいし、そんな感じじゃなかった?」
「あーうん、感じる視線はそう…かも?全然慣れないけど」
「やっぱりー!同じだね♪そいえば、彼氏はいるの?」
「へ?彼氏!?いないいないいない!」
予想外の質問に声が大きくなってしまう。それを聞いた男子がガッツポーズ。
アリスはため息を吐く。
「そーなんだー!じゃあ好きな男子は?いなかったの?」
「す、好きな男子ぃ!?い、いないよっ!いたこともないよっ!」
そこでさらに男子のテンションが上がる。
そしてアリスは頭を抱えた。
(あ、あの子は…!自分でエサ撒いてどーすんのよ!)
「そんなに可愛いのにもったいない」
「そんなのいらないし…。奈々ちゃんは?」
(元男なのに男と付き合うなんて無理無理!)
「奈々?いるよー!相手はちょっと言えない相手だけどね!」
そこで凹む男子が数人。
「そうなんだ。凄いね~」
(彼氏か…。彼女だってできたこともないのに、とてもじゃないけど考えてなんかいられないなぁ)
そこで教室の前のドアが開いて教師らしき人が入ってきた。今から入学式が始まるので、席順の並びで廊下に整列するようにとのこと。
言われた通りに並んで体育館の入り口まで来ると、胸に花をつける為に上級生が待機していた。するとそこに知った顔を見つける。
佳奈だった。
(あっ!)
「ほら楓、こっちきなさい。あたしがつけて上げるから」
「お姉ちゃん!」
((((お姉ちゃん!?))))
「制服似合ってるじゃない。可愛いわよ」
「へへ、ありがと♪」
と、はにかむ楓に上級生の男子も見とれてしまった。
「へぇ、柊木の妹なんだ。可愛いじゃん紹介して…ひっ!」
一人がそう言いかけると佳奈の目がその男を鋭く睨み、低い声が響く。
「あんたら…あたしの妹に手出したら全身の毛をむしってカラシ塗り込むからね?」
「わ、わかったってば!」
その声を聞いた同級生もビクッとなる。
「お姉ちゃん早く!詰まっちゃってるから!」
「あら、そうね。はい、付いた!お母さんとお父さんも来てるから寝るんじゃないわよ?」
「ありがと!わかってるよ!もう!」
(((怒ってる姿も可愛い)))
もう、何しても可愛い状態である。
眠気と戦いながらなんとか入学式が終わり、教室に戻ってくると担任から明日からの簡単な説明を受ける。それでやっと終わりかと思いきや、定番の行事が待っていた。
「じゃあ、そっちの列から自己紹介をお願いします」
(はぁ、やっぱりあるんだ…)
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