女の子になった私が恋してることを貴方はまだ知らない

あゆう

第1話 プロローグ

「ごめんなさい」


 制服を着た少女がそう告げて頭を下げると目の前の少年は、少女の全身を上から下まで見ると、軽く睨むようにして立ち去っていく。少女の視線を下を向いたままだ。


「またか?」


 少女の後ろから声がする。さっきまで姿が見えなかったことから、物陰に隠れて聞いていたようだ。


「…あぁ、まただ」


 少女は振り向く事無く答える。


「…大丈夫か?」


「なにが?」


「いや、なんでもない」


「そっか」


 少女は言いながら風で流される長い黒髪とスカートを、白く細い手で押さえつける。

 視線は下を向いたまま。

 場所は屋上。

 今は放課後。

 告白するには定番の場所と時間。

 少女はついさっき告白をされていた。けれどもそれは決して好意からのものではなく、欲望を満たすための告白でしかなかった。


「イヤになっちゃうよなぁ。オレ、男なのにさ」


「正確には男だけどな」


「けど、なりなくてなったわけじゃない」


「わかってるさ」


「俺が元男だって広まってから、男子達が教室でも廊下でも遠慮無く胸とか尻、足ばっかりみてくるんだ。誰も俺自身を見ようとしない。好きだなんて言いながらみんな考えてるのは違う事ばかりなんだ」


「少なくとも今までお前に告白してきた奴はそうだな」


「お前も男だったなら気持ちわかるだろ?とか、女じゃないなら少し触るぐらいいいじゃんとか言って来るけどイヤなんだ」


「わかってるさ」


「今じゃ、男の人が怖くてしかたがないんだ」


「俺もか?」


「いや、お前は他の奴とは違うだろ?つーか、俺がまともに話せる男子はお前ぐらいしかいなくなっちゃったな?」


「はっ、それはそれは光栄な事だ」


「だからね…」


 さっきまでとはすっかり口調も雰囲気も変えた少女は、後ろを振り向き、顔を上げて少年を見つめて微笑む。両手は何かに耐えるように胸元でしっかり握られている。

 美少女と呼ぶに相応しい容姿をした彼女の大きな瞳はうっすら潤み、それでも表情を崩さずに言った。



「あなただけは【わたし】のことを好きにならないでね」


 それは決別の言葉

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