第2話 ニュースと卒業式

 今日は3月の第一土曜日で中学の卒業式。

 彼、柊木楓真ひいらぎふうまが朝起きてリビングに行くと、テレビにはニュースが流れており、母親が朝食が乗った皿を持ったままそれを見て固まっていた。


「━━先日未明、○○県△△市の県立病院に勤めている○△医師が逮捕されましたが、その晩、署内にて亡くなりました。○△医師は遺伝子を秘密裏に変化させる薬を作っており、その薬を患者に無断で飲ませるなどの行為を行っており、効果に関しては、その薬に適応していた場合性別が反転するというもので実際に何件か被害が上がってきている模様です。効果が出るまで個人差がある模様です。薬の名称は****で、症状が出た方、お持ちの方はすぐに○☆△病院にご連絡下さい。それでは次のニュースです。カワウソの赤ちゃんが………」


(ん?どっかで見たことあるような?)

 楓真は記憶を辿るが、元々人の顔を覚えるのが苦手なのもあって中々思い出せない。


「ちょっと楓真!これ、先々週あんたが膝痛いって行った時に診て貰った先生じゃない?」


(あー、確かにそうかも。しっかしすごいもん作ってんなぁ)


「ほら!早く薬持ってきて!確かめないと!」


 母親は焦った様子で楓真に詰め寄る。


「持ってくんのはいいけど、もう、昨日で無くなったぞ?ちょっと待って……ほら」


 そう言って出した薬の袋の中から出した処方箋には、普段からよく見かける痛み止め、胃薬、そして先程ニュースで言っていた薬が入っていた。


「ちょっと見てこれ!さっきのじゃない!あんた体は大丈夫?なんともない?」


「じ、実は胸が少し大きく…」


 楓真が冗談で言うと、


「なっ!ちょっと見せなさい!ほら!」


 すごい剣幕でパジャマをまくりあげてきた。


「ちょっ!冗談だって!息子の服を剥ぐな!それに一週間飲んでてなんもなかったんだから大丈夫だっての!」


「あんたねー!言っていい冗談と悪い冗談があるでしょまったく。なんか違和感あったらすぐにいいなさいよバカ!」


「なんで卒業式の朝から怒られなきゃなんないんだよ。ったく」


 パジャマの裾を直し、テーブルにつくと二階から足音が聞こえてくる。サイドテールでピンク色のパジャマを着た1つ上の姉、佳奈が降りてきた。


「ちょっとお母さん朝から何騒いでんの?血圧上がるよ。春休みなんだからゆっくり寝かせてよ」


「楓真が変な事言うからよ」


「変なこと?」


「あー、なんつーかな?あっ!ちょうどいいや。また流れてるからテレビ見てみ?その薬俺も飲んでてさー。冗談言ったら怒鳴られた」


 楓真が説明する。


「そりゃあんたが悪いわね。卒業式の日くらいおとなしくできないの?」


 佳奈はそう言いながらポケーッとコーヒーを淹れている。


「はいはい、すいませんでしたー!」


「ほら、早く食べて学校いきなさい。最後なんだからちゃんと先生に挨拶するのよ」


「わーかってるって!よし、食べた!じゃ、歯磨きしたらそのまま行ってくるわ!行ってきまーす!」


「「行ってらっしゃい」」


「あっ、着替えてなかったわ」


「「………」」


 最後の中学の制服に袖を通したら、颯真は家を出ていつも寄っているコンビニに向かう。


「よっ!テツ!」


「あぁ、やっと来たか。行くぞ」


 そこで待つのは幼馴染みの立花哲也たちばなてつや。幼馴染みが可愛い女の子なんてそうそうあるものではない。

 そしてこの男、短めの髪にメガネ姿。容姿端麗だがスポーツはそこそこ。ぶっきらぼうだが、結構モテる。しかし、そんな話は聞こえてきた事がない。

 いつも楓真とつるんでいるため、腐った人達にはキラキラした目で見られがちだが、楓真が彼女ほしーい!とよく言ってるためそんな事もない。



「おう!にしてもとうとう卒業だな!」


「俺からすればやっとって感じだな」


「高校行ってもよろしくな!テツ」


「あぁ、そうだな。こちらこそだ」


「そいえば明日のクラス会はどーする?行くか?俺は顔出そうと思ってたけど」


「お前に任せる。ただ、1人では行きたくはないな」


「お~い!おっはよ~☆二人とも♪」


 声をかけてきたのは二人の中学からの友人で、清水アリス。日本とどこかの国のハーフの、整った顔立ちで銀髪の美少女だ。

 アリスもモテるのだが、片っ端からフッている。


「おう、おはよーさん!」


「おはよう」


「卒業式だねー!アタシ泣いちゃうかも!」


「そーゆーやつに、限って泣かないんだよなー!」


「ひどいっ!そーいえば哲也のボタン狙ってる子が何人いるみたいだよ?」


「無理だな。来年入学の弟におさがりでやらなきゃならん」


「じゃあ、誰にもあげないの?」


 アリスが後ろ手に上目遣いで聞いてくる。


「当たり前だ」


「そっか…よかったぁ」


「ん?何がだ?」


「ん~ん、なんでもないっ!」


 そんな二人を砂糖でも吐きそうな目で見ていた楓真。


「なぁ、俺のは?俺のボタン欲しいって奴はいた?」


「え?いないよ?」


「夢も希望もないっ!」


「あーでも、心愛ならお情けでもらってくれるかもよ?聞いてみたら?」


「心愛かー!って聞けるか!自分から第二ボタン貰ってくれなんていう奴聞いたことないぞ!」


 水上心愛みずかみここあ。ここにはいないが、同じクラスの腐った本が好きなおとなしめな小柄な子で、なぜかこの三人とは良くつるんでいる。肩までの髪を気分によってちょこちょこ変えてくるので定まった髪型がない。ボケもツッコミもこなすハイブリッド。

 そして心愛を含めたこの四人は同じ高校への進学が決まっていた。


「まぁ、高校行ったらがんばりなさいな♪」


「ぜってー高校では彼女つくってやるからな!」


「む?彼女が出来たら俺と遊ぶ時間が減るじゃないか」


「いや、お前そーゆーこと言うから水上みたいなのが騒ぐんだろーが!」


「俺は気にしない」


「高校では気にしろよ!俺が何度『立花君と付き合ってるの?』って聞かれたことか…」


「そんな周りが勝手に言ってることをいちいち気にしてられんだろ。俺は俺、お前はお前だ」


「はいはいそーですね!聞き飽きたわ!」


 何度となく言われてきた言葉。のちに楓真はこの言葉に助けらる事になる。


「ほら二人ともそろそろ学校着くよ!さ、中学最終日気合い入れていこー!」


 その後は卒業式も無事に終わり、笑顔や泣き顔が溢れるなか、教室には4人の姿があった。


「いやー、終わったなぁ!後は春休み中あそぶだけだ!」


「ひぐっ……うぐっ…ふぇぇぇ~」


 集まった楓真、哲也、アリス、心愛の中でアリスだけがこれでもかってくらいに号泣していた。


「アリス、いい加減泣き止んで?みんな高校も一緒なんだから寂しくないわ」


「だってぇ~~」


 心愛が声をかけるが中々泣き止まない。


「ほら、4人で打ち上げ行くんだろ?だから母さん達を先に帰したんだからさ」


「いく~。ぐすっ」


「ダメだこりゃ」


「まぁ、今日で最後なんだ。もう少しくらいは泣かせてやれ」


 それから15分後、やっと泣き止んだアリスを心愛が支え、校門まで行くと校舎に振り返り頭を下げた。


「「「「ありがとうございました!」」」」

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