第3話 女の子になっちゃいました

 ファミレスに着く頃にはアリスはいつも通りに戻っていて、泣いたせいで赤くなった目のことばかり気にしていた。


「ねぇ心愛、赤み引いた?大丈夫?」


「大丈夫!ウサギみたいで可愛いから」


「それ大丈夫じゃないじゃん!うぅ~」


「おーい、そのやり取りはもういいから。ファミレス着いたぞ」


 4人は店内に入ると案内されテーブルにつく。楓真の隣に哲也、向かいに心愛で哲也の向かいにはアリスだ。


「で、何頼む?とりあえずドリンクバーだろ?けど、なんか食うのと一緒の方が安くなるぞ。だから大皿でみんなでつつけるのたのもーぜ!」


「さすがふーま。セコい」


「うるせーよ心愛。セコいゆーな!合理的と言え。じゃ、定番だけどポテトでも頼むか」


「なら飲み物は俺が取ってこよう。みんな何にする?」


「俺、コーラな」


「アタシはミルクティー」


「私はコーヒー。砂糖増し増しシロップ汁だくで」


「わかった」


「お~い!それただの糖分だから!そしてテツもそのまま受けとるな!こいつのはココアで十分だよ」


「心愛にココアって…ふーま最高!面白いね!きっと高校ではモテモテ決定」


「ぐうっ…腹立つ」


 ケラケラと笑う心愛をしり目に楓真は呼び出しボタンを押してポテトを頼む。

 その間に哲也が全員分の飲み物を持ってきて、4人だけの卒業式の打ち上げが始まった。

 雑談に始まり中学時代の思い出、新生活への期待や希望。時には写真を撮ったり…。

 そんな他愛のない話をしているうちに外は暗くなっていく。


「あーもうこんな時間か。そろそろ帰るか」


「そうだな。各自家でもお祝いの準備もしているだろう」


「じゃ、また今度ね!明日のクラス会はみんなどーするの?」


「俺はテツと顔出しにいくよ」


「そうゆうことになってる」


「私は行かない」


「えっ、心愛行かないの?」


「あまり大勢で…ってゆうのは苦手」


「そっかぁ。そいえばそーだったね。じゃ、アタシも行かない!だから明日心愛ん家遊びに行ってもいい?」


「フった相手がいるから気まずいんでしょ?いいよ。待ってる」


「も~!そゆこと言わないでよ!」


 アリスと心愛が話し出すとまた止まらなくなるので楓真が止めた。


「ほら、そろそろ会計するぞ」


 店を出ると学生が多く出歩いていた。この辺りの中学校は軒並み今日が卒業式だった為、楓真達と同じ様な理由で集まっているのだろう。すれ違う顔はどれもみな浮かれていた。


「じゃ、この辺で解散するか!また今度な!」


「あぁ、俺はまた明日な」


「バイバーイ」


「じゃ」


 4人はそれぞれ違う道を歩いていく。



「あー、流石に今日は少し喋り過ぎたか?ちょっとつかれたな」


 そう呟きながら帰路につく。


「ただいま母さん」


「おかえりなさい。たのしかった?」


「あぁ、かなり盛り上がったよ。アリスなんか号泣だったしな」


「あらあら。じゃ、あんたはさっさとお風呂入ってきなさい。もう少しでお父さん帰ってくるからそしたらお祝いよ」


「わかった。姉さんは?」


「部屋で寝てるんじゃない?」


「寝てばっかりだな。じゃ、風呂いってくるわ」


 風呂場に行くと佳奈と鉢合わせした。


「あれ?帰って来てたんだ?お風呂?」


「あぁ、母さんにさっさと入ってしまえって言われてな。てか起きてたんだ?」


「さっき起きて私もお風呂入ろうかと思ってたんだけど、卒業祝いで譲ってあげる。なんなら背中流してあげよか?」


「なに姉弟で馬鹿な事言ってんだ。しょぼい卒業祝いだなぁ」


「うそうそ、早く入っちゃって」


 風呂に入り、ささっと洗ってしまうと湯船に少し浸かりすぐにあがる。元々長く浸かるタイプではなかったし、普段はシャワーで済ますのでこんなものだ。

 それよりも、ファミレスでは結局ポテトとドリンクしか腹に入れて無かったため、やたらとお腹が空いている。

 着替えてリビングに行くとちょうど父親が帰って来たところだった。


「おぉ楓真、ただいま。そして卒業おめでとう」


「父さんおかえり。ありがとな」


「ほら早く座って、ご飯にするわよ」


「あぁ、わかったよ。じゃあ、着替えてくるから楓真は先に座っていてくれ」


「わかった」


 その後、みんなでご馳走を囲み卒業のお祝いパーティーが開かれた。

 楓真の好きな食べ物ばかりが並び、両親からはプレゼントもあった。父親からは勉強道具でも買いなさいと商品券。母親からはもう少し服に気をつかえと商品券。姉からはことあるごとに、ひたすら拍手だった。


 好きなだけ食べて腹も膨れると、次は眠気が襲ってくる。目をつぶればすぐに寝てしまいそうな眠気が襲ってくる。


「じゃ、俺はそろそろ寝るわ。明日はクラス会もあるし」


「そう?ちゃんと暖かくしてねなさいよ」


「わかったよ。おやすみ」


「「「おやすみ~」」」


 自室に行くとそのまま電気も付けずにベッドに倒れこむとそのまま眠ってしまった。


 どれくらいたったのだろうか?楓真は全身に痛みを感じて目を覚ました。


(なんだ?身体中が痛い?熱い?いや、冷たい?)


 自覚をした途端痛みが強くなってくる。


(がっ……な…んだ…これ…)


 筋肉が、骨がボコボコと動いているような感覚に、絶え間なく汗が流れ出て行く。


(痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いっ!母さん!父さん!姉さん!)


 声を出したいのに出ない。出せない。口を動かしている感覚すらも感じない。目も開かない。


(なんで?なんで?……なんだ?痛みが引いていく?体の感覚がない。体がなくなったみたいだ…)


 痛みが消えてきたかと思うと意識が遠のいて行く。


(な…んで……)




 朝、目が覚める。昨夜の様な痛みはもうない。違和感はあるものの、体の感覚もちゃんとある。まだ体を起こす気にはなれず、布団の中で丸まったまま考える。


(一体なんだったんだ?それにしても…気持ち悪いな)


 体も服も布団さえも濡れてビシャビシャになっていた。


(なんだこれ?汗か?こんなに?)


 かぶっていた布団をどかすと、昨日カーテンを閉めずに寝たせいか、日差しが入ってきてまぶしい。と、そこで違和感に気づく。


(あれ?俺の手ってこんなだっか?)


 自分の小さな手を目の前に待ってきて開いたり閉じたりするが、ちゃんと自分の意思で動く。だが何かがおかしい。そこでようやく体を起こすと更なる違和感に気づいた。


(頭が重い?)


 下を向くと後ろから長く綺麗な黒髪が流れてきた。


「うわっ!」


 思わず声をだしてしまう。


(なんだ?今の声…俺のか?)


 そこで昨日の朝のニュースが頭をよぎる。

 医師の処方した薬、遺伝子の変化、性別が反転…。


(いや、そんな…まさかだろ?)


「あーーーー」


 声を出してみる。やはりいつもの自分の声とは違う。

 もう一度手を見る。

 白く細い指。こんなんじゃなかった筈だ。その手で長い黒髪を触る。引っ張ってみると頭皮が引かれる感じがするので確かに自分の髪だ。まっすぐに伸ばしてみると自分の胸元までの長さはある。


(胸元?)


 もう一度見る。


(胸が…ある……)


 そこには以前にはなかった膨らみがあった。これが、大きいのか小さいのかは分からないが、確かにあった。


(まさか…)


 不安になり、確認するとが無くなっていた。


(そんな…うそだろ…)


 体をからは力が抜け、目からは涙があふれて来る。


(そうだ、病院!昨日のニュースでも症状出たら病院にって言ってた!行かなきゃ!)


 すぐに顔を上げて目元の涙を袖でぬぐい、立ち上がり部屋を出ようとすると


「ひゃうっ!」


 体が縮んだせいで自分のズボンの裾で転んでしまう。定番中の定番をやらかしてしまった。


(くそっ、一体どんだけ縮んだんだよ)


 濡れて気持ち悪かったのもあり、着替えを探すが下着はもちろん、服の全てがどれも大きい。夏用のハーフパンツでやっと丈がちょうどよくて、下着もずり落ちないようにハーフパンツの腰の紐を目一杯伸ばして結ぶ。上はTシャツにこれまた夏物の七分丈のパーカーを羽織った。これでなんとか手が隠れる程度である。


(今日は日曜日だから父さんも母さんもいるはず。早く連れていってもらわないと)


 そして部屋の扉を開けた。

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