第6話 改名と買い物そして着信と遭遇
いつもの時間に目が覚める。
楓は上半身を起こし、前に垂れてきた髪を背中に流す。もう、戻ってるのかを確認するのはやめることにした。昨夜たくさん泣いて少しスッキリしたのかもしれない。
ベッドから立ち上がり、グーっと大きくのびると、ドアノブに手をかけた。
「おはよー」
下に降りると母親である加奈子と姉の佳奈がいた。
「あれ?父さんは?」
「おはよう楓。父さんは会議があるからって早くに出たわよ。銀行の方は私だけでも大丈夫だし、今日はあの人いても役にたたないしね。楓も顔洗ってきなさい。昨日佳奈に教えてもらった通りにね」
「と、父さん…。わかった。洗ってくるよ」
「あ、終わったらアタシんとこ来てね。今日の服決めるから」
「えー!」
「えー!じゃないの!」
「はいはい…」
昨日は母親で今日は姉の着せ替え人形になるのが決定した。
顔を洗って佳奈の部屋に行くとそこには3つ程の段ボールが蓋をあけて楓を待ち構えていた。
「ね、姉さん?これは?」
「アタシのお古を引っ張り出してきたの!ほらおいで」
そして、今日の服装が決まった。
下は黒のスキニージーンズに上はボーダーのカットソーにアウターは前開きのニットセーターになった。
「ホント可愛いから何でも似合うわねぇ。なんかムカつく」
「可愛いとか言われてもわかんねぇよ」
「これからもっとオシャレを勉強しないとね。周りにおいてかれるわよ」
「えー、めんどくせぇ」
「…あんたはまず言葉使いね」
「………」
その時下から声が聞こえてきた。
「二人ともそろそろ朝ご飯たべちゃって!食べたらでかけるわよ!」
「「はーい!」」
呼ばれて下に降りるとスマホを構えた加奈子が待ち構えていた。
「あら~今日も可愛いわね~!」カシャカシャカシャカシャ
(もう勝手にしてくれ…)
朝食をたべて三人で家を出ると、まず目指したのは市役所である。
受け付けに病院から貰った書類をだすと別室に呼ばれて本人確認、面談、追加で書類の記入をする。以前まで使用していた保険証等も返却し、新しい物は後日郵送で届くとの説明を受けていると、書類の受理が終わり新しい住民票が目の前に置かれた。そこには確かにこう記されていた。
【
と。
高校の手続きに必要になると思われるため、念のために何枚か用意してもらい、市役所を後にした。入り口を出たところで佳奈が楓の頭を撫でながら言った。
「これで今から正式に楓ちゃんになったね」
「まぁな。ぶっちゃけ体がこんなにかわっちゃあ、書類で見たところでそんなに実感ないけどね」
「確かにね」
「ほら、二人とも今からが本番よ。早くいらっしゃい」
「えっ?本番?どゆこと?」
「説明しましょう。たった今、楓は正式に女の子になりましたね?」
「お、おう」
「だから楓は女の子としての勉強をしなくちゃいけません」
「お、おう??」
「とゆーわけで、今から下着に服に化粧品のフルコース巡りに行きます!ちゃんと頭に叩き込むのよ?ちゃんと私とお姉ちゃんで教えてあげるから」
「ひぃっ」
「さっ、駅前のファッションビルに行くわよ!お昼はそこのレストランで食べるから何頼んでもいいわよ?」
「「なんでも!?」」
「そこで揃うのは姉妹らしいわね…」
「だ、だって…」
「ちょっとお母さん。テレる楓が可愛い件について相談が」
「大丈夫よ佳奈。ちゃんとムービーでとってるから後で見ましょう」
「な、何してんだあんたらは!消せ!消せーーー!」
そんなやりとりをしながら駅前に着くと早速ビルに入っていく。
「さて、最初は下着ね。そこの店に行きましょう」
そう言って指をさしたのは男だったら一生入ることはなかったであろうランジェリーショップ。見渡す限り下着下着下着である。
「なぁ、やっぱ恥ずかしいだけど。母さんと姉さんで適当に買ってきてよ」
「だめよ。ちゃんと体にあったやつ買わないと後から大変なんだから。それにこれからアタシのことは姉さんじゃなくてお姉ちゃんと呼びなさい。でないと返事しないし店にも一緒に入ってあげないから」
「あ、私のことは母さんじゃなくてお母さんね?じゃないとご飯抜きよ」
「ちょ、姉さん?母さん?なんでいきなりそんなことを?」
「「…………」」
「えーっと、えと、お…お姉ちゃん?お母さん?その…一緒についてきて?」
「ぐっ!なんて可愛さなの!アタシこの子の姉に産まれてきてよかった!」
胸を押さえながら悶える佳奈
「………」
いまだに無言でムービーをとる加奈子であった。
(は、恥ずかしい…)
「じゃあまずはちゃんとはかってもらわないとね。すいませーん!この子初めてブラジャー買うんですけど、サイズの測定おねがいします。後、ちゃんとした付け方も教えてあげてください」
「はい、かしこまりました。ではこちらへ」
そうして試着室につれていかれる楓。若干涙目。助けを求めるような目を二人に向けるが完全にスルーである。
試着室からは時折、ひゃあ!とか、はぅ!だとか聞こえてくる。そして真っ赤な顔をしてでてきた。
「で、サイズは?どうだった?」
「………Dの65だって」
「D!?や、やっぱりアタシよりおっきい…」
「ちょっ!声大きいって!」
「あっゴメンゴメン!びっくりしちゃって。そのサイズならこの辺かな?この中から欲しいのみつけたら?ここのなら上下セットのだし」
「欲しいのって言われても…」
「楓が男だったころに本とかで見て可愛いって思うようなのよ」
「も、もう少し言い方ってのがあるだろーが!ったく…じゃあ、これとかかな?」
そう言って手に取ったの水色ベースのフリルが付いたものとオレンジ色ベースのリボンが付いたものだった。
「あら、結構可愛いの選ぶのね?」
「な、なんだよ。別にいーじゃんか」
「ほらあんたたち騒いでないで早く見つけなさい。次もあるんだから」
結局、その店ではさっき選んだ2セット以外にもピンク、黒、白の3セット、ブラトップ4枚、ショーツだけで10枚にサニタリーショーツを7枚買った。楓が「サニタリーって?」って聞くと、「そのうちわかるわよ」と返されていた。
次に向かったのはレディースの洋服売り場。ここでは楓の意見は何も通らなかった。れいのごとく二人の着せ替え人形状態である。もはや何着カゴにいれたのかわからない。金額もわからない。終わる頃には楓の小さくなった体の体力は限界だった。
「母さん、そろそろ飯食わない?俺、もう限界なんだけど」
「………」
(スルー!?もしかしてここでも呼び方か?)
「なぁお母さん、飯は?」
「なぁじゃなくて、ねぇでしょ?飯じゃなくてご飯は?よ。後は俺じゃなくて私ね。はい、やり直し」
(えー!他はまだしも私!?むりむりむり!)
「ねぇお母さん。そろそろご飯たべない?わ、わた…わた…やっぱ無理!まだ自分の呼び方はキツいよぉ…」
泣くのはイヤなのに涙目になってしまう。
「あ~楓ゴメンね?そうよね、いきなりは無理よね。ゴメンね?」
「…うん」
「じゃ、ご飯にしましょうか。レストラン行きましょ」
そうして最上階にあるレストランにやってきた。楓が頼んだのはステーキセットとイチゴパフェ。来るのをまだかまだかと待っていた。
(ちょとお母さん?楓可愛すぎない?)
(ホントにね。だんだん女の子らしさが生まれてきたのかしら?前はパフェなんて頼まなかったもの)
「あ!きた♪」
(キューン!)
「あれ?お母さんもお姉ちゃんもどしたの?」
「「なんでもない」」
「へんなの」
そして結局ステーキセットは半分しか食べれず。しかしパフェだけは意地で全部食べていた。
食べた後は化粧品売り場へ。このへんは佳奈のオススメをいくつか買って、だんだんに勉強していく事になった。後はお風呂用品とか簡単な小物を買って今日の買い物は終了した。ちなみに荷物は全て家に郵送で送ってある。
「あ~つかれたぁ~! 女ってこんなに色々買わなきゃダメなの?」
「そうよ。これでもまだ全然足りないんだから」
「はぁ、先が思いやられるよ」
「まっ、だんだんに覚えていきなさい。喋り方も仕草もね」
「え、それは無理だと思うんだけど━ってあれ?着信?」
スマホの画面には立花哲也の文字
「お姉ちゃんどうしよう?」
買い物中にさんざん矯正されたせいか、すっかりお姉ちゃん呼びが定着してしまっている。
「まだ説明してないんでしょ?もうすぐ家に着くし、悪いけど今は放置しといて帰ってから考えたら?」
「ん、そうする」
すると着信が途絶えると同時に加奈子が何かに気づいたように言った。
「あれ?ねぇ、楓あれって…」
その視線をおって二人が目をむける。自宅の玄関前に
「テツ………」
そこには哲也の姿があった。
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