第23話 五人目

 目の前の人物を見た途端、楓とアリスが固まる。


「な、なんで瑞希が!?」

「どうしてアンタがここにいるのよ?受験の時も見なかったわよ!」


「よう、柊木!聞いてはいたけど、ホントに女になっちまったんだな!しかも小柄で可愛い巨乳美少女ときたもんだ!どれ、ちょっと触らせイテェ!おい立花!冗談、冗談だから手ぇ、離せ!骨外れる!」


 楓は思わず胸を隠して一歩後ずさる。その姿を見た哲也が瑞希の腕をとり、関節を決めたのだ。


「おい和野、冗談でも二度と言うな」


「わかったってば!柊木すまんな」


 目が据わった哲也に腕を捻られたまま楓に謝ってくる男。

 和野瑞希わのみずき 楓達四人とは同じ中学で、そこからこの地元の高校に進学したのはこの五人だったのだが、楓達は知らなかった。四人だけだと思っていたのだ。


「う、うん。テツ離してあげて?」


 楓に言われて瑞希の関節を決めていた手を離すと、箸を持ち直す。


「おーいてぇ。それでアリスちゃんの質問だけどな、答は簡単。俺もこの高校を受けたからだ。受験の時見なかったのは、俺は推薦で決まってたからだな。他の奴らはみんな、都会の方やら新設の高校に行ったみたいだけどな」


「そう、推薦ってのは以外すぎだわ。てことは、この高校に来たのはこの五人だけってことなのね。てゆうか聞いてたって?」


 そこで楓が会話に割り込んできた。おもわす瑞希に詰め寄る。


「そうだよ!ねぇ瑞希!俺の事聞いてたけどってどうゆうことなの?」


「お、おう。てか近ぇよ。ちょっと緊張するから離れてくれ」


「あ、ごめん」


「大丈夫だ。にしても喋り方も変わったんだな。まぁその見た目には合ってはいるけどさ」


「あ……うん。いろいろあってね。変える?」


 瑞希は首を振ってその提案を断ると、体勢を崩して話を続ける。


「いや、そのままでいいや。で、聞いてたのは柊木のその変化だよ。入学前に中学の担任呼ばれて、同じ高校に通うやつが知らないのはまずいだろうってな。柊木のお袋さんからの提案だそうだ。立花達がすでに知ってるのはそこで聞いた。まぁ、お前ら四人はいつも一緒だったからな。特に驚きはしなかったよ。俺もこの高校にしたの誰にも言ってなかったしな」


「そうなんだ。お母さんそこまで考えてくれてたんだ……」


「ちなみに誰にも言ってないから安心しろよ?」


「うん、ありがと!」


楓は笑顔で答えた。


「お、おう。しかしこれは破壊力すげぇな」


 顔を赤くして目を反らすと、それまで黙っていた心愛が口を開いた。


「そう!楓はホント可愛い!天使!まじ天使!だから和野君。楓に手を出したら許さない」


「安心しろ。そんなつもりはねぇし、俺は一途だから!なっ!アリスちゃん!好きだ!」


 アリスが瑞希を見て固まった理由はそこにあった。


「なっ!じゃないわよ!何回フッたら諦めるのよアンタは!」


「アリスちゃんに彼氏が出来るまでは諦める事はないっ!出来ても諦めないけどな!」


「はぁ、まさか高校まで一緒だったなんて……」


「えっと、アリス元気だして?ご飯食べよ?」


 項垂れたアリスの袖をひっぱり、座るようにうながす楓。会話に一段落つき、ようやく箸を持った。鞄から自分用の小さな弁当箱を出し、次に唐揚げの入ったタッパーを真ん中に置く。


「じゃあこれみんなで食べて?」


 楓がそう言うと、各々がつまんで食べていく。


「うん、おいしわよ。やるじゃない」


「楓の手料理!まさに至高!」


「え、なにこれ?柊木が作ったの?すげぇな!」


 各自が感想を述べていく中、哲也だけは無言で食べていた。その為、楓は不安になって下から哲也の顔を覗く。


「テツ、おいしくない?」


「あ、いや、美味いぞ。ただ、凄い俺好みの味だなと思ってな。だからそんな不安そうな顔をするな」


「え?そんな顔してた?味付けはね、前にテツがショウガが強めに効いてるのが好きって言ってたからそうしたつもりだよ?」


「そうか、それを覚えてたのか」


「うん。だからおいしいなら良かった♪へへ」


 すっかり笑顔に戻ると自分が食べる作業に戻っていく楓。それを見て心愛は「さすが親友」と褒めていたが、アリスと瑞希だけは怪訝な表情になる。皆が食べ終わった時、瑞希が楓に質問をした。


「なぁ柊木。お前と立花ってなんなんだ?」


「なんなんだって、もちろん友達だよ?ね?」


「……あぁ」


 そう言う楓と頷く哲也。しかし、どこか納得のいかない瑞希は更に口を開こうとする。


「いや、友達ってよりはなんか恋「和野!」え?アリスちゃん?」


「和野、やめなさい」


「え?だってどう見ても」


「お願いだからやめて」


「わかった……」


 悲痛な顔で懇願してくるアリスをみて瑞希はそれ以上の追及をやめた。


「アリスも瑞希もどうしたの?」


「いえ、なんでもないわ。気にしないで」


「そうそう、気にしない気にしない!あっ俺、アリスちゃんに話があるからみんな先に戻っててくんない?」


「待ってるけど?」


「え、何?俺の恥ずかしいセリフ満載の告白シーン見たいの?」


「そ、それは遠慮しておこうかな?テツと心愛行ってよっか?」


「わかった」


「うん、行く。楓、ジュース買いにいこ?」


 三人が出ていくと、その場には二人が残った。


「で、さっき止めたのはどういうつもりで?」


「二人に恋人とか恋愛とかそういうの意識させたくなかったの」


「理由を聞いても?」


「……楓に哲也を取られたくない。今はまだ男友達だったって事がストッパーになってるんだと思うけど、前からあれだけ近かったんだもの。きっと意識したらお互い惹かれちゃう。和野だってさっきの楓の顔見たでしょ?」


「まぁ、確かにあの柊木の顔はなぁ。アレ無意識か?にしても、アリスちゃんまだ告白できてないんだ?俺は立花が好きだからって理由でフラれた記憶があるんですが?」


「それは……」


「まぁ俺は諦めないからいいんだけどね」


「和野、あんたは強いね。アタシは怖くて……。けど決めた。今日の放課後告白する」


「は?ずいぶん急だな!」


「決めたらすぐ動かないとまた止まっちゃいそうだしね」


「なるほどね、まぁ頑張って」


「あら頑張ってもいいの?」


「はっはー!自分以外と付き合ったとしても好きになっちゃダメな理由はないからなっ!」


「あんたはホントに……。まぁ、おかげで決心ついたから一応ありがとね。じゃあアタシはいくから。呼び出しの文章考えないと」


「呼び出しって、ケンカかよ!まぁ、行ってらっしゃい」


 そしてアリスもいなくなり、瑞希一人になる。


「立花のあの様子だと告白しても望みは薄そうだな。柊木もあの様子だと時間の問題っぽいし、少し手を回しておくか。アリスちゃんが泣くのは勘弁だしな」


 そう言うと瑞希もスマホを片手に歩きだした。

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