第30話 理解と不理解
楓は廊下を走っていた。
家に帰る気にもなれずに、向かった先は保健室。この学校で友人以外に楓の事情を理解してくれる人物である白石がいるところへ向かって。
保健室のドアの前に付くと足を止めてノックをするとすぐに短く返事が返ってくる。
「はい」
「……柊木です」
「え? 柊木さん? どうぞ入って……っ!
何があったの? 話せる? 」
入ってきた楓の顔を見るなり、白石はすぐに外に不在の札をかけ、ドアを閉めてカギをかけた。そのまま楓の肩を軽く支えて自分のデスクの予備の椅子に座らせると、内線で職員室に会議に出ない旨の連絡をした。
そして向かい合ってしばらく経ち、始業のチャイムがなる。
そのチャイムが鳴り終わってから楓はゆっくり話し出した。
哲也への好意の事や昨日の出来事を。だが、アリスの哲也への告白の事は黙っていた。
そして今朝、元男の事実がクラスメートにバレてしまったことを話した。
「そう……そんなことが……」
白石は全てを聞くと一言だけ発して考え込み始めた。
「先生、俺はどうすればいいですか?」
「そう……ね。とりあえず教室の様子をみないことにはなんとも……」
そこで保健室のドアが叩かれる。
「楓! ねぇ! ここにいるんでしょ!? こっちに来たの見た人がいたの!」
アリスの声だった。その声に楓の肩には力が入ってしまう。
「柊木さん。彼女、入れるわよ?」
「……はい」
楓の了解を得てから白石はドアを開けた。それと同時にアリスが今にも転んでしまいそうな勢いで座っている楓の膝元に駆け寄ってきた。
「楓ごめんねぇ! アタシのせいで! アタシがヤキモチ焼いて考えなしにあんなこと言っちゃうから……うぅぅ。うあぁぁぁぁん」
「ア、アリス? えっと……」
楓は予想外のアリスの行動に気が抜けてしまう。「泣きたいのはこっちもなのに」といった感情がないわけでもない。
そこで白石がアリスに声をかけた。
「清水さん落ち着いて?気持ちはわかるけど、今は柊木さんの事よ。このままではいけないもの。わかるでしょう?」
「白石先生……。はい、すいません……」
そこでようやくアリスが楓から離れる。
「落ち着いたかしら? それで教室は今どうなっているの? ちなみに昨日の事とかは柊木さんから聞いたわ」
「そう……ですか。えっと……女子達は一部は敬遠してる人もいますけど、橋本さんのおかげで思ったよりも多くの人が受け入れているみたいです。アタシもちゃんと説明しました。アタシが感情に任せて言ってしまったことを聞いてた友人もわかってくれました。けど……」
そこでアリスは両手を握りしめて顔をしかめると言葉が止まる。楓と白石が一度目を合わせると、白石が続きを促した。
「けど?」
「その……男子達は面白がってる感じで……
」
「っ!」
アリスのその一言で楓が固まってしまった。
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