第16話 ラブレターなんていらない

 入学式から一週間程経った朝


 ピンポーン


 朝、柊木家のチャイムが鳴った。


「こんな朝から?回覧板かしら?楓ちょっと出てきて」


「う゛~ん、わかった~」


 朝から腹痛の為、あまり動きたくないのだが、しょうがなく玄関に向かう。ちなみに未だにパジャマのままである。例のネコ耳パジャマだ。

 そのままドアを開けてしまった。


「はい、どちら様です…ってテツ?おはよ。今日は早いね?」


「今朝は早く起きた…んだが…っ!」


 哲也はすぐに楓から目をそらした。


「テツ?」


「楓、格好をよく見ろ」


「ん?このパジャマ?可愛いでしょ……ひゃあぁ!」


 急いで胸元を隠す。昨日の夜は少し気温が高く、ボタンを少し開けて寝ていた為に胸元が見えていた。具体的に言うならば、深い谷間と下着が。


「早く着替えてこい。俺は外で待ってる」


「待って」


「…なんだ?」


「見た?」


「見たんじゃない。見えたんだ。俺は悪くない」


「同じじゃん」


「違う。別に見たくもないしな」


「えっ…」


「あ」


「だよね。見たいわけないもんね」


「いや、ちが」


「じゃあ外で待ってて。すぐ行くから」


 そう言って強引に哲也を閉め出して扉をしめた。


(ムカツク…でも…なんで?あれ?なんで恥ずかしいの?相手はテツなのに…)


「楓、誰だったの?」


「テツだった」


「哲也君?もう迎えに来たの?」


「そーみたい」


「あれ?どうしたの?そんな機嫌わるくして」


「べっつに。ごちそーさま。着替えてくるね」


「え、えぇ」


(ケンカでもしたのかしら?めずらしいわね)


 階段を上がっていく楓を見ながら加奈子はそんな事を考えていた。


 部屋に入り制服に着替えて髪を軽くとかす。けど上手くまとまらない為、2つに別けて首元でゴムで結って前に足らす。スカートの裾を確認して軽くリップを塗ったら鞄を持って下に降りる。


「じゃ、いってきます」


「はい、いってらっしゃい」


 外に出ると楓が押し出したままの姿の哲也がいた。


「いこ」


「あぁ。あー、さっきはすまん」


「なにが?」


「いや、あの…」


「別にいいよ。ただの友達でしょ?俺も見せないように気をつけるから。ゴメンね?見たくもないもの見せて」


 自分でもわからないイライラが溢れて止まらない。


「いや、そうじゃなくてだな」


「じゃあ何だ?元男の俺の胸見たいのか?見せてやろうか?」


 意図的に口調を変える。


「違う!お前なぁ!」


「もういいよ。ほら、アリス達待ってるんだ。早く行くぞ」


「はぁ…」


(何?そのため息)


 待ち合わせで四人が合流する。


「アリス、心愛おはよ」


「おはよー!」


「おはよ。楓は今日も可愛い」


「サンキュー。じゃあ行くか」


 言ってスタスタと歩いて行ってしまう。哲也を置いて


「「!?」」


 アリスと心愛が驚きの表情になり、そのまま哲也に視線を向ける。哲也は気まずそうな顔になり二人の視線から逃げる。


「ちょっと哲也、あんた何やったのよ?」


「正直にいいなさい」


「いや、何も…」


「何もなわけないでしょ!?あんた達二人のケンカなんて数える程しか見たことないわよ!いいわ。楓に聞くから」


 アリスがそう言った時には既に心愛が楓の元に行っていた。


「楓、哲也に何かされた?」


 すると楓は立ち止まり、後ろを振り向いてニッコリ笑うと口調を戻してこう言った。


「別に大した事じゃないよ?朝から胸見られたあげくに見たくもないって言われただけ。元男の胸だし、しょうがないよね?」


「「「…………」」」


「ほら、早くいかないと遅刻するよ?」


 そう言ってまた歩きだした。まだ全然遅刻する時間じゃないのに。


「ごめん。あたしには無理。しかもあれ、自分でもなんでイラついてるのかわかってないパターン」


「うん。アタシにも無理ね。少しは女としてのプライドが生まれてきたのかしら?」


「お、俺はどうしたらいいんだ?今までのケンカと質が違うんだが…」


「「さぁ?」」


「………」


 結局、楓の機嫌はなおらないまま学校についてしまった。

 そして各自下駄箱の蓋を開ける。


「えっ?」


 とは楓の声。アリスが反応して覗き込むとそこには予想外通りの物が入っていた。


「どうしたの?あー、ラブレターじゃん。もう来たんだ。あ、アタシのとこも入ってた」


「アリスに来るならわかるけど、もうって!?どうしよう?」


「いや、その内絶対来ると思ってたし。どうしようって、ちゃんと読んで返事しないと」


「え、無理」


「いや、無理じゃないから。相手が可哀想じゃない。向こうだって頑張って書いてきてるんだから」


「で、でも」


「でもじゃない!まぁ、こんな早く出してくる奴なんて楓の見た目しか見てないから信用できないけどね」


「見た目だけ…テツには見たくもないって言われた位なのに?」


「それは…」


 女になったらめんどくさい子だなぁと思いながらも、


『男特有の照れ隠しだよ。わかるでしょ?』


 と、続けようとした所で哲也と心愛が近づいてきた。


「おい、どうしたんだ?」


「何事?」


「えっと、俺の下駄箱にこんなの入ってたから…」


「それはラブレターか?良かった…のか?」


「おぉ!さすが楓!」


「全然嬉しくないよ!」


「でも、ちゃんと返事は返しなさいよ?でないと後がめんどくさいから」


「嫌だなぁ。13人分も返事考えなきゃなんないなんて…。もうラブレターなんていらないよ」


「「「は?13!?」」」


「え?うん。13枚も入ってたの」


「「「はぁ!?」」」

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