第20話 ミラクル研究社

iPhone の画面から、いつまでも目を離さない俺を見て、若者は意を決して語り掛けた。

「茂蔵さん、あなたの記憶を取り戻すのは無理かもしれないけど、以前の茂蔵さんに戻すことは可能だと思います。僕らのアジトに来てくれたら、茂蔵さんは、きっとそうなります。ぜひ今から来てください! 」

翔青という若者は、そう言って俺の次の言葉を待った。


俺は若者の目をじっと見つめて、この若者は味方だと確信した。

「よし。連れってってくれ。君が俺の味方だということは、間違いないと分かったよ」と言った。


翔青は、喜びをあらわにして、「こっちです。車を駐車してますので」と言って歩きだした。すぐに俺も、若者と並んで駅とは反対の方に向かって歩きだした。


それから20分後、渋谷駅とは明治神宮を挟んで反対側の参宮橋辺りに着いた。その一角にある3階建ての屋上にパラボラアンテナがある、風変わりな建物の前で翔青は車を止め、ちょっと iPhone を操作した。すると、門が真ん中から外側にスライドするように動き、やがて車が通れるようになった。翔青がそのまま敷地内の駐車場に向かうと、門は元通りに閉まった。俺は内心、スパイ映画もどきーと、ちょっと浮かれそうになった。

車を降りて、入り口の上部に金色の目立つ表示があったので、俺は見た。そこには、《ミラクル研究社》と表示されていた。


中に入ると、奥から「誰だ!」と来訪者を歓迎しない感たっぷりに声を出した人物が、こっちに目をやった。声の主は白衣を着ており、老人の仲間入りをして久しい感じの、なんとか博士みたいな人物だった。

それでも未だ裸眼で基本、いつも驚いたように目を丸くしているが、その奥には鋭い眼光を秘めているのが見て取れた。

頭髪は禿げ上がって、耳の上だけに、かろうじて縮れた白髪が残ってる状態だった。それとは対照的に、色白の顔は意外とシワが少なく、髭も綺麗に剃っていたので、口元は少年のようにさえ見える。もしかして、この老人もビニナルタンかハダフレッシュのお世話になってるのかもしれない。

大きな耳、そして特筆すべきは、大きな団子っ鼻のてっぺんが赤味かがってるのが、なんとも忘れられない顔のシンボルになっていた。


「博士! ついに見つけましたよ。茂蔵さんです! 」と翔青が言うと、

「当たり前だ!わしの予測は、外れることを知らんからな。ハッハッハッ」と高笑いして言った。そして思い出したように、

「わしは、皆狂 ( みなくる ) じゃが、覚えておるかの? 」と聞いた。


俺は、こんな特徴のある顔、知ってたら忘れるもんか、と思ったが言う気も失せていた。

( これは、とんだことになりそうだ )

第20話 終わり

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