第34話 異次元への脱出
(3人とも助かるかが分からんが、この手しかない! )
ヒダリンは、そう判断すると、俺に言った。
「悪いが、ここは休戦だ! ここから、脱出する! そちらの先生も一緒だ! 今から私のやる通りに真似してくれ。あんたは、どうせ、やり方を知らないようだからな」
そう言うとヒダリンは鞭を手放して、両方の手のひらを十文字に合わせたかと思ったら、素早く擦り合わせた。右の手のひらを上に向けて、左の手のひらを見えないぐらいに早く擦り合わせるのだった。
「そうだな。戦ってる場合じゃないな。うっ、しかし、いてぇーぞ。くそったれ! 」
俺はそう言いながらも脇腹の痛みを堪えながら、同じようにやってみた。そして、言った。
「なんか分からんが、手の向きは反対でもいいか? 俺はお前とは利腕が違うようだからな」
「ああ、私は左利きだ。どっちでもいいから、周りの変化も見ながら熱くなるぐらいにやってくれ。多分、オレンジ色の強烈な光がどこかに現れる筈だ」
と彼女は言った。
しかし、真田丸全体が今や炎に包まれている。かろうじて俺たちがいる
「あの? ボクも手伝いましょうか? 手のひらを早く擦り合わせたらいいんですね? 」
と大変な状況にも関わらず、龍虎先生は落ち着いた表情で言った。どうやら先生にはヒダリンが何をしようとしてるのかが予想できたようだ。それは、ヒダリンの人間業とは思えない瞬間移動が、多次元変動説の仮説に合致した現象だったからだろう。
そして、俺もまた同じことを考えていた。あの女は、異空間移動が可能だと知っていると。
ヒダリンは汗を流しながら、今や必死に手のひらを擦り合わせていた。そして、叫んだ。
「それで気が済むなら、なんでもいいからやってくれ! みんなが助かるには、オレンジの光を見つけられるかが勝負なんだ! 」
ドッカーン!!
その時、後部甲板の方で、爆発が起こった。
もう一度、違う場所で爆発が起こったら、間違いなく船は終わりだ。もうダメかもしれない。
ヒダリンは、最後の力を振り絞って手のひらの動きを早めた。
俺も、先生も同じように手のひらが熱くなっても、擦りつづけた。
すると、舳先の方にオレンジ色の光が見えてきた。そしてその光は、すぐに眩しいぐらいに俺たちの前で輝いている。
ヒダリンは、すかさず言った。
「やった! あれだ! 吉本先生、あんたは立花教授の手をしっかり握って、あの光の中へ飛び込め!
私は、それを見届けてからすぐ行く」
「いや、すぐにでも爆発が起こるぞ。お前も一緒に来いよ。あっ、それになんで俺のことを先生って呼ぶんだ? 」
俺が、そんなことを言ってるのをヒダリンは無視して、思いっきり俺たちを船から突き飛ばした。
ヒダリンは見た。
俺と龍虎先生がオレンジ色の光の中に消えていくのを。
(よし! これで大丈夫だ。
それにしても…… アキレス様はシュレッダーの裏切りをご存知なんだろうか? )
ヒダリンは、虚な目になって船を飛び降り、複数の異次元空間の流れの合流点に消えていった。
第34話 終わり
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます