第35話 場所も時刻もほぼ同じ。だけど……
バッシャーン!
立花教授たちの尾行に飽きて、一瞬目を離していたヒダリンの耳に、大きな水音とともに女性の悲鳴が聞こえた。
「きゃー! 」
どうやら、尾行のターゲットだった立花教授の悲鳴だった。ヒダリンは振り返ると、二人がさっきまでいた遊覧船の左舷の安全柵から、さらにもう一人が、水音がした海に向かって飛び込む所だった。
「待てー! 飛び込むより、救命用浮き輪だろうが! 」
ヒダリンは近くにあったロープがついてる救命用の浮き輪を両手に持って、甲板の後部へと走った。
さらに異変に気がついた船長が船のエンジンを止めたが、遊覧船は惰力で落水者から離れていった。
すぐに甲板後部に駆けつけたスタッフが30メートル先を照らせる緊急時のライトを持っていたので、ヒダリンは構わずライトを取り上げて、落水点と見当をつけた場所を照らした。そして、二人が溺れかかってる様子を発見した。
「船長にライトで照らしてる所へ船を旋回させるように言ってくれ! 私が落水者の位置を照らし続けるから! 」とヒダリンは大声で言った。
「はい! すぐ伝えます」
スタッフは迅速に行動した。
船は、なんとか回り込んで、溺れかかってる二人から右舷5メートルぐらいの所まで接近して停止した。
だが、後から飛び込んだ男の方が、力尽きて頭が沈む所だった。ヒダリンは、すぐに救命用浮き輪を二つ、二人に向かって投げ込むと、周りにいた乗客の一人にライトで照らしてくれと告げて、自分も飛び込んだ。
その世界のヒダリンの記憶は、そこまでで消えた。
一瞬の間を置いてヒダリンは、気がついた。そして、異空間移動が成功したのを自覚した。そして、今の状況が楽観できないことに気がつくや、周りを見た。
船の上からのライトの光が眩しく見えたが、船とは反対側に溺れかかってる立花教授をライトの明かりで見つけることができた。さらに、そのそばの浮き輪が目に入ったので、それをたぐり寄せて、教授の方に投げた。
「ヒダリン! シゲゾーさんが、沈んじゃったー! 」
龍虎もすでに、異空間移動して来た龍虎だった。
それを聞いて、ヒダリンは抜き手と言う泳法で龍虎のいる場所に近づくと、水面下に潜った。
なんとかライトの光で映った茂蔵が水中で気を失ってるのを発見した。
ヒダリンは茂蔵の体を引っ張るようにして、水面から顔を出させると、救命用浮き輪を頭からかぶせた。
自力で上がったヒダリンと助けられた龍虎先生と俺は、無事に遊覧船の中で暖を取ることができた。
どうやら俺たちは、夕方から出港して、レインボーブリッジなどの夜景を楽しむ遊覧船に乗っていたのだ。
ヒダリンは、時計を見た。時計は夜の7時ちょっと前だった。そして、遊覧船は左舷の方に古くなった貨物船が見えるあたりを航行している。
貨物船の名は、真田丸だった。
第35話 終わり
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