第36話 作戦会議

 ここは、遊覧船会社の応接室だった。今は夜の8時半を過ぎていた。

 俺は自分の考えが、まとまらないので、二人に丸投げするように聞いた。

「さて、これからどうするかだね? 」

 遊覧船会社から平謝りに謝罪されたあと、俺たちはタクシーで送迎されることになったのだが……

 なんでも、船の安全柵に幅50センチぐらいのゲート状になってた箇所があって、そのゲートのロックが外れていたとのこと。それでそこに、もたれかかってた先生が海に転落したのが、今回の落水事故の原因だと分かったのだ。


「できれば、3人とも行動を共にした方がいいのだが…… 」

 ヒダリンが、ためらいながら言った。

「だけど…… 先生は私のやったことを許せないでしょう? 」

「なんで? 君は俺の命の恩人だぜ。あのままだったら、俺は溺れて死んでたよ。それに、先生まで助けてくれたじゃないか。

 あっ、それから、気になってたんだけど、俺のことをなんで先生って呼ぶんだ? 」

 俺は、ヒダリンの問いに即答したあと、引っかかってたことを聞いた。


「それは…… 話せば長くなるから…… ただ、あなたは、私が小学生だった時の、身寄りのない子供が入れられていた施設の先生だったの。もう15年も前のことだけど…… 先生は覚えてないみたいだから、その答えでいいでしょ? 」

 ヒダリンは、そう言って俺から顔を背けた。

 俺は、予想もしなかった返答に驚いたが、やっと一言だけ言った。

「悪い。思い出せない。多分、君の世界にいた俺の記憶なんだろう。

 もうこの件は、保留にしとく」


「あのー。良かったら、ボクの部屋で泊まってくれませんか? だって、のんびり屋のボクでも今回のことは、トラウマになってるんです。だから、また一人で自分の部屋に帰るのが恐ろしくて」

 と龍虎先生がいいタイミングで発言した。


「えー、そんなー。迷惑にならないですか?」

 俺は言葉とは反対に笑顔で訊いた。

「あなたに危害を加えたリンゴにいる私なんかを泊めて、平気なんですか? 」とヒダリンは真顔で訊いた。

「いいの、いいの。だって、もうみんな仲間じゃないの。行動を共にしよーよ。

 はい! 決定! 」

 先生は、とても明るく決めちゃった。


「お待たせしました。タクシーが到着いたしました。

 今回のことを穏便に済ませていただきまして、誠にありがとうございました。

 では、どうぞ」

 責任者の人が、うやうやしくタクシーまで案内してくれた。


 タクシーの中で俺は笑いながら言った。

「異空間移動って、便利だね。ほら、俺の怪我が全然無くなってるから」

 その言葉の意味が分からない運転手さんが、

「あのー。なんか、良いとこに行かれてたんですね。では、どこへ参りましょうか? 」

 と客あしらいを心得たように行先を訊いた。


 第36話 終わり

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