第8話 君の名は?
龍虎先生は楽しそうに車に乗ると、何か言い忘れたかのように運転席の窓を開けて、
「あっ、ごめん。ボクったら、肝心なこと聞いてなかったよ。君の名前、教えてください! 」
と言った。
「はい。俺は
と俺は、いつも人に名前を言う時の決まり文句を言った。
すると先生は何かを思い浮かべる表情をしたと思ったら、いきなり手で口をおおい隠すようにして、
「プッ。ああ、ごめん、ごめん。思わず吹き出しちゃった。あのお笑いで人気の吉 本
「そうなんですか? 俺の名前を聞くと、みんな笑うから、ちょっと嫌なんですけどね」
そう言う俺に先生は、
「お笑い芸人さんの技は老化を防ぐ最良の方法なんだから、素質のある人は、みんなその道に進んでエリートになってるよ。君もやったらいいのに」
と笑顔で続けた。
「そうなんですか? 」
俺は、ちょっと不思議だった。
(売れない芸人の方がはるかに多いのにな)と。
「そうだよー…… でもボクは、君が日曜日に来てくれるのを心待ちにしてるから。じゃあ、またー」
そう言って先生は手を振りながら車を走らせた。
俺も手を振って先生のアウディが見えなくなるまで見送った。
「吉本さん、すごいじゃないですかー。いつの間に立花龍虎と仲良くなれたんですか? 」
といつの間にか、いしだっちが俺のとなりから声をかけた。
いっちゃんも、その横にいて俺が何か言うのを待っている。
「いえ、去年、立花先生の講義を受講したことがあるので、今日たまたま俺がバッテリートラブルを助けに行ったことで、気に入ってもらえたみたいです」
と俺は答えた。
「へえー、今じゃ立花龍虎の講義なんてプレミアチケットになってますよ。本名の龍虎もカタカナになってるし」
といっちゃんも会話に参加した。
「そうなんですかー。去年の講義もノーベル賞を取って間がなかったから結構、競争率は高い方だったけど、宇宙物理学という分野は興味ある人以外は見向きもしないんだけどなあ」
と俺は言った。
「それは、あのルックスがものを言うのさ。テレビでも引っ張り凧なんだから。噂では、ノーベル賞の賞金をほとんど、ルックスを変えるのに使ったって言うぜ」
と言った、いしだっちの言葉が俺の頭ん中の、ある疑問にリンクした。
(それって、ビニナルタンとか、ハダフレッシュのことなんでは? )と。
第8話 終わり
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