第16話 記憶が飛んでる!

先生は俺の返答を待たずに、動画をスタートさせて、俺によく見えるように画面を向けてくれた。


タラタラタラタラ、タラタラ、タ! ・タ! ・タ!

タラタラタラタラ、タラタラ、タ! ・タ!・ タ!

チャ、チャーン! チャ、チャーン! チャ、チャーン! チャ、チャーン!


なんか昔よく聞いたF1レースのテーマ曲「T-SQUARE TRUTH」のような映画ミュージックをバックにナレーションが映像とともに流れてきた。


すると、周りの人達が俺たちの方を見たので先生は、

「しまった! 」と言って咄嗟に一時停止を押した。そして、ショルダーバッグからワイヤレスイヤホンを取り出して、「はい。これなら大丈夫よね。注目浴びちゃうから」と照れ笑いをしながら右耳用を俺に渡した。自分も左耳用をつけたと思うと、すぐに動画を再開させた。


「西暦2005年8月10日

直径3000キロの巨大彗星が地球の成層圏をかすめてすれ違った。

だがその総質量はわずかに3グラム。

世界の人々は、何も起こらなかった奇跡に歓喜した。

だがそれでも異変は起こっていた。オゾン層が30パーセントも吹き飛ばされていたのだ。

それにより、強烈な紫外線が地上に降り注ぐこととなった。人類以外の動植物には、体質を変化させるという順応性があった。それに対して人類は、老化が促進されるという難題を抱えることとなった。

世界各国で平均寿命が急速に減少するようになった。

しかし人類はあきらめなかった。世界のあらゆる機関と民間企業が情報を分かち合い、老化対策となる特効薬の開発を行った。

そしてついに

西暦2015年、人類は長年の夢であった若返りの薬を誕生させたのだ。

この映画は、人類存亡の危機を救った彼ら7人の真実の軌跡を再現したものだ。人々は彼らをリンゴスターズと呼んだ」


カチッ。先生はそこで動画を消した。

「これだけでも大体の想像はつくんじゃない? 」

俺は先生の問いに答える余裕がなく、かなり動揺しながら頭の中を回転させていた。

( こんな出来事を俺は体験していない。いや、俺のいた世界の話じゃない。ここは、どこなんだ? ) そこまで考えて、俺は先生がずっと俺の目を見つめていることに気がついた。

「ま、まさかとは思うんですが… 俺ってここの住人じゃないと思う」と自信のなさそうな声で言った。

「ボクの理論が正しければ、それは半分そうで、半分違うと思うんだ」

「どういう事ですか? 」俺は、先生が予想もつかない返答をしたので驚いた。そうでなかったら、すべて違ってるだろうと思ったからだ。


「ボクの理論だと違う次元の、例えば人間が別の次元に移動するということは、2つの存在が1つの存在になることなんだよ。だから君は君の世界にいた存在とボクらの世界にいた君とが合わさって、一つの君という存在になってるんだ」その先生の言葉を俺は必死で理解しようとした。

「ああ、それで俺は10歳も若返ってるのかなあ? 」俺は半ば諦めて、どんなに変でも変とは思わないようにして言った。

「そうだよー。そして記憶は全部、君がいた世界の方の記憶が、今この世界の君の肉体に存在してるから、さっきの8月10日以降の記憶は、無いと思うな。あっ、正確には、もっと前から無いかな。それは、まだ調べないと分からないけどね」

そこまで聞いて、なんとなく分かった。そして俺は言った。

「俺ってこの14年間の間、何してたんだろう? あっ、そういえば俺、あのアキレスとかいう大男を簡単につまみ出したけど、あんなことできる俺じゃなかった。なんか、自分の過去が怖くなってきました」

「大丈夫、ボクがついてるから。ボクは少なくとも君の味方だから。しっかりしてね」先生は、何か固い決意をしたような顔をして、俺の両手を握りしめた。

第16話 終わり





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