第28話 ヒダリンの気まぐれ
ここは、ヒダリンの自室だ。
「さあ、これを飲みなさい。あったまるから」
ヒダリンは湯気が漂ったカップを二人がけのソファーに座っている
「ありがとう」
龍虎はやや警戒しながらカップを受け取ったが、小悪魔のような不思議な女性の瞳の中に、偽りでない優しさを感じた。カップからは、とてもいい香りがしていた。
「これは、なんですか? 」と龍虎は訊ねた。
「ラベンダーティーだよ。私は、ある人の影響で小さい時からラベンダーを混ぜた物を毎日食べたり、飲んだりしてる。すごく気に入っていて人にも、つい勧めてしまうんだ。でも、口に合わないなら、普通の紅茶かコーヒーに変えるけど…… 」
「初めてですけど、喜んでいただきます」
ヒダリンの説明に納得して、龍虎はラベンダーティーを味わった。
「でも、なぜボクに親切にしてくれるのですか?
さっきもボクのために自分の服を探しに行ってくれて、結局ボクをあの嫌なアメリカ人の手から救い出すように、あなたの部屋に連れて来てくれたりして」
龍虎の問いにヒダリンは、自分もラベンダーティーを一口飲みながら、自分と自問自答するかのようにつぶやいた。
「自分でも分からないなあ。
ここのボス、アキレス様が、あなたを我がモノにしようとしてるのは、知ってるかな? 実は私はそのアキレス様を慕っている。だから、あなたは私にとって、やはり敵でしかないかもね。
今は、ただの気まぐれ。多分、小さい時に私を守ってくれてた、あの人の影響かもしれない。でも、それは、遠い過去のこと。
そして、私はあなたの大切な人を殺す側の人間だから、私を味方だとは思わないことだね」
そのヒダリンの言葉を聞きながら龍虎の心の中は、しだいに暗くなっていった。
第28話 終わり
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