第22話 吉村貫一郎
驚いた俺の顔を見て、博士は俺に親近感を抱いたのか、急に語調が柔らかくなった。
「こう見えてもワシは、お前さんを買っておる」
そう言われては俺も今では、博士の話しをちゃんと聞こうという態度に変わってきている。
そんな俺を見て博士は続けた。
「お前さんのルーツの話しをする前に、まず断っておくが… ワシは立花博士の多次元変動説を全面的に支持しておる。だからワシは、その理論に基づいてタイムマシンを作ろうとしておるのじゃ。現在のところでは、次元を移動しやすいものとして、素粒子みたいな見えないものでなく、どんな人間が次元の移動を可能にするかを突き止めかけておる」
「えっ、そんな人間を見つけたのですか?」
俺は、博士の言葉に即座に反応した。
「そうじゃ、それがお前さんのお爺さんのお爺さんだったのじゃ」
俺は一瞬、何も言えなくなった。
2、3秒たってから、やっとの思いで聞いた。
「その人って誰ですか? 俺は、父さんからは、お爺さんのことしか聞いてない。お爺さんは、俺が生まれる25年も前に、大平洋戦争で戦艦武蔵が撃沈されて、武蔵と共に海の底に沈んだと幼い時に聞かされたけどな」
俺の問いに博士は質問で返した。
「お前さんは幕末の時代に活躍した新撰組を知っておるかの? 」
「ああ、知ってる。近藤勇、土方歳三、沖田総司ぐらいなら」その俺の返答に博士は続けた。
「一般には、あまり知られておらんが、吉村貫一郎という新撰組の剣術師範がおったのじゃ。真の実力を問われれば、その人物が最強であったそうだ」
「それは、ただの噂ぐらいのものじゃないのですか? 」
俺は博士の話しに異をとなえた。
「ワシも当初は、そう思ってた。じゃが、それはAIに数多くのデータを入力した結果、吉村貫一郎と出たのじゃ」と博士は飛躍した言い方になった。
俺は説明を求めるように聞いた。
「博士はAIに何をやらせようとしたのですか? まさか、新撰組で最強のファイターは誰かなんてことは、聞かないと思ってるのですが」
博士も自分の飛躍に気がついて、今度は丁寧に説明してくれた。
「話しが飛んで悪かった。ワシは必要に駆られて、どうしても最強のファイターになり得る素質の持ち主を捜していたのじゃ。そのために、あらゆるデータ ( 格闘技に必要な心とか、遺伝子とか、過去の格闘家とか ) を入力していった。
その結果が、先ほどの吉村貫一郎の子孫だった。その子孫として、お前さんがピックアップされたのじゃ」
博士の予想もしなかった説明に俺は息を飲んだ。
第22話 終わり
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