第21話 俺のルーツ

「フホッホッホッホ。その様子じゃと、ワシのことも覚えておらんようじゃの」と赤団子っ鼻の博士は、俺の態度を面白がってるように言った。

「ああ、覚えてないな。覚えているのは、あの龍虎先生の講義を受けた後も、俺は今と同じように週に3回、ガソリンスタンドのアルバイトをしながら、気ままな一人暮らしをしてることだな。だが、ここでは龍虎先生は、信じられないぐらいの若くてかわいいルックスに変わっていた」と俺は一気に、まくし立てた。


「やはりな」

「やはり、なんだ! 」俺は相手のもったいぶった言い方に、つっかかった。

「そう、カッカするな… どうやらお前は、あの立花博士に惚れてるようじゃの。それは、お前がリンゴの警備部隊に追われた時、わざわざ立花博士の講義会場に逃げ込んだことでも分かる。しかもお前は、命がけで手に入れたリンゴのシークレット情報が入ったメモリーチップを、その時の講義ノートのカバーの裏に隠している。それは、すべてお前の潜在意識が、言い換えれば、立花博士に惚れてる、お前の知らず知らずの行動となって現れてるのじゃ」と博士は、決めつけるように言った。


それを聞いて俺は、しばらく黙り込んでしまった。いや、心の中で渦巻く疑問を必死に整理していたのだ。

( たしかに、今の俺は立花先生と一緒にいる時が一番嬉しいぐらいに好きになっている。だが、この世界の俺は、その前から立花先生を好きになってたようだ。やはり、この世界の俺と今の俺とが食い違っているということだ。それを知るのは怖いと思ったが、怖れるほどには、この世界の俺の中身は変わっていないようだ。それと、今までの俺は、初老の紳士だった立花先生を尊敬はしてたけど、恋愛感情は持ってなかった。

いや、まてよ、潜在意識としては… 今までの俺も先生を好きだったのか? そこは、自信がない。今、こういう気持ちになってるのは、この世界の俺のせいなのかな? … もしかして今の俺は、今までの俺と変わったのかもしれない…

じゃあ、今までの俺と、この世界の俺が今の俺になったというのか? … あっ、そう言えば龍虎先生も、そう言ってた!

そうだ。そうかも知れない。あの時は、分からんかったが… 」

そこまで考えて、俺は博士に聞いてみた。

「俺って、龍虎先生の理論の正当性を裏付ける存在なのかもしれません。と言うのも、龍虎先生に対する俺の感情が、今までの俺と今の俺と、あなたの知ってる俺とでは、全部違うようです。今までの俺には、恋愛感情は、なかったけど、今の俺は… そうです。その通り、先生が好きです。そして、あなたの知ってる俺、この世界の俺は去年の講義を受ける前に、すでに龍虎先生が好きになってた、ということなんでしょうか?

でも、どうして、この世界の俺の心の中をそう決めつけれるのですか?」


それを聞いて、博士は少し黙っていたが、こう言った。

「その裏付けは、今、お前がここにいることじゃな」

博士は俺が、へっ?という顔をしたのを見て、さらに付け加えた。

「ワシは、お前が失踪するまでの行動や言動をワシの開発した行動予測AIに分析させたのじゃ。すると、お前は必ず立花博士に会うと出た。だから今日、立花博士の研究会があることを知ったワシは翔青を研究会が行われるビルに張り込ませたわけじゃ。そして、お前は今、ここにいる。

これが答えじゃ」

博士は、さらに付け加えた。

「しかも、ワシのAIは、お前が失踪したのは、立花博士の言うところの『次元の移動』が起きたからと予測した。どうやら、この世界のお前が時間を超えて、違う世界のお前と一つになったようじゃの。

その原因は、お前のルーツ、と言っても、お前の4代前じゃから、お前のお爺さんのお爺さんと同じ性質がお前にも備わっていたからだと考えられるな」

そう言って、この得体のしれない皆狂 ( みなくる ) と名乗った博士は、ニッと笑った。

俺は、この博士のいつもの表情のように、目を丸くして驚いていた。

第21話 終わり

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る