第31話 大丈夫、俺は死なない

 俺はタクシーに乗って行き先を大井コンテナ埠頭と言ったが、それがどこなのか全然知らなかった。もしかしたら、横浜かも分からないので、どうしても1時間以内に行って欲しいと付け足した。

 すると運転手さんは、

「大丈夫です! 品川の近くですから。混んでなかったら、30分で行けますよ。

 お台場の駅から見て、レインボーブリッジと反対方向にあります。地図で言うと、レインボーブリッジの真南なんで、真下側を見たら羽田空港があるんですけど、その丁度真ん中辺りですよ」

 と教えてくれた。俺は一瞬、龍虎先生とお台場でレインボーブリッジを眺めながら、並んで歩いている情景を思い浮かべた。何、考えてるんだ! こんな時に! とその想像を消したのは、無論のことだが……


 もう、辺りは真っ暗になってた6時過ぎに俺はタクシーを降りた。

 日曜日なので、ここは誰もいない感じだ。もしかしたら、こんな冬空に人混みを避けたアベックがいるのかも知れないが、今の俺にはどうでもいいことだ。

(早く船を見つけなくては。真田丸、古い貨物船…… )

 俺は、とにかくまばらに停泊してる貨物船の名前を順番に見て行こうとしたが、

(あっ、そうだ! こんなことしなくても、たしか第8係留所と言ってたぞ)と肝心なことを思い出した。

(ここは、どこだ? …… 第6係留所だ。あっちが第7か、じゃあ、その次に第8係留所があるはず…… )

 と俺が第8係留所まで来た時、俺の iphone から着信メロディが鳴った。

 ♪ 恋ともぜんぜん、ちがうエモーション

 ほんとにー それだけなのー それだけなのー

それだけなのー ♪


 なぜか俺は、先生の着信音に映画『ちはやふる』の主題歌のサビの手前の部分を入れていた。


 だが、電話を取ったら、あのドスの効いた男の声だった。

「指定通り、お前一人で来たようだな。お前の目の前の貨物船が真田丸だ。右のタラップから船に乗れ、そして上の甲板に行け」

 俺は、声の指示通りに真田丸の甲板に登った。俺が、甲板に出ると20人ほどの暗色系のスーツと紺のネクタイをした体格のいい男たちに周りを囲まれた。男たちの表情はサングラスで分からないが、十分に殺気が感じられた。


 俺の正面に立った男は、さっきまで使っていたと思われる先生の iPhone を後方へ投げ捨てた。

「一人で来たお前の勇気は褒めてやろう。

 しかし、お前はもう生きて帰ることは、できない!

 その点では、俺はお前を馬鹿としか思えんがな」と言った。

「龍虎先生は、どこだ! 俺のことは、どうでもいい。だが、先生は解放してくれ。そのために俺は来たんだからな」と俺は言った。心の中では、まったくコイツらに勝てる気はしてないが、先生さえ無事に解放されたら、それでいいと覚悟は決めていた。


 すると、その男より20メートル後方に見える、貨物船のブリッジの階下に当たる船内部分のドアーから、華奢だが長身で金髪の白人男性が龍虎先生の腕を掴んで出てきた。その後にヒダリンも出てきたのだが、今の俺には、産業スパイとして潜入した時の記憶は無かったので、俺の目には映らなかった。


 長身の金髪男は大声で、イントネーションが大幅に違う日本語で言った。

「吉本シゲゾー! 我がリンゴの秘密情報を盗もうとした奴は、一人残らずあの世に行った。

 ここは、お前の墓場になる。だが、チャンスをやろう。リンゴ ジャパン選りすぐりの戦闘員を倒して、腕尽くで立花教授を助け出せるものなら、やってみろ。まあ、無理だがな」

「シゲゾーさん! ボクのことなら大丈夫だから、逃げて! このままでは、殺されちゃうよー! 」

 と龍虎先生が叫んだ。


(大丈夫。俺は死なない。あんたを助けるまでは)

 そう思った俺は、一気に後方へ飛び出した。


 第32話 終わり



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