第26話 ボクは言わない!

 ここは、六本木ヒルズ上層階にあるリンゴ ジャパン支社の通称・監禁部屋である。この隣りには、あのシュレッダーの趣味の悪い個室がある。


「ボクをどうする気なのですか! 」

 グルグル巻きだったロープは外されていたが、裸の体を毛布でくるまっただけの格好で、龍虎リュウコは精一杯の虚勢を張って言った。

「お前には、今日イースターバックスで会ってた男をおびき出すための餌になってもらう」

 という意味をイントネーションのおかしな日本語で、シュレッダーは言った。

「さあ! お前の部屋から持って来たこの iPhone で奴に助けに来て欲しいと電話しろ」

 とさらに付け加えた。

「知らないから、できないよ」

「嘘をつけ! お前は、あの男とできてるんだろ? たとえ、そうでなくとも、お前が奴に電話で頼めば、奴は来るはずだ! 」

 と言ってシュレッダーは iPhone を龍虎の手に強引に握らせた。


「知ってるもんか! たとえ知ってても、お前らの言うことなんか聞かないぞ! 」

 とかわいい口元から凛々しい言葉が返ってきた。

「ぐぬぬー」シュレッダーは、歯ぎしりしながら内心しまったと思った。

(くそー! 痛い目に合わせれば、言うことを聞くかもしれんが、アキレス様のお気に入りのようだから、それもできん。どうしたら良いやら。トホホ…… )


 その時、バタンと監禁部屋のドアーが開いて、誰かが入って来た。

「シュレッダー! お前、馬鹿か? こいつの動きを監視してたら、自然とあのスパイの方からやってくるはずだったのに。これでは、埒が明かないでは、ないか。ハッハハハ…… 拉致して来て、らちがあかないとは、シャレにもならないぞ! 」

 と言ったのは、ヒダリンだった。保安室の誰かが、思い余って彼女を呼んだようだ。


( くそー、こんな小娘にも馬鹿にされたー )とシュレッダーは悔しかったが、思い直して言った。

「考えてみれば、そうだが、やってしまったことは、仕方ない。ヒダリン、何かいい方法はないものか? 」

 シュレッダーは神妙な風を装って、聞いた。

「なくもない。要するに、立花博士を誘拐したと世間に知らせればいいのだ。ニュースネタ欲しさに何でもありのパパラッチに犯行声明を送りつければ、報道するだろう。報道しても命の保証はする。博士を助けたいと思う勇気ある者は、博士のスマホに電話しろ、ただし警察関係が電話してきたら命の保証は、ないと言うんだな」

「えらく、手の込んだことだな」とヒダリンの提案にシュレッダーは文句を言った。

「それもこれもお前が、ややこしくしたんだろうが! それより、裸じゃないか。仕方ない。私の服を持ってこよう」

 と言ってヒダリンは自室に行った。


 龍虎は、2人の会話を聞いて、

( ああ、ボクのためにシゲゾーさんが大変なことになりそう。それにこいつら、何もんなんだ )と思ったが、ここはチャンスを伺うしかないと結論づけた。


 第26話 終わり

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