第5話 この顔、懐かし過ぎる!
気を沈めて俺は軽トラに乗った。この時ばかりは、驚くことがあってもすぐに順応してしまう俺に感謝した。いつもは損をすることが多いのだが。
俺はアバウトな奴だ。だから今、この時のことを回想してても、立花先生の容貌がどれほど美しいものに変わっていたかは、あまり説明する必要を感じないでいる。
ただ一つ、目に焼き付いたことを言うと、慌てて車に乗る時の先生の横顔が、俺好みのボーイッシュなショートカットの髪型と、やや赤味がかった耳たぶの、かわいらしい左耳が印象的だったことかな。
去年まで、とても53歳の初老の紳士だったなんて、俺の記憶の方が間違っているとしか思えない。
(先生が言ってたハダフレッシュとか、俺の知らない薬が世間には、ずっと前から存在してたんだろうか? )
3分ほどで店に着く間に、俺は周囲のことに関心がなかった当然の結果だったと思うことにした。
店に帰って俺はマネジャーに代金はすぐに本人が持って来てくれること。大学教授の立花 龍虎先生だったことを告げた。
それを聞いたマネジャーが突然、
「なんだって! あの、今をときめく物理学者の立花 龍虎だったなんて。そんなバカな。確かに太い男の声だったのに。それだったら、私が行ってたのにー」
とすごく残念そうに言った。
「たしかに容貌は、かわいかったですけど、そんなに大騒ぎするほどなんですかね。そのうち、お金払いに来てくれますから、そん時は、いしだっちに任せますよ」
「そうかー。そうしてくれるかー。ありがとう! 」
マネジャーは嬉しそうに言った。
俺は、用を足したくなって、トイレに向かった。
この店は都心からも離れていて有名人は、あまり来店しないから、いしだっちは、あんなになってるのかなと、ぼんやり考えながら便器に向かっていた。
手を洗うために洗面台に向かった時、俺は自分の目を疑った。
(えっ、この顔…… まだ現役で工事現場の監督をやっていた時のあの顔じゃねえか! )
俺はとっさに自分のほっぺたをつねったり、手ぐしをしたり、はては、あっかんべーまでしていた。
まぎれもなく、鏡には俺の懐かしい10年ぐらい前の顔が写っていた。
そして、俺は悟った。
(俺も含めてみんな、入れ替わったんだ。きっとそうだ! )
俺の知識では、それぐらいのことしか想像できなかった。
第5話 終わり
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