第4話 立花 龍虎(タチバナ リュウコ)
彼女は助手席にあったエレガントなショルダーバッグを手にすると、中からすぐに免許証入れを取り出し、免許証の表が見えるようにして俺に手渡した。
免許証を見た俺は「えっ? 」と思わず声を出した。免許証の氏名欄には立花 龍虎と印字されてた。
(立花先生と同性同名じゃん。写真から見て女性だと思うが…… わっ! 生年月日が俺より4年も前じゃんか。たしか、立花先生も俺より4つ上だとは思ってたけど…… )
俺は動揺しながらも何かの間違いではと思いながら聞いてみた。
「あのー、この免許証、間違ってないですか? 」
「いいえ。その通りですよ。なにかぁ? 」
と言いながら、彼女は逆に不審な顔をして俺を見た。
「いや、その。どう見てもお客さんは、20代前半にしか見えないんですが、免許証だと俺、いや私よりも年上になってますよ。そんなバカなことがと思いま…… 」
「おっと」
彼女は俺の言をさえぎって、
「そう言われると、ちょっとうれしいなあ。ほら、ドラッグストアでも新陳代謝促進剤のビニナルタンとか、ハダフレッシュとかが普通に手に入るじゃないですか。それですよ」
そう言って彼女はニコッと笑った。
「ついでに言っちゃうと、ボクおとこですよ」
彼女、いや、どうも彼らしいが、満面の笑みになって、目を白黒させている俺を見ている。
数秒の沈黙の後、俺はなんとか動揺を抑えて確認した。
「それじゃあ、お客さんは54歳の男性ということですね」
そこまで言って俺はハッとした。
(まさか。このひと、たちばな りゅうこセンセイ…… まさか)
恐る恐る俺は聞いた。
「わたしは去年、テレビ受講大学で宇宙物理学で著名な立花 龍虎先生の講義を受けたんですが、もしかして立花先生ですか? 」
「ピンポーン。やっとわかりましたか。アハ……
いや、ごめんなさい。君があんまり驚くから、なんかボク楽しくなって。でも君もボクの講義を受講してくれてたのかー。去年だったらボクの多次元変動説の講義かなあ? 」
「はい。そうです。でも、その時の先生は、普通に俺よりおじさんでしたけど。あっ、お客さんにタメ口きいてしまったー」
俺もなんだか、うれしくなってた。
「いいよ。いいよ。今回ボクは君に助けてもらったんだし。じゃ、あと電話番号は、この名刺にのってるから、ハイ」
俺は、立花先生から名刺をもらい、伝票にサインをもらって帰ることにした。
「それじゃ、お店まですぐに支払いに行くから、よろしくね」
立花先生は明るく言って、開いたドアーを止めたまま俺の方を振り返り、なんか懸命に両目を閉じたり開けたりしている。
「アーン。モー! なんでウインクできないんだ。ボクって」
とボヤいたあと、ポカンとして自分を見てる俺に気づいて
「ワー。恥ずかしいー」
と言って慌てて車に乗った。
(へっ、あれウインクのつもりだったのかー)と郵便局へ向かった彼? の車が走り去った方向を俺は、しばらくは余韻に浸ってるかのように見送っていた。
やがて我に返って
(はっ! 一件落着と思ったけど…… )
「ハダフレッシュとかビニナルタンなんか俺、知らんぞ。なぞだー! 」と叫んでいた。
第4話 終わり
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