第6話 令和元年
今、考えたら俺がその時、思ったことは突拍子もないこととしか言いようがなかった。
出勤してから俺が見る人、見る人の容貌がみんな大幅に変わっていた。今のところ来店するお客さんに見覚えのある人はいなかったが、その人たちも恐らく同様に入れ替わったとしか思えないぐらい、変わっている筈だ。そうに違いない!
唯一、顔なじみで相変わらずの人はマネジャーのいしだっちだけだ。まあ、これは例外なんだろう。
そこまで考えながら、その時の俺は、この考えにめっちゃ無理があることを自覚していなかった。
そうだろう? こんな調子じゃ、一体どれだけの人間が入れ替わらないと、この状態にならないか途方もないじゃないか?
それよりも俺が異世界に迷い込んだと考える方が、可能性は遥かに多いと思えるのにな。それも、常識からは、考えられないことではあるが……
脱線したが、その時の俺の取った行動に戻ることにする。
俺は、俺を含めた大勢の人間が入れ替わったということを自分なりに納得するために、店の事務所に入った。
カレンダーを見れば、俺が今まで通りの時間を過ごして来たことが分かるはずだからだ。
去年、立花先生の講義で多次元宇宙の存在の可能性を知ったとはいえ俺にとっては、たとえ相当な人数だとしても単に入れ替わったんだと思いたかったんだ。その場合入れ替わった者が何者かということも深く考えずにだ。
ところでみんなは、俺が勤務予定を日付で把握してないのかと、不思議に思うだろうな。
はい、その通り! 俺の勤務は、ほぼ不動で月水金の週3日と決めている。だから俺は iPhone の Siri に毎朝、
「今日は金曜日です! お仕事ですよ。今、7時になりました。起きてください! 」のように、目覚まし代わりにアナウンスするようにしているんだ。だから今日が金曜日なのは分かっていたが、日付は知らない。日付などは給料日と特別に外出する時ぐらいしか必要ないと思ってる。
だから何月何日かはこの時、初めて知った。まあ、たまにカレンダーが目に入ったりして、今日が何月何日かというのは、知ることがあるけどな。
(ほうー。今日は11月29日だったのかー)
俺の iPhone もそうなってた。年は、たまたま5月から令和になってたから覚えていたが、それも合ってる。
(気がついたら令和元年もあと1ヶ月か。早いもんだな)
そういうことで、俺は結論を下した。
(やっぱり、人が入れ替わってるんだ!
それも昨日までとは、全然違ってたりもするみたいだ )
第6話 終わり
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