第10話 多次元変動説

おっと、これだ!

懐かしい1年ぶりに見る、あの時の講義ノートが机の引き出しの奥の方から顔を出した。ノートを手に取り、俺は食い入るように読みづらい殴り書きの羅列を読み進めた。


それによると多次元変動説は、今までの定説を覆す3つの空間概念を主張している。


1つ目は、我々が今、まさに存在している空間と同じスケールのものが、幾層にも存在しているということ。


2つ目は、我々の肉体を含めて、素粒子から銀河系スケールのものまでが、最も相似する異空間 ( 異次元 ) と合わさったり分離したりしている。ほとんどが一瞬の間のことなので観測できないほどであり、その現象を体感することもない。


3つ目は、異空間への合体及び分離の現象を移動というイメージに置き換えた場合、場所と時間が同一空間に限りなく近いほど、物質の移動は少ないエネルギーで起こりうる。

そのため、素粒子は日常的に異空間での移動が行われているので、仮に肉眼で見えるスケールまで拡大できたとしても、消えたり現れたりするように見えると考えられる。

また、銀河系スケールの移動の場合は、巨大なエネルギーが必要なため、超新星爆発のような現象の時に銀河系全体での移動が観測されると、可能な限りのデータを入力した結果 ( 立花先生は、実際3万4650個のデータ入力をした ) 、AIにより予測された。


そして2018年4月1日に白鳥座αスリーという恒星が中規模の新星爆発を起こし、その時、地球上の原子時計に100万分の1秒の遅れが観測された。

( 日本やハワイを始め7カ所の天文台に設置された100万分の1秒まで表示される原子時計の表示パネルを超スピードカメラにより、36時間分の記憶容量で常時録画しているので、新星爆発を観測後1ヶ月を要して、その瞬間の表示を確認したところ、7カ所とも同一箇所で100万分の1秒長く表示されていた )

それにより、立花先生の多次元変動説のこの部分においては、99.5%の確率で正しいものと証明された。

立花先生は、この研究結果を宇宙物理学会に発表した結果、この年のノーベル宇宙物理学賞を受賞された。


俺は、すごいとは思ったが、ということは今の俺の場合どうなるのかが、イマイチ理解できないでいる。

ただ分かるのは、異次元は普通に存在するということなんだけどな。

( こいつは、やっぱり今度の日曜日までお預けやなあ )

睡魔に襲われた俺は、照明も付けっぱなしで眠ってしまった。

第10話 終わり

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