22 古代遺跡リポート

「仕方がない。古代遺跡まで行って、身を隠すか」


 あの遺跡は、怖いんだよな。

 死体とかごろごろ転がっていそうで。


「時代は、いつのものだろうか?」


 遺跡を目前にする。

 塀が高くあり、錆びの上に蔦が絡まっている。

 右手に入り口らしきものがあるので、塀伝いに確かめに行く。


「うーん。俺は背丈は百七十だから、狭いな。肩を外す勢いでないと潜れないかも知れない。猫ならば、ヒゲで分かるのに」


 他の入り口がないか、もっと右手へと進んで行った。

 蔦がふっさりと垂れている所がある。

 これは、もしかすると期待を持ってもいいかも知れない。


「蔦を捲ってみるか。暖簾のようだな」


 かなりの勇気を出して、蔦を掻き分ける。


「うお――! し、死ぬ……」


 蔦から電撃をくらい、倒れてしまった。

 その勢いで、古代遺跡の一歩奥まった所へ入った。


「くっ。うう……。背中を火傷していなければいいが」


 まあ、それは杞憂に終わったが。

 嫌なことは続くものだ。

 ゾクリ。

 背筋に嫌な感じが走るではないか。

 ――したり。


「うごはやひえ!」


 襟足に当たったのは、水滴か?

 ここはやけに涼しい。

 俺は、天井を見た。

 高さは、凡そ三メートルもあり、薄暗いので見えにくい。

 だが、分かってしまった。


「氷柱ばかりだ! そこに、紫煙が取り巻いている。何て重苦しい遺跡なんだ」


 こんなときは、誰かにいて欲しいものだ。

 静寂と暗闇が俺をを包む。

 ニートとなってから、家族以外で初めて話した相手は、あの猫鶏だ。


「ニャートリーよ。もしかして、俺の友達かな……」


 閃光が入り口らしき方から来る。

 俺は、這いつくばっていて、すっかりお尻で受けてしまった。


「そこは、さっき拭いた所」


 苦痛に耐えかねる。


「ニャンニャンニャー」


「ニャートリーか? 入り口から声が聞こえるが。俺はここだ! 助けてくれよ。そろそろ、家に帰りたいし」


 ========☆

 森の泉


 HP  XXXX

 MP  XXXX

 【大昔】2019

 ========☆


「ニャー?」


 ========☆

 古代遺跡


 HP  XXXX

 MP  XXXX

 【大昔】1971

 ========☆


「ニャー」


「ニャーじゃ分からんボケが!」


 思わず、激怒してしまった。


「ああ、失言です。助けてください」


 謝った口で、その上、お願いとか俺も腰が低くなったな。


「ニャートリーよ。俺もましになっただろう」


「ニャンンニャ」


 ========☆

 大神直人


 HP  0090

 MP  0086

 【不遜】1234

 ========☆


「何だよ、その便利に人を傷付けるスクリーンは」


 取り敢えず出たいのだが、何せ、ビリビリ感電するのは困る。

 おや――?


「大神くん」

「大神さん」

「大神様」

「直きゅん」

「大神殿」

「大神直人さまへ」

「直坊」


 皆の声が聞こえる。

 どうしたんだ?

 そうか、再び感電して――。

 このシーンも久し振りだろう。

 このゲームの世界に入るとき以来だから、相当前だ。

 それで、直坊って、誰だよ。

 水仙さんかな。


「ああ、八人のオオガミファームへ戻らないとな」


 俺の心がきらりと光る。


「ニャンニャンニャー」


 ご機嫌なニャートリーの声が心地よい。

 俺の背中に羽でも生えて来そうだ。

 ふわり、ふわり……。

 これって、ハッピーエンドなのかな?

 俺は、クリア回数だけは誇れるのだが。

 昇天してしまうのは、どうかと思われる。


「大神くん! 今、亡くなったら、小麦を食べられずに終わるのね」


「大神さん! ホットミルクを美味しそうに飲んでいると思ったのに」


「大神様! 茸に当たったのではないですよ。ふう、そうです」


 これは、櫻女さん、菜七さん、紫陽花さん。


「直きゅん! 折角、菊きゅんと会わせてくれたのに? それじゃ終わりじゃん」


「大神殿! 果樹のお仕事はこれからです。働きぶりをご覧入れましょう」


 百合愛さんに、菊子さんまで。


「大神直人さまへ! 私の心は、女子高生女神達の心を繋ぐこと。皆、お慕い申しております」


「直坊! 井戸から押し掛けて、許してくだされ。冬まで待てなかったからじゃ」


 新しく入った、秋桜さんと水仙さんだね。


「オオガミファームはどうするんですか!」


「……オオガミ」


 俺を呼ぶ声だとは分かっていても体が動かない。

 誰か、俺の呪縛を解いてくれ。


「うふふ。こちらの背中に当たった氷水がいけないのですね。拭いて差し上げましょう」


「あん。あったかい……。まるで、ホットミルクのようだ」


 俺は、目を開けられないまま、背中の一刺しを拭われていた。


「上着のヒマティオンを絞ったものです」


「確か、キトンを下着と言ったかな」


「うふふ」


 これはまた、何とも、ごっきゅん。

 ゲームの中とはいえ、至極の心地よさだ。


「随分あたたまって来たよ。もう、いいと思うが」


「まだですよ。貴方の心が完全にとろりとするまで。今までの凝りを全て私に預けてください」


 誰だろう?

 女子高生女神だと思っていたが、様子が異なる。

 思い当たるどの花の柱とも分からない。


「あの……。ここはもしかして天国なのですか?」


「目を覚ませば分かりますよ。貴方の大切にしている全てがここにあります」


 目を覚ます。

 俺は、皆の顔を見たいな。


「今、心に描いたことを瞼に焼き付けてください」


「ああ、そんな器用なことができるのなら」


 俺は、瞼に意識を集中してみたが、思い起こせるのは、会ったばかりの女子高生女神達と俺の家族、それと――。


「最後にこちらであたためますね」


「ぷぎー! それって!」


 はあ、はあ。

 もしかして、たわわな二つの房ではなかったかな?


「誰だ! そんな失敬な格好をしているヤツは!」


「大神くん」

「大神さん」

「大神様」

「直きゅん」

「大神殿」

「大神直人さまへ」

「直坊」


 あれ?

 いつものメンバーでございます。

 たわわが居ない。


「よかった。だめだっと思ったね」

「私も思う。けれども、大神さんには希望も持っている」

「ご無事で。ふう、よかった」


 おお。

 懐かしい。


「初期メンバー三柱か。ああ、ありがとう。生きているみたいだ」


「直きゅん。ひっついちゃう」

「止めろよ、百合愛。でもお帰りなさい」


 こっちの面子は、恥ずかしいな。


「ゆりゆりめ。相変わらずだな。ありがとう」


「栞通りに女子高生女神が引力を持って集まっております」

「わらわまで呼ばれたわ。秋桜」


 掴み難い異様な雰囲気の二人だ。


「喧嘩はしないでくださいよ。ラストスパート組。でも、ありがとう」


 んん。

 俺は、ありがとうばかりを言っている。

 自分らしくないな。

 でも、人としてはどうだろか?

 俺は、少しだけいい人になったのかも知れない。

 ――【不遜】も脱却かな?

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