06 プライドを脱いで

 神に祈ろうともどうにもならない。

 俺の想像していたものは、残念な動作だ。

 モグラの穴掘りを一番に思い付いた。

 くっ。

 仕方がない。

 モグラの気持ちになってやってみよう。


「モグモグ、モグラの大神直人だってさ。はあ」


 両手を広げる。

 むっ。

 滑稽だな。


「これでは、カニだろうよ」


 しゃがんでみる。

 大地に近付くと、自然と穴を掘る姿勢になるな。

 

「ぐ、ぐおお! ほっさか、ほっさか。ほっさかよ」


 色々なプライドをかなぐり捨てて、掘り始めた。

 だが、五秒でお手上げだ。


「手が痛い!」


 よく考えてみろよ。

 ここの土は固くないか。

 少し調査がてら散策するか。


「そうだな。下草の多い所も悪くはないが、草の根が張り過ぎだ。別の用途に使えそうだ。例えば、牧畜とか。マメ科とイネ科の植物を混合するといい草地になる。牛もにっこりだ」


 これは、俺が農場ゲームで得た知識だ。


「さて。どうだ? 木が倒れている下は」


 モグラスペシャル一撃で、俺が最高レベルの悲鳴を上げたことは、オオガミ【開墾】ブログに記載してもいい位だ。

 そんなブログが何処にあるって?

 東大学出の無駄な記憶力で、現実世界に戻ったら、パソコンで記してやる!

 背景は、思いっ切りファンタジーにしてもいいな。

 くまねこシュシュは、実際のファンシーグッズだが、『シーサイドストーリーズ』でも、皆のサブバッグにマスコットが揺れている。

 攻略画面で、先ず、シーズンを決めるのだった。

 俺は、順番が好きだったから、春から始めたね。

 春、夏、秋、冬と。

 四季折々の花とか柄にもなくデスクトップに飾ったから、大笑いだよ。

 何てね。


「お。ここはどうしたよ? ふんわりした土が、腐葉土の下にあるが?」


 【力拳】を振りかざす。

 今度は拳が痛くないだろうと、スペシャルに構える。

 数回振り回して、いざ、モグラ掘りだ。


「てーい! てーい! おう! ここもだめだっ」


 ふかっ。

 何?

 本当は、だめだと覚悟していたのだぞ。

 何てふんわりとした土なのだ。

 そうだ、腐葉土は栄養にもなる。

 此処こそが、相応しい土地じゃないか?


「おお……! やった! 俺、やったよ!」


 両の拳を振り上げて、どんどこと跳ねてしまった。

 自分の自信という血脈がどくどくと唸る。

 どうせゲームしかできない男などど、言われなくても済む。


「おーい。ニャートリー。いないのか? 俺だってやればできるよ」


 誰かに聞いて欲しかった。

 誰かに認めて欲しかった。

 悔しいことに、涙まで滲むだろうよ。

 もう、前も見えなくなっていると、肩に重みを感じた。


「ニャートリーか?」


「ニャ」


 この猫鶏めが!

 早くお祝いに来いよ。

 何だか泣かせやがって。

 まあ、男、大神は泣いたりしないがな。

 これはいい記念だ。

 オオガミ【開墾】ブログに記してやろう。

 秘訣は、腐葉土にありと。

 大神直人、神となりて舞い降りたると。

 クエストによれば、『【開墾】は、素手で行え』とのことだから、ここで秘技をかますかな。


「モグラスペシャル! 人力じんりき開墾かいこん】の


 ガガガガガガ――。

 次々と土を掘り起こすぞ。

 根の張った木は置いておいて。

 六畳程は、ふんわりとした土に大変身だ。


「ニャートリー」


 一つ啼くとブルースクリーンが表示される。


 ★=== クエスト001 ===★


 二柱の種を渡す。

 ================★


「これは、クエスト001の一部か。畑は認めて貰えたのだな」


 俺の手元に、白い袋がふわりふわりと舞い降りた。

 覗いてみると、種が二つある。

 これが、二柱の種だろう。


「ああっ。クエスト001が消えていく!」


 点滅しながらすっと光の板がなくなっった。

 ある意味、寂しいな。


 ========☆

 大神直人


 HP  0028

 MP  0087

 【蔬菜そさい】0018

 ========☆


「む! ちょっとお腹が空いてきたな。急がないと。そして、新たに【蔬菜】と来たか。食用の草本を育てたりすることだな」


 もしかして、この種は【蔬菜】のものか?

 アサガオ、ヒマワリ、そんな習ったような種でもない。

 新種だな。

 そして、柱と数えるのも気になる。


「そうだ! 種を蒔いてから、水をやらないといけない。確保しなければ。それに俺も水を飲みたい」


 ずっと回ってきたが、泉らしきものはなかった。

 井戸でも掘るか。

 湧き水か地下水の水脈に当たればいいな。


「ニャートリーよ。水脈を教えてくれ」


「ニャハ」


「それも教えてくれないのか……」


 ふと、足元にミミズが蠢くのを察知した。

 畑から北に五メートル程だ。

 よし、掘ったれ。


「てーい! てーい! おー! モグラスペシャル――」


 ずん。

 ずんずん。

 ずんずんずん。

 ずんずんずんずん。


 ちょっと土が抵抗するのですけれども。

 ここは、ファイター。

 【開墾】の大神直人!


「スプラッシュモグラ!」


 俺は、バリバリと掘り下げた。


「これは? 土から水が滲んでいる」


 もう少しと思い、数回掻き出す。

 掻き出した土は、よっせと入り口から外へとやる。


「昔飼っていたウサギの穴掘りみたいだな」


 庭で楽しそうに穴掘りを楽しむひろを思い出した。

 とっても可愛いウサギで、俺が東大学を卒業するまで生きていてくれていた。

 母さんが餌を作って、俺が運んであげると、野菜の皮を喜んでいたな。

 寛がいたから、俺も家にいられたのだ。

 母さんとも繋がっていられた。


「俺……。こっちの世界で母さんのことを考え過ぎだな」


 いい歳して恥ずかしい。

 しかし、俺の本音なのかも知れない――。

 そうとは、認めたくないがな。

 俺も照れ隠しに一つ頭を掻いた。

 すると、滲んでいた水がじわりじわりと水位を上げる。


「危ない。上へ行かないと」


 少々階段状になった井戸の入り口を慌てて駆け上がる。

 外へ這い出て、一安心していると、背後から水を浴びた。


「井戸だ!」


 喉の渇きを潤したかったのだった。

 飲んでみよう。

 溢れている水を手で掬う。


「ぐ……」


 旨い。

 砂漠が雨を吸うように、俺の喉は雨粒を数えた。

 今、話をすると、大切な喜びの水を零してしまう。


「ニャンニャー」


 猫鶏め、お前は水が要らないのかい。

 サボテンの土地アタックを上空にかます。


「サボテーンヌ! シュババ」


「ンニャ? ンーニャ?」


 ニャートリーをビビらしてしまったよ。

 それよりも、疑問猫鶏になったのか?


「ニャンニャ?」


 ニャートリーって不思議な生き物だな。

 面倒臭くて憎らしくもあった。

 ――くう、ちょっとだけなら可愛く思えて来たよ。

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