07 クエスト女神様召喚

 ★=== クエスト002 ===★


 この二つの種を発芽させる。

 報酬は、新しい花。

 ================★


「クエスト002が残っていた――!」


 農場ゲームだとしてもだ。

 もしかしてギャルゲームかと思ったけれども、前言撤回だな。

 報酬をよく見ろ。

 俺の将来は、花屋さんになったのか?

 がっかりした。


「ああ、種を蒔けとな。もう水も得たし、大丈夫だ」


 まさか、ニャートリーは喜んでくれているのかな?

 取り敢えず、井戸の水が溢れるのを汲み取っておくか。

 何に?

 ああ、倒木があったが、あそこにヤシの実に似た殻があったな。

 幾つか持って来よう。


 行ってみると、スイカ大のいい形のものがある。

 俺は、三つの実を抱えて来た。

 それぞれに水を満たすと一安心した。


「花の種か。耐病性などに欠けるけれども、直植えで構わないか。何かエネルギーを感じる種だし。畑の中でも日当たりのいい所を選ぼう。南向きの真ん中がいいかな」


 指先で穴を穿ち、優しく種を入れる。

 これを二つ行ったら、待たせてはいけないと、水の用意だ。

 小さめのヤシの実に似た殻をジョウロに見立てて、小枝を添え、ちょろちょろと水を与えた。

 どの道、直ぐには育つまいよ。

 頬杖をついて、眺めようとしたときだった。


「おわああ……! 何だ?」


 俺が水をやった種が、分速一メートルで成長する。

 可愛い桜色の光を身に纏い、腕は胸の前で交差して、俯き加減の顔を上げる。

 見まごうばかりの愛らしい女子に遭遇した。

 神様などいないと思っていたのに。


 ――俺は女神様を拝むこととなった。


「な、何だ。桜の花が満開だ」


 今の俺って挙動不審じゃないだろうか?

 女神様なのだから、俺の心も見透かしていそうだ。


「そして、女神様は、桜の花から顔を覗かせるのか」


 その美しい人は、己の手を見つめて不思議そうに三度呟く。


「私は、どうしてこんな所にいるのでしょうね?」

 

 桜色の瞳に桜色の髪を肩まで梳かして、ヘアーバンドに桜があしらわれている。

 服は、濃いグレーと淡いグレーのツートーンに白い襟だ。

 学生服か?

 もしかして、彼女は女子高生ではないか!

 JKだ!

 

 う……! 

 もう何年も女子とチャット以外で喋っていない。

 どうしたらいいのか。

 ニャートリーは、俺が困ってときに限って上空を旋回している。

 仕方なく、ニャートリーを呼ぶことにした。

 俺は、口に手を添えて、空気を一杯に吸った。


「おーい。ニャートリー!」


 すると、代わりに彼女が答えた。


「貴方は? 貴方はこの地の方ですね?」


 ぎく。

 ぎくぎく。

 な、何て切り出したらいいんだ。

 女の子の好きそうな話題を振るのが、ギャルゲームの基本だ。

 話題袋があって、学校の話がいい。

 好きな教科あたりから始めると無難だ。

 だが、この瑞々しい女神様は、本物の女子高生に違いない。

 どうしてこの畑にいるのかも分からないが、神々しく凛々しい感じを受ける。

 いや、待てよ。

 そう、まるで桜から降誕したようだ。

 まさか、これがクエスト002の『報酬は、新しい花』なのか?

 立派な桜の花、この桜色の美しい女子高生の二つの柱か。

 柱という位だから、御神木と神様なのだろう。


 後ろから風を感じて振り返る。

 ニャートリーが滑空し、すかさず啼いた。


「ニャートリーノ」


 ニャートリーから女神様の後ろに大きくブルースクリーンが出された。


 ========☆

 櫻女さくらめ


 HP  0100

 MP  0100

 【散桜さんおう】0001

 ========☆


「えーと。『さくらおんな』さん?」


「そうね。私は、さくらめ……。『櫻女さくらめ』ですね」


 ああ!

 名前を間違えた!

 そこではない。

 俺ってば、自然と女子高生と喋った!

 どうしよう。

 この先、どうしたらいいんだ。

 話題、話題、俺のニート生活の中で何かが弾けた。


 ええ、学校は好きですか?

 違う。

 学校がないから泣かれるかも知れない。

 うおっほん。

 好きなタイプは?

 プライバシー侵害とかで、引っぱたかれそうだよ。


「どうしたらいいかな? ニャートリー」


 は!

 思わず猫鶏なんかに相談しているよ、俺。


「ニャンニャートリー」


「ふむ。もう一つの花は暫く待って欲しいとのことだな。OK、OK」


 俺は、はぐらかされた気がする。


「ニャンニャー」


 またまた、がんばってスクリーンを出してくれた。

 何々、クエストか。

 もう三つ目なのな。


 ★=== クエスト003 ===★


 【蔬菜そさい】ぽんぽん種で四種の作物を得る。

 ================★


「ニャニャ」


 ニャートリーが、畑にうずくまる。

 暫く力んでいたかと思うと、何か小さな青いものを体の下から嘴で出す。

 ころころとピンポン玉状だ。

 全部で十個売りの卵みたいだな。


「そうか、これが蔬菜ぽんぽん種か」


 俺が卵を振ると、微かなな音がした。


「一つの卵に一粒ずつの種が入っているようだ。種も十個ある」


「あの……。そうね。お手伝いいたしましょうね?」


 櫻女さんが胸にきゅっと手を当てて、こちらをじっと見つめる。

 参ったなあ。

 こういうのに弱いんだよ。


 ========☆

 大神直人


 HP  0013

 MP  0082

 【蔬菜】0001

 ========☆


「え? どうして蔬菜が0001に下がったのだ」


「私がお手伝いをいたしますから、大丈夫ですね。そうね、はりきろう」


 彼女と出会って、直ぐに、見た目は可愛いと思った。

 そこで終わってはいけないな。

 内面については、生意気で真面目なのかも知れない。

 

 だが、見くびるな。

 俺は、横を向いてぶっと頬を膨らましてやった。

 自分のことは自分でできるんだ。

 邪魔されたくないね。


「貴方はこのデータをどうやって表示しているのですね?」


 さっきから、櫻女さんはころころと種を弄っている。

 植物だぞ。

 卵じゃないからな。

 それで孵化されたら、たまったもんじゃない。

 バイオの崩壊だよ。


「櫻女さん。貴方と呼ばれるのは恥ずかしいよ。俺の名は、大神直人だから」


 ぶっと頬を膨らますこと二度目だ。

 これで俺の気持ちは分かったか。


「失礼しました。大神おおがみくんでいいですね?」


 櫻女さんが、掌を合わせて頭を垂れる。

 す、素直な所もあるんですね。

 いいですよ。

 大神くん――か。


「ニャートリーの匙加減で空間に映し出されるから」


「さっきの可愛いピンクのもこもこさんですね」


「ニャニャニャ」


 俺だけ仲間外れ感ありだ。


「さて。【空腹】が増したことだし、さっさと何か食べよう」


「そうね」


 まあ、いいか。

 真面目っ娘でも。

 ――素直なところは見直してやろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る