08 女神様ぬくぬくご降誕

「よし、櫻女さんには、『【蔬菜】と【米】の大臣』をして貰おうか」


「いつ決まったのですかね? 多数決がいいと思いますね」


 つべこべと煩いな。

 やはり櫻女さんは、クラス委員タイプだな。


「大神くん、今から【米】を作る理由を教えてくださいね」


「お! 【米】は無理か?」


 胸元できゅっと手を結ぶの、癖なのね。

 可愛いけれどもさ。

 目の毒だよ。


「いえ。でも、稲作は初めてではありますね」


 櫻女さん、逡巡しているな。

 こちらも困るって考えていないんだ。

 よく泣けばいいと思っているヤツいるだろう。

 あれでは、解決にならないんだよ。

 まあ、それが俺だ。

 自室に泣き寝入りだものな。

 ……認めたくないが。

 泣いて解決にいたらなかったのが俺なんだ。


「ニャニャー」


「何々? ニャートリー。【米】の代わりに【パン】はどうだろうかだって。すると、【小麦】か……。ふむ」


 顎を暫くさすって考えていたが、【小麦】の方が楽だろうとの大神直人の一人多数決で決定した。

 右手と左手の挙手があれば、二票ある。


「よし、【パン】の【小麦】にしよう」


「ニャ」


「大神くん。ありがとうですね」


 んー。

 俺と櫻女さん、ぎくしゃくしてしまう。

 自己紹介でもしようか?


「俺、大神直人。VRMMOのゲームの最中に、この世界に飛ばされたんだ。櫻女さんの自己紹介してくれる?」


 作業をしながらだ。

 俺が、芽が出ない方の花に、水やりをする。

 櫻女さんは、やらないのかな?


「えっと、櫻女さんは、ここへ召喚された女神の第一号だろう? 若くて制服を着ているし、女子高生女神と呼んでもいいのかな」


 【蔬菜】ぽんぽん種を埋める畝を作る。

 性質の分からない種だが、二列五個ずつ埋める。


「そうなんですかね。では、細かく話しますね」


 俺の逞しくないかも知れない手で優しく埋めて、先程のように水をやる用意をする。


「私は、リーダー格があると思っていますし、性格は、生真面目ですね。成績だって、学年二位をキープですね」


「二位なんだ」


 ちょっと、俺、食わず嫌いのアジフライを口へ運ぶ顔になちゃった。


「学校は?」


 小さなヤシの殻をジョウロに見立てて。小枝をつたわらせる。

 適宜これを繰り返す。


 あ、しまった!

 学校の話をすると、元の世界が恋しくなって泣かれるかな?

 危険な話題を突っついたかも知れない。

 いや、確実にそうだろうな。


神奈川県かながわけん川崎市かわさきしにある櫻川さくらかわ高等学校こうとうがっこう三年A組で、所属は生徒会せいとかいですね」


 漢文かと思ったよ。

 櫻女さん。


「普通の質問だけど、好きな物って何かな?」


「とてもとてもとても美味しいパフェですね」


 リピートアフターミー。


「おじさんもパフェは嫌いじゃないけれども、混むのが苦手でね」


「それって、原宿はらじゅくのクレープとかですね」


「んが」


 失敗したかな。

 話題が作れなくてしーんとしてしまうのは、ほぼ、病的だよ。

 何かないかな。


「嫌いな物は?」


「G……」


 これは、人前で言えないGだな。

 この世界にもブリキゴはいるのだろうか?

 俺も苦手なものだから、察するよ。


「分かったよ。もう、嫌な説明はしたくもないだろう」


「ニャンニャニャ」


 ニャートリーのお陰で、危なく気が付いた。


「おおお。土がもう乾いている。櫻女さん、どんどん水をやろう。この世界は時間が進むのが予想よりも速足だ。俺が水を汲んでくるから、ちょろちょろぱっぱはよろしくな」


「ぷっ。ちょろちょろぱっぱって、何ですね」


 くすくすと笑いやがって、俺をバカにするなよ。


「水やりを優しくしてくれの意味だよ……!」


「そう仰ってくださいね」


 オツムが筋肉でも分かるように表現したって、分からないかな?

 そこまで突っ込まれたいかよ。

 

 俺は、東大学出身だぜ?

 そこらの女子高生とは訳が違うんだよ。

 大学で暇ができた頃、男子高校生の家庭教師をしたな。

 父さんの伝手が恥ずかしかったが、小遣い位は欲しかった。

 何って、最初のアルバイト代で、家族に恩返しだ。

 それで気持ちを伝えたかった。

 父さんには、国産の時計、母さんにはフラワーの淡いスカーフ、優花には、好きな映画のCDを贈った。


 父さんは、一瞥して、「どうせ安物だろう」と言ったね。

 忘れられないよ。

 母さんは、「勿体なくて使えない」と、タンスの引き出しに入れたままだから、樟脳の香りが残念だよ。

 優花は、「何? どうして?」そればっかりだから、兄さんは疲れたよ。

 でも、優花が一番最初に礼を言ってくれたな。


「ははー。初のアルバイト代で、ありがとうございます。もったいなくて、ビニールを開けにくいかも。よ」


「やめなさいって」


 その後、笑い合った。

 暫くして、お線香の香りがすると思ったら、優花が贈り物を祖母の仏壇に上げていた。

 俺は見ていたよ。


 あ、いけない。

 トリップしていた。

 今は、ゲームのVRMMOの中だ。

 櫻女と揉めていたのだったな。 


「分からない女だな」


 俺は、人とは慣れていないのだった。

 このまま行くと、喧嘩しそうになる。

 あ、目が合った。


「大神くん。はりきろうね!」


「な、何?」


 ========☆

 櫻女


 HP  0079

 MP  0048

 【散桜】2000

 ========☆


「舞え給え、【散桜】――!」


 櫻女さんが、胸の前で腕を交差させて唱えた。


「回れ、桜よ!」


 天を示し、回転をすると、櫻女さんの淡い声に纏わりついて桜が渦になる。


「行け、桜よ! はあ!」 


 すると、俺の周りが、桜の嵐で包まれた。


「止めろ、何をするんだ。前が見えないじゃないか」


 こーこーと旋回する音が耳障りだ。


「大神直人氏のエナジーを【蔬菜】の子ども達へ! さあ、行くのです」


「ヒイー。余計にお腹が減るだろう?」


 そこは違ったな。

 こーこーとする音に交じって、ぽんぽんとも聞こえてきた。

 そして、にょきにょきーのにょきっきと十個の種を植えた辺りから軋んでくる。

 これは、成長しているのか?


 ★=== クエスト003 ===★


 【蔬菜】ぽんぽん種で四種の作物を得る。

 ================★


「今、クエスト003の表示が点滅した? では、達成が近いということか。早くこの目で見たいものだが、瞼が重い。砂でも入ったかのようだ――。でも、未だ収穫していないな」


 そのとき、神々しい光が、櫻女さんとは別の所から差し込んできた。

 あれだ、第二の女神だ。

 特別な種を二柱分いただいていたのだったな。


「砂嵐に二柱目の女神降臨とは、俺は、アンハッピーなのか? ハッピーなのか?」


 ◇◇◇


 おおお!

 新しい女神が……。

 優しい母性が香ってくる。

 特に潤んだ瞳がグリーンで柔和な印象だ。

 髪は淡い茶で、くりくりとし、前髪が分かれており、後ろで一つに束ねている。

 黄緑色のセーラー服に黄色のタイを水色のスターが留めている。

 後ろには、黄色い花畑が霞む。


「ニャートリーノ」


 ニャートリーから女神様の後ろに大きくブルースクリーンが出された。


 ========☆

 菜七なな


 HP  0100

 MP  0100

 【抱菜ほうな】0001

 ========☆


 さっきの櫻女さんに比べると、菜七さんは背が高いかな。

 中学のとき、こんな女子いたな。

 ――うーん、包まれたいや。

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