09 弄らないで黒歴史
★=== クエスト002 ===★
この二つの種を発芽させる。
報酬は、新しい花。
================★
ああ、このクエストも終わったんだな。
点滅した後、表示が消えた。
天から手元に雪のようにふわふわした種が降って来た。
掌でほっほっとお手玉状態になる。
ちょっと楽しくなっていたら、いきなり声を掛けられて、びくついただろうに。
「あの、肩とか凝っていませんか?
ぎゃー!
菜七さんってば。
恥ずかしいのだよ。
女子よ、話し掛けないでくれよ。
女子高生女神でも、女子は女子だ。
俺、チキンなんだよ。
ハツもチキン並み。
「これしきのことで、凝りはしないぞ」
俺は、鼻をへんっと指で拭った。
「もしもお疲れでしたら、この温湿布を貼ってくださいな」
しかし、癒やされていたのだ。
温湿布にだよ。
「いや、それは」
思わぬ展開にオロオロとしてしまうではないか。
「多分、腰の辺りがお疲れなのだと思います。皆さんで仲良くお仕事をしましょう」
腰の辺りが、ほかほかとしてきたぞ。
誰も触れていないのに。
きらきらきらきら……。
菜七さんから星が降る。
黄色い星が降る。
これが、女神御用達の湿布なのか。
金平糖のような甘ったるい感じでとろけてしまいそうだ。
「は! これが、【抱菜】か。うっかり、涎まで出てしまったではないか。全くもう」
菜七さんのスクリーンを見れば、【抱菜】のゲージが頭打ち近い。
========☆
菜七
HP 0081
MP 0052
【抱菜】3000
========☆
「大神さん、お気に召しましたか?」
「はい! 流石にレベルの違いを感じました」
俺の天にも昇りそうな気持ちがつい口に出てしまった。
「大神くん。私とのレベルの違いがデータに……。出ていませんね」
「さっきの【散桜】は、2000だったぞ。櫻女さん、素直になろう」
可愛い筈の女神一号櫻女さんと火花を散らす。
「穏やかに静かにした方がいいと思う。ほら、何かの息吹が聞えませんか?」
ぽんっ。
ぽぽぽぽん。
小さいけれども賢明に可食部を作ってくれている。
俺、ちょっと感涙かも。
農業って、ゲームでしか体験したことがなかったからな。
この異世界で、収穫も早そうだ。
旬をいただきたいものだ。
トマトのような真っ赤な瑞々しさを丸齧りしたい。
「あ、【蔬菜】――。ぽんぽんしたかな」
「大神くんて、幼稚な言葉を使うね」
櫻女さんが、俺を突っつく。
一瞬、ニャートリーは天空を回っていたが、聞き耳を立てたようだ。
俺の方へ滑空して来た。
「え!」
俺自身の反応が遅れてしまった。
菜七さんもすかさずフォローに回ったが、詰まらないことで空気が淀んだ。
「櫻女さん、そんなことないと思う」
「ニャンニャー」
========☆
櫻女
HP 0053
MP 0021
【散桜】0003
========☆
「ひ! 私のデータが改ざんされているね」
「ニャー!」
「おいおい。珍しくニャートリーが怒っているのか? 俺が働かないから怒るのではなく、女子高生女神に」
肩に乗っていたニャートリーが、櫻女さんに向かって行く。
可愛いがられるよりも物事の天秤になっているのか。
見直したよ、ニャートリーよ。
「トリー」
突っつき。
突っつき。
つつ、突っつき。
「はうん。言い過ぎましたね。大神くん」
「フンニャッ」
俺、ここでお礼をしたいと思ったのだけれども、声が風になって、何も届かない。
変な汗を掻いて、本当に、だめだっと自分で思うよ。
◇◇◇
「ありがとう。自己紹介タイムで頼む」
無理矢理切り返してしまった。
俺って、さっきと同じことしているな。
「のんびり屋でおっとりしているだろう、菜七さん」
「はい、ありがとうございます。褒め言葉だと思う」
いい人だな。
それで十分だと思うよ。
何て、口癖の語尾を真似て思う。
「
いかす!
俺もギターを齧ってました。
でも、下手過ぎるし、マニアックな歌手が好きだから、内緒だ、内緒。
「ほうほう、菜七さん。ギターか。どんなのが好きなんだ」
「黒歴史を爆発させてしまうけれども、アニメソングやニューミュージックだと思う」
キター!
感性が合うかも知れない。
「ニャンニャ」
大丈夫だよ、ニャートリー。
俺、シャイだから。
それ以上に進行しないから。
「感動することって、やはり歌関係かい?」
「歌声の素敵な方に惚れっぽくって、笑われいると思う」
俯くと、大柄な感じがちょっと守ってあげたいタイプになるのだね。
菜七さんのいい所がどんどん溢れて来る。
「好き嫌いとかってある?」
「牛乳かんは、ちょっと苦手だと思う」
「ははは。俺は大好きだけれども」
おおー!
何と話を合わせてくださる女神様なのだろうか?
櫻女さんと真逆な感じがしないでもない。
「大神くんは、私が最初に会ったね」
櫻女さんたら、どうしたのかな?
「私は、二番目にお会いしたと思う」
菜七さんも聞いてます?
「ニャニャ」
「ぶふふ。ニャートリーが一番だってさ」
恥ずかしいけれども、ハーレムは、嫌いではないぞ。
ニャートリーって、オスメスがあるのかな?
まあ、猫鶏とは、どうにもなりませんが。
「よし、ぽんの音もラストだ。収穫してみよう」
俺は、ヤシの実に似た殻を籠にする。
くんっと香るは夏の匂い。
そして、秋の匂い。
「トマト、トウモロコシ、ジャガイモ……。その他、何か一種」
頭を掻いても分かる訳がない。
ニャートリーに手を振ってみた。
「その他はいけないな。調べるか。術はないかな?」
ニャートリーが往復十分で、書物を落してくれた。
俺は、東大学出の頭脳で、速読で全部読み切ってしまった。
「これだ! ありがとうな、ニャートリー。『アグリカルチャー・アカデミー』とはいい感じだ」
その他の植物は、マイマイネという異世界独特のものらしい。
すうっと立った
食べ方は、工夫するようにと書いてある。
★=== クエスト003 ===★
【蔬菜】ぽんぽん種で四種の作物を得る。
================★
「先程のクエスト003が点滅して、消えた。やった! クエスト003、クリアだ!」
「大神くん! おめでとうね」
「大神さん! ありがとう」
さっきは、皆の前で大喜びしたが、今となっては恥ずかしい。
女子の前だからな。
俺が、女の子のことをじょしと呼べなくなった日をありありと思い浮かべられるよ。
中学一年生の時だ。
――封印したい黒歴史だね。
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